第五章 世界の終焉 第四話 新しい生命
「この辺りなら良かろう。」
ヘカテーは、モモ・ルーとエンプーサを僅かに残った地上へと連れてきた。
「間もなく、天使達や神族も助け出した魔物達を連れて地上界へやってくるだろう…
これからは、神の助けはない。
お前達の力だけで生きてゆくのだ。」
「はい、それこそが私が望んだ世界です。」
「そうか…では私は空の上から見守るとしよう」
「ヘカテー様…お別れなのですか…」
ヘカテーは優しくモモ・ルーを抱き締めた。
「エンプーサ」
「はい、ご主人様」
「…お前には、この娘を生涯守る役目を授ける」
「生涯、ですか?」
「そうだ。
この娘は、世界の未来を抱えている。」
モモ・ルーは胸に手を当てた。
その奥で――
小さな命が脈打っていた。
「……ヘカテー様……
もしかして……」
ヘカテーは微笑んだ。
「気づいたか。
お前の腹には、モルモーと魔王の子が宿っている。」
モモ・ルーは震える声で言った。
「……この子が……
ヘカテー様が言っていた“希望”……?」
「そうだ。
この子は――エルピーダ。
三世界全ての力を継ぐ者…
世界の希望だ。」
「もしかして…
もしかして、あの三色の炎は…
あれは、この子が…」
ヘカテーは新しい生命が宿っているモモ・ルーのお腹に手を当て、愛おしそうに見つめた。
「母を助けたのだな…優しい子だ…」
モモ・ルーは顔を上げた。
「ヘカテー様……?」
ヘカテーは、ゆっくりとモモ・ルーの胸に触れた。
赤黒い紋章が、静かに光を失っていく。
「契約を破棄する。」
刻まれていた赤黒い紋章が消え、元の聖女の紋章が浮かび上がる。
漆黒のドレスは純白の聖衣に変わった。
「モモ・ルー、お前は優しすぎる…
黒き聖女は、お前には似合わないようだ」
ヘカテーはモモ・ルーとの契約を破棄し、聖女へ戻るよう促した。
「聖女モモ・ルーよ、生き残った者達を導け」
「ヘカテー様は?」
「冥界も片付ける事が山積みだ」
「…しょうがない!私が聖女様を手伝ってやるよ。」
そう言いながらもエンプーサは嬉しそうだった。
ヘカテーはもう一度モモ・ルーを抱きしめる。
「モモ・ルーよ。
くれぐれも身体を大切にな。」
モモ・ルーは涙を流した。
「ヘカテー様……
行かないで……」
ヘカテーは優しく微笑んだ。
「寂しがるな。
気が向いたら、奇跡でも起こしてやろう。
私《神》の存在を示すためにな。」
ヘカテーの身体が光に包まれ、
ゆっくりと空へと昇っていく。
「ヘカテー様……!」
「モモ・ルー。
世界を――頼んだよ。」
ヘカテーは空の彼方へと消え去った。
そして、魔族達を送り届けた天使と神族達が、ヘカテーを追うように、空へと昇ってゆき、消えていった。
モモ・ルーは崩れてしまった世界の中で、
エンプーサと共に立っていた。
「……行こう、モモ・ルー。
生き残った者たちを助けに。」
モモ・ルーは涙を拭き、
静かに頷いた。
「はい……
それが……今の私の使命です。」
世界は崩壊した。
だが――
新しい世界は、ここから始まる。
第四話 新しい生命 終わり




