第4話:焦りの危険地帯(魔王城方面)ソロ突撃
「このままじゃ……僕のドM人生が完全に終わってしまう……ッ!」
黒鉄の砦の激戦から数日。
『名誉聖者』リアムの名声は大陸全土へと轟き、どこへ行っても「聖者様!」「我々の希望!」と歓声で迎えられるようになっていた。
だが、当の本人は自室のベッドで頭を抱え、深刻な焦燥感に苛まれていた。
理由は明確――【耐性スキルが生えすぎて、ちょっとやっとの攻撃では一切気持ちよくなれなくなったから】だ。
ちょっとした打撃や魔法程度では、高まり切った『物理耐性(極)』と『魔法耐性(極)』がすべて弾き返してしまう。
刺激レベルはほぼゼロ。快感インフレの末に訪れた、凄まじい「ご褒美飢餓」状態だった。
(ぬるい! 騎士団の訓練も、街のならず者の殴り込みも、全部ぬるすぎる!! 欲しいのはそんな生ぬるい刺激じゃない……! 身体が消滅しかけるレベルの超極大魔法や、死の呪い、地獄の毒沼なんだよぉぉぉッ!!)
俺は己のステータス画面を睨みつける。
【現在の耐性・防御力】
・VIT(耐久):9,999(測定不能)
・全属性耐性:極(ほぼ無効)
※過度な耐性獲得により『痛覚=昇華』の発動効率が低下中。
(耐性の防壁を突き破るほどの『殺意』と『超威力』……それを保有している場所はどこだ……?)
思考を巡らせるまでもない。
答えはひとつ――魔王軍の本拠地、魔王城領域だ。
あそこなら、常識外れの凶悪なトラップ、猛毒の環境、そして魔王直属の幹部たちが蠢いている。
(あそこに行けば……! あそこなら、僕のこの頑丈すぎる身体を突き破る『至高の刺激』が待っているはずだ……ッ!!)
決断したら行動は早かった。
俺は真夜中、親衛隊やアルフォンスたちが熟睡しているスキを突き、一通の書き置きを机に残して、一人静かに砦の窓から飛び出した。
『みんな、ごめん。僕は一人で魔王城へ向かいます』
ただそれだけの短文。
(※本人の意図:「引き止められると邪魔だから、ご褒美を求めてソロで行くね」)
◇
翌朝。
リアムの部屋を訪れたアルフォンスとエレノアは、空になったベッドと机の上の手紙を見て絶句した。
「な……リアム様が……いない!?」
手紙を開いたアルフォンスの手が、ガタガタと激しく震え出す。
「『一人で魔王城へ向かいます』……だと……!? バカな、いくらリアム様でも、たった一人で魔王軍の本拠地に突入するなど自殺行為だぞ……ッ! なぜだ、なぜ急にこんな無茶を――」
「……分かります」
ぽつりと呟いたのは、聖女エレノアだった。
彼女の瞳から、ボロボロと大きな涙が溢れ落ちる。
「リアム様は……知っておられたのです。魔王軍の脅威を退けない限り、この世界に本当の平和は訪れないということを。そして、私たちがこれ以上傷つかないよう……全ての苦しみと犠牲を、たった一人で背負おうとされたのです……ッ!」
「な……なんだと……!?」
「あの方の身体は、すでに前線の拷問でボロボロのはずです(※全快しています)! なのに……自分の命のことなど一微塵も考えず、世界のために……私たちのために、一人で地獄へ飛び込まれたのですよ……ッ!!」
「リアム様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
アルフォンスは天を仰ぎ、声を放って慟哭した。
「どこまで……どこまで高潔なお方なのだ……ッ! 己の身を削り、激痛と死の恐怖を引き受け、一人で魔王と戦おうなどと……ッ! おのれ、俺は何を指を咥えて見ていたのだ……!!」
アルフォンスは勢いよく腰の剣を抜いた。
「追うぞ、エレノア! 騎士団全軍を率いてリアム様の後を追う! あのお方を……俺たちの尊き聖者様を、絶対に一人で死なせはしないッ!!」
「はいッ! 何としてでも、リアム様をお助けします!!」
◇
その頃――。
「ヘッヘッヘ! 最高の夜風だなぁ〜!」
周囲の悲壮すぎる過剰深読みなど知る由もない俺は、夜の闇を突き抜け、ウキウキとした足取りで魔王城方面の危険地帯へと向かって爆走していた。
(待ってろよ魔王城! 待ってろよ魔王ヴァルザード! 僕のこの退屈な身体に、思いっ切り強烈な『激痛とご褒美』を叩き込んでくれぇぇぇッ!!)
希望と変態的欲望に胸を膨らませながら、単身突撃するドM聖者。
その後ろから、号泣と感動に満ちた王国軍の大遠征隊が追いかけてきていることなど、彼はまだ知らなかったのだった。




