不穏の兆し
昼とは趣向を変え、夜はシチューを持って行くことにした。
バッグにパンを入れ葡萄酒の入った水筒を肩から提げ、両手でシチューの入った小さめの鍋を持つ。腰に携帯用の小型のランタンを提げ、屋敷を出ようとすると、玄関口にジュリアンが立っていた。
目が合い、思わず立ち止まると、ジュリアンは何も言わず、こちらを訝しげな顔で見つめ、扉を開いた。
「……なんだよ、また嫌味か?」
「お前、いつも思っていたが、何故魔女の元へ行くのにそんなヘラヘラとしていられるんだ?」
「は?」
問いかけの意味が理解できなかった。魔女の元へ行くのに何故ヘラヘラしていられるんだ?と、無意識に顔が綻んでいたのだろうか。
だとしてもわざわざ噛み付くような事だろうか? 仕事中に気が緩んでる、とでも言いたいのだろうか。
「別に何もまずい事なんてないだろ?」
「魔女だぞ? 何をされるかもわからない相手の所に行くのによくそんなにヘラヘラしていられるな……」
「だからそんな相手じゃないって言っているだろ? お前ら気にし過ぎだろ?」
相変わらずジュリアンは顔を曇らせたまま、不服そうな様子で扉を開けた。
その視線には不満以外のものも感じた。
「……早く行け、僕にいつまでも扉を持たせるな、お前は僕より格下なんだから」
「はいはい、わかったわかった、言われなくてもさっさと行くって」
急かすジュリアンを横目で流し、扉を抜ける。
通り過ぎざまにジュリアンが何かを口にした。
「……魔女……て……いな……ればーー」
最後の方は、扉が閉まるバタンと言う音に掻き消されてしまい、上手く聞き取れなかった。
魔女がどうこう、聞こえた所だけでは何を言っていたのか判断しきれなかったが、彼のあの顔を見る限り、いい意味で放たれたものではないだろう。
「……だからみんな気にし過ぎだっての」
愚痴をこぼすようにそう呟き、屋敷の横にある森の小道へと向かう。
日は沈み、辺りは暗くなっていたが、月明かりで心なしか少し明るく感じた。そっと耳を澄ますと、虫の鳴き声が聴こえてきた。
「さてさて、冷めないうちに持ってきますかねぇ……」
小鍋を持ち直し、月明かりに照らされた小道を進む。
しばらく進むと、妙な違和感があった。
「……獣か? それにしては少し大きいような……いや、気のせいか」
何か、獣より少し大きい、熊よりは小さいか、そんな何かが近くにはいるような、そんな気がした。
「ま、とりあえずサーベルくらいは持ってるし何とかなるよな……」
そんな安易な考えをした事を、俺は後々後悔する事になるのだった。




