第3話:不屈の眼光(※ただの恍惚)と屈服
「ハァッ! ハァッ! 死ねぇぇぇっ、平民ぃぃぃッ!」
夕暮れの練兵場に、激しい斬撃音と紫電の散る音が何度も響き渡る。
シュバッ! ビキビキッ!
「――ッっ〜〜〜〜〜〜!?!?」
(ひ、ひぃぃぃぃぃぃッ!? 2撃目! 3撃目ぇぇぇッ!!)
アルフォンスが放つ魔剣『紫電』の刃が、俺の腕や肩をかすめるたび、ダイレクトに神経を焼き切るような甘美な激痛が全身を貫く。
1発ごとに脳内麻薬がドバドバと決壊し、全身の全細胞が喜びで歓喜の悲鳴を上げていた。
【固有スキル:『痛覚=昇華』発動中】
連続神経刺激を検知 ──> 脳内麻薬(極大)に変換します。
【ステータス変動】
HP:15/15(※完全無傷)
STR:70 ──> 120(UP!)
VIT:250 ──> 380(UP!)
(やばい……やばいやばいやばい! 連撃になると快感が重なって波みたいに押し寄せてくる……っ! 脳みそが完全に溶けて蒸発しちゃう……っ!!)
俺は快感のあまり、膝の力が完全に抜けてガクガクと震えていた(※恍惚で腰が抜けているだけ)。
目口をだらしなく開けて「あひぁ」と絶頂の悲鳴を漏らしそうになる。
だが、それを許さないのが悪魔のパッシブスキル『恍惚の鉄壁』だ。
ガチッと顔筋が固定され、俺のだらしなく蕩けた絶頂顔は――『どんな猛攻を受けても微動だにせず、静かに牙を研ぎ澄ませて立ち続ける不屈の聖者』の顔へと補正される。
「ハァ……ハァ……! な、なぜだ……!? なぜ倒れん……! なぜ叫ばんのだぁぁぁッ!?」
何十発もの激痛攻撃を叩き込んだアルフォンスが、肩で激しく息を吐きながら後退した。
彼の額からは、ダラダラと冷や汗が吹き出している。
握り締めた魔剣の手が、恐怖でガタガタと震えていた。
(ば、化け物か……!? 『紫電』の激痛をこれほど受けて、なぜ立っていられる……!? 普通なら1発で発狂して精神が壊れるはずだぞ……!?)
アルフォンスの目には、こう映っていた。
無数の激痛を全身で受け止めながらも、一切の苦悶の声を上げず、ただ静かに……ぞっとするほど深く澄んだ眼光で自分を見つめてくる少年の姿。
その瞳の奥には、自分など到底及ばない『果てしない覚悟の深淵』が広がっていた。
(こ、こいつは……俺を倒そうとすらしていない……。ただ俺の攻撃を……俺の不完全な覚悟を、全身で受け止めて『赦して』いるとでもいうのか……!?)
「あっ……あ……」
アルフォンスの手に握られていた魔剣『紫電』が、カラガラと音を立てて地面に転がり落ちた。
「俺の……勝ちだと思っていた……。平民と見下し、卑怯な魔剣で苦しめれば、俺の優位が示せると思っていた……!」
アルフォンスはガタリと両膝を地面につき、両手を土に突いた。
涙がボロボロと溢れ落ち、プライドが粉々に砕け散っていく。
「だが違った……! 俺のプライドなど、お前の……お前のその途方もない覚悟の前には、あまりにも惨めで、薄っぺらかった……ッ!」
「え? いや、アルフォンスさん? 僕はただ凄く気持ちよかったというか――」
「言わないでくれ、リアム様……っ!」
アルフォンスは深々と頭を地面に擦り付け、絞り出すような声で叫んだ。
「俺の負けだ……! 完全に俺の敗北だ! どうか……どうか俺を、あなたの従者にしてくれ! あなたのその背中から、真の『覚悟』というものを学ばせてほしい……ッ!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
(いやいやいや! 従者になったら二度と攻撃してくれないじゃん!? 最高のダイレクトご褒美攻撃を繰り出してくれる貴重なデリバリー(攻撃役)だったのにぃぃぃぃッ!?)
俺が悲しみのあまり絶望の表情を浮かべると(※アルフォンス視点では『過ちを犯した自分を温かく受け入れてくれる聖者の表情』)、取り巻きの生徒たちも「アルフォンス様を改心させた……!」「なんてお方だ……!」と涙ぐみながら拍手を始めのだった。
こうして、俺の『ご褒美供給源』がまた一つ減り、代わりに「熱血信者1号」が誕生してしまったのだった――!




