魔女の証明
「……おいで」
彼女がそう呟くと、辺りに蛍が灯す明かりより少し大きいくらいの小さな灯りが、ぽつりぽつりと数を増やしていき、辺り一面に広がっていった。
「……こりゃたまげたな……」
「どう? 綺麗でしょ?」
「……あぁ、そうだな……驚いたよ」
その光景は幻想的で、これが夢なのか現なのかわからなくなるようだった。
気付けば違和感の事や不安などどうでもよかった。それほどまでに、今目の前に広がるそれが魅力的だった。
「この子たち、こうすると寄って来るんだよ」
そう言ってユリアは重ねていた手を解き、手を広げると、彼女の近くに浮かんでいた灯りの幾つかが彼女の掌の上で留まり、仄かに輝いている。
彼女に促され体の前で掬い上げるように手を重ねると、彼女の手元にやって来たそれと同じように、掌の上に留まった。
「なぁ、結局これって何なんだ?」
「うーん、私にもよくわからないんだけど、オーブって言うのかな?多分そんな感じのだと思うの」
「結局お前も分からないのかよ……」
彼女のそんな間の抜けた返しに安堵と呆れが混じった溜め息が出る。
そうだ、いつものユリアだ。少し子供っぽくて、無邪気で、悪意なんて欠片も無い。ここに来るまでに考えた事など、全て杞憂だ。
雑念を振り払うように顔を横に振った後、改めて掌の上に浮かんでいる灯りをよく見ると、蛍のように光を放つ何かが中央にある訳ではなく灯りそのものがそこに存在しているようだった。
「ふふっ、どう? 気に入ってくれたかな?」
「……そうだな……正直何て言えばいいのかよく分からないんだよな」
「気に入らなかった……?」
「いや、なんて言うかな。 上手く言えないんだよな。 凄く綺麗なのは確かなんだ」
「それでいいんじゃないかな? 別に何か難しい事なんて考えないで、単純に思ったように言えばいいんだし、凄く綺麗って聞けただけで私は嬉しいな。」
ユリアはそう言って柔らかくはにかんだ。辺りに浮かぶ灯り達も呼応するようにその輝きを強弱させていた。
「ねぇ、これで私が魔女だって信じてくれる?」
「……え?」
唐突にそんな話を振られ、聞き返してしまった。この場で今起きている事が、自身が魔女である事の証明だと言うのか。
彼女が魔女であると認める事に大きな抵抗があった。少し髪の色や眼の色が他人のそれと少し違うだけ、村の連中が少し過敏に反応しているだけだと。そう思っていた。
だが目の前の光景は彼女がただの人間とは違う存在である事を如実に語っていた。
「……魔女……か……」
「やっぱり信じてくれないかな……?」
「いや、ここまで見ておいて信じないなんてそれこそありえないだろ? 認めるさ、認めるけれど……」
彼女は魔女である。その事実が、彼女を遠い存在にしてしまうようで、自分が近くに居ていいような存在ではなくなってしまうような気がして、不安になった。
「大丈夫! 私はちゃんと此処にいるよ。 そんな悲しそうな顔をしないで……?」
「……ははっ、情けねえなぁ……」
ユリアは俺の手を取り、顔を覗き込んでいた。
その顔は子供を諭す母のようで、穏やかだった。
「私が魔女だからって私の心まで変わりはしないもの。 だから変な心配して気負わないで」
「悪い悪い。 らしくもなかったよな」
俺の手を取る彼女の手を握り返し、少し照れ臭そうに笑みを浮かべると、不思議と気持ちが落ち着いていった。
そんな平穏な時間を、情けない叫び声が打ち砕く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「……何だ⁉︎」
何か黒い塊のようなものがこちらに吹き飛ばされ、転がっていた。
「お前、何で此処にいるんだよ……?」
「り、理由なんかどうだっていい! 僕を助けろよ!」
吹き飛ばされてきた黒い塊。それはこの場所に居るはずがない、ジュリアンだった。
どうしてジュリアンが此処に居るのか、そんな事はどうでもよかった。いや、どうでもよくはない。それほどまでに、そんな事がどうでもよくなるくらいに、信じられない光景が広がっていたからだ。
「……何……あれ……あんなの、私は見たことないよ……」
「……嘘だろ……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
そこに居たのは。熊の体躯のそれを軽々と上回る程の、巨大な狼だった。




