唐突な追放
窓の外から聴こえる小鳥の囀りに起こされ、体を起こすと、相変わらずこの間の夜に受けた傷が少し痛んだ。正確に言うと傷というよりは打撲だろうか。ほぼ完治している上に、ユリアが施した魔法によって傷はだいぶ癒えていた。
あれから一週間が経ち、それまでとさして変わり無い日常が戻って来ていた。
あれだけ強気になって俺を脅していたものの、ジュリアンも特に何かを仕掛けて来た、という事もなく、あの夜の出来事が本当に夢だったのではないかと錯覚してしまうようだった。
「……まあ夢じゃないんだろうけどさ……」
そんな独り言を呟きながらクローゼットを開くと、左端にボロボロになったスーツが吊るされていた。
あの夜の後、申し訳程度に洗ってそのままクローゼットに吊るしておいたそのボロボロのスーツを手に取り、破れた部分を手でそっとなぞると、荒々しく引き裂かれたスーツの断面から、少しざらざらとした感触が伝わり、あの夜が夢ではない事を改めて物語っていた。
気を取り直し、そのスーツをクローゼットに戻し、それとは別のスーツに袖を通し、部屋を出た。
広間へ向かうと、使用人達が集合しており、慌てて広間の中央へ向かった。
「すいません! 遅れました!」
「構わん、これで全員か?」
「多分これでーー」
「全員います、始めてください」
俺が言うのを遮るようにジュリアンは全員の集合を告げ、執事長に要件の説明を促す。
「……ではーー」
「これは〜僕から直接言い渡そうじゃないか〜」
唐突に書斎の扉が開き、堂々とした様子で地主が出て来た。
それと同時に執事長は苦い顔をした後、諦めたように目を閉じた。
「本日をもってアルフレート・ラインブルグを執事長から解任、以後はジュリアン・クリスハイトを執事長とする。」
執事長の言っていたそれは唐突に訪れた。今この場で、執事長はその立場を失った。これより先、彼は俺達と同じようにただの一人の使用人としてこの屋敷に仕える事になった。
更に追い討ちを掛けるかのように地主は続ける。
「それと、ライル・ベルンハルト」
「は、はい!」
「お前、今日でクビな〜? 今日中に〜この屋敷出てってくれ」
「……かしこまりました……」
執事長の解任、俺への解雇通告、この二つの出来事が他の使用人達をざわつかせた。
もう一人の当事者である執事長、いや、この場ではアルフレート・ラインブルグなる彼は、依然目を閉じ、微動だにしなかった。
「元執事長、どいて下さい? ここは今日から僕の場所です」
「……御意……」
彼はそれ以上言わず、集団の端、俺の隣まで来た。
「じゃ、要件これだけだから、みんな仕事よろしく〜」
その言葉を合図とするかの様に、使用人達は足早にそれぞれの持ち場へと向かって行った。
そして広間には俺とジュリアン、そして執事長が残った。あくまでも、俺の中での執事長は彼のままだった。今後も変わる事はないだろう。
しかし事実としての彼はもう、この屋敷の執事長ではない。
「で、部外者のお前がいつまでここにいるつもりなのかな? 早く出て行きたまえよ」
「……お前……」
「どうした? 悔しいか?……ククク……だろうなぁ! 僕はお前のそんな顔が見たかったんだよぉ‼︎」
「……その辺りにしておけ……お前はもうこの屋敷の執事長なのだろう?……ならば、それに相応しい振る舞いがあるだろう」
執事長は、アルフレートはそう言ってジュリアンを諌めた。ところが、それが気に食わなかったらしく、ジュリアンは激昂した。
「黙れ! あんたはもう執事長じゃない! 執事長は僕だ! あんたが僕に指図をするなぁッ‼︎」
そう喚きながらジュリアンは彼の頭を殴りつける。執事長は避ける事すらせず、それを受けた。
「……いいか? この屋敷の使用人の中で一番僕が偉いんだ……僕に指図したりしていいのは地主様だけだ……」
喚き過ぎで疲れたのか、ジュリアンは息切れしながらそう言った後、広間を去った。




