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『聖女モモ・ルーと冥界の女神』第三部 天界編   作者: Toru


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第一章 天界の門の真実 第一話 魔界を照らす光

ゴゴゴゴゴ……


魔王城アストラ・デモニカの真上の空が裂けた。


紫の月が砕け散り、黒い霧が吸い込まれるように消えてゆく。

その中心に――黄金の縁を持つ巨大な門が、ゆっくりと姿を現した。


天界の門が、魔王城アストラ・デモニカの真上に現れたのだ。


そして開くはずのない門が、軋むような音を立てながら、ゆっくりと開いていく。


ギギ…ギギギ…

ガゴンッ…


開いた門の中は、眩い光で満ち溢れていた。


門の内側から溢れ出した光は、太陽の光とは違った。

暖かさも、生命の気配もない。

ただ、冷たい美しさだけが世界を満たしていく…


不意に、四方に光が放たれる。


天界の門から伸びたその光は、魔界全土を照らした。


光は、モモ・ルー達が通ってきた魔獣が棲む森や岩山にも届く。


「何だ?あの光は?」

木の上に巣を作っていたマークウッド・スパイダーの群れに光が当たる。

光が触れた瞬間、魔物たちが悲鳴を上げた。


「ぎゃああああっ!」

「身体が……浮く……!」

「やめろ!離せ!離せぇぇぇ!」


マークウッド・スパイダーの群れが、木の上から引き剥がされるように空へ吸い上げられる。


岩山や洞窟や地中でさえも、光は生き物のように曲がりくねり、ありとあらゆる隙間から入ってくる。


「ウガッウガッガー!!」


洞窟の奥で息を潜めていたグリムロックも、地中に潜んでいたワームも、

光に触れた瞬間、抗うことなく空へと引きずり出された。



「ハイ・オークのおっさん…」

「おい、勝手におっさん呼ばわりするな」

「あれ…何だ?」


ホブゴブリンの若者が指差す方向に黄金に輝く何かが見える。

突然、何かに照らされ、目の前が眩しくなった。

地表を歩いて旅をしていたハイ・オークとホブゴブリンの二人にも、天界の門からの光が当たったのだ。


「うわぁ!」

「掴まれ若造!」


咄嗟に、ハイ・オークは持っていた鉄斧を岩に打ち込んで身体を支え、浮き上がりかけたホブゴブリンを捕まえる。

彼は空に吸い上げられまいと必死にハイ・オークにしがみついた。


「い、一体何が起こっているんだ!」


ハイ・オークが空を見上げると、無数の魔物達が吸い上げられ中を舞っていた。

そしてそれは、ある方向へと流れていくが様子見て取れた。


「…何だ?皆あの門の方へ流されているのか?」


空にできた魔物達の川は、魔王城の真上に現れた黄金に輝く巨大な門の中へと続いていた。




魔物のメトロポリス・デモニカでも同じ事が起きていた。


「ぎゃああああっ!」

「身体が…引っ張っられる!」

「助けてくれ!」


魔物街プレベイアで魔物達を仕切っていたオーガの耳に飛び込んできたのは、悲鳴をあげる魔物達の声だった。


「何事だ!」


外に飛び出して見ると、空の上に浮かぶ黄金に輝く巨大な門

そしてそこから魔物街プレベイアへと伸びる光…

その光の中に吸い込まれ、空へ昇ってゆく魔物達。


「ギャアッ、ギャアッ」

「ギギギッ」

「ガオオォォォッ!」


光はワイバーンやケルベロス、グリフォンといった魔獣までも呑み込み、空へとさらってゆく…


「くそっ!皆逃げろ!」


オーガが叫んだものの、光に追いつかれ次々と空へ連れ去られる仲間達


「まっすぐはダメだ!横に逃げろ!」


何とか仲間を助けようと声を張り上げるオーガに向かって、光が迫って来た。


「まずい!」


オーガは横路へ飛び込み光をやり過ごす…


「ヤバかったが、直進なら避けられ…!」


しかし、オーガを追っていた光は、まるで生き物のようにグニャリと向きを変えオーガを照らしたのだ。


「そんな、バカな…うぉおっ!」


オーガの身体は浮き上がり、他の魔物達と同じように天界の門へと吸い込まれていった。






一方、貴族街アリトクラティアでは…


魔王城の地下、そこは主に魔王に歯向かった者が収容される地下監獄になっている。


イスバザデンとその娘ペンカウラは、二人共『角落とし』の刑に処され、監獄の中にいた。

魔族にとって、二本の角は魔力の源と言われており、角を切り落とされると魔法が使えなくなるどころか、力も人間並みになってしまう。


「お、お父様〜(泣)」


「おお娘よ…可哀想に…」


泣きつく娘をなだめるイスバザデン

しかし彼も角を切り落とされ、全くなす術がなかった。


突然、光が地下監獄の中を駆け巡った。


「な、なんじゃ?今のは…」


「お父様、衛兵達が…、」


光が過ぎ去った後、衛兵達の様子が一変する。


武器や道具が手からスルリと床に落ちる。

しかし誰も拾う様子がない。

腕は、まるで力が入っていないように、だらりと下がっている。

皆、表情がなくなり、そのまま全員が階段を登っていってしまった。


「一体何が起きたのじゃ?」


「お父様!あそこに鍵が!」


衛兵が落したのだろう鍵束が床に落ちていた。





「はぁはぁ、お父様…後少しです、階段を登って下さい」


「わ、分かっておる…ふうふう」


監獄から逃げ出したイスバザデンとペンカウラだったが…

父娘が貴族街アリトクラティアで見たものは、異様な光景だった。


「なんじゃ…これは」


魔族たちが、光に触れた瞬間、動きを止めた。

次の瞬間、整備された通りに、整列し始めた。


一糸乱れぬ動き。

同じ歩幅。

同じ速度。

同じ方向。


「……まるで……操られている……」


ペンカウラの声は震えていた。


魔族たちは列を成し、天界の門へと歩いてゆく。

まるで何かのスイッチが押され、プログラム通りに動くロボットのようだ。


その姿は、“処理されるための家畜”だった。


「お、おい…お前達、何処へ…」


魔族達の目にはイスバザデンの姿は映っていないかのように、目の前を通り過ぎてゆく。


続々と天界の門へと歩いてゆく魔族達…

吸い上げられ、次々と空を川のごとく流れ、天界の門の中に消えてゆく魔物達…


「一体何が起きているの…」


表情を変えず歩いてゆく魔族達を見てペンカウラは、背筋が寒くなる思いがした。


第一話 魔界を照らす光 おわり



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