鉄の首輪と蘇りし者
風が木の葉をそっと揺らす。スヴェンは木の幹に背を預け、小石をいくつか投げて遊んでいた。
「お兄ちゃん、冒険者?」
スヴェンが振り返ると、そこにはぼろぼろのぬいぐるみを抱えた小さな女の子が立っていた。
「どこから来たんだ、お前。俺は支配者だぞ」とスヴェンが答える。
「王様じゃなさそうだけど」
「その通りだ、小娘」
「じゃあ、なんでお兄ちゃんは王冠じゃなくて鉄の首輪をしてるの?」
瞬間、スヴェンの顔が怒りで歪み、立ち上がる。女の子はすぐに逃げ出した。
「逃げろー! 怖い人がいるー!」と女の子が叫ぶ。
「行け。お前は礼儀というものを学ぶべきだ」とスヴェン。
その言葉が自分自身に刺さる。ついさっき、同じ言葉を年老いた男から聞いたばかりだというのに。
「スヴェン……スヴェン!」
「スヴェン!」フレダの叫び声が響く。
「なんだよ。叫ばなくても聞こえてる」とスヴェン。
「もうすぐ出発する。準備をしなさい」とフレダ。
スヴェンはフレダに従い家の中へ入る。中でフレダが一着のマシな服を投げてよこした。
「それを着なさい。少しは見られる格好になる」とフレダ。
スヴェンは微かに口元を緩めながら服を身に着ける。
「あのぼろ布よりはマシだな」とスヴェン。
「好きにしなさい」とフレダ。
スヴェンは大きな荷物を背負い、フレダの後を追う。外に出ると、老婆とぬいぐるみを抱えた少女が立っていた。
「フレダさん、パンと燻製魚を少し持ってきたよ。受け取っておくれ」と老婆が言い、動物の皮で包んだ食べ物を差し出す。
フレダはそれを受け取り、リュックにしまう。
「ありがとうございます」とフレダ。
「いいんだよ」と老婆。
「エルフのお姉さん、一つ聞きたいことがあるの」と少女が言う。
「何か用かい、小さなお嬢さん」とフレダ。
少女がスヴェンを指さす。
「さっきお兄ちゃんに会ったとき、自分は支配者だって言ってたのに、なんで王冠じゃなくて鉄の首輪をしてるの?」と少女。
スヴェンの顔が再び怒りに歪み、拳を握りしめる。少女は老婆の後ろに隠れた。
「逃げてー! お兄ちゃん怖いー!」と少女が叫ぶ。
「すまないね。この子はいつも王子様やお姫様の王冠に興味津々でね」と老婆が言う。
「構いませんよ」とフレダ。
「そうだ、老婆よ。俺はあのガキがまだ子供だってことは分かってる」とスヴェン。
フレダが指先から魔法を放ち、スヴェンの全身に激しい痛みが走る。
「す、すみませんでした、おばあさん」とスヴェンが震える声で言う。
「ああ……」と老婆が困惑したように応じる。
「それでは、旅を続けますので」とフレダ。
二人は老婆と少女に見送られながら、道を進み始める。
「フレダ、俺たちは一体どこへ行くんだ?」とスヴェンが尋ねる。
「それは私が決めることだ。お前の役目は私の命令に従うことだけだ」とフレダが返す。
「つまり、目的もなくぶらぶら歩いて、何かを調べてるだけってわけか?」とスヴェン。
「旅を楽しめ。文句は言うな」とフレダ。
しばらく歩き、森と小さな川を通り過ぎた後、二人は大きな木の下で休むことにした。
スヴェンが荷物を地面に下ろし、そのまま横になろうとした瞬間、フレダが氷の魔法で彼の腹の上に氷の塊を落とした。
「何をするんだ!」とスヴェンが叫ぶ。
「体が熱い時に横になるのは良くない。氷で冷やしなさい」とフレダ。
スヴェンは氷を掴み、岩の上に置く。風が通り過ぎると、より涼しく感じられた。
「扇がれるよりずっといいな」とスヴェン。
その間、フレダは木の周りを歩き回っていたが、足元で何かに躓く。人間の死体だった。
「どうやら二日前に死んだようだ」
フレダは死体の首の傷を調べる。そこには二つの噛み跡があった。
「吸血鬼か。久しぶりに見たな」
フレダは死体を調べ、シンプルな白い石のネックレスを見つける。それを引き抜いた。
彼女はネックレスを太陽の光にかざす。石の中で小さな光が蠢いている。
「これは……水の精霊石か」
フレダはネックレスをリュックにしまった。
「スヴェン、こっちに来なさい」とフレダ。
大きな木の陰からスヴェンが現れる。
「なんだよ。俺の楽しみを邪魔しやがって」とスヴェン。
「この死体を埋める穴を掘りなさい」とフレダ。
「何のためだ。このまま放っておけばいいだろ」とスヴェン。
「掘りなさい。さもなければ、今夜の食事はなしだ」とフレダ。
「さっきもまだ飯を食ってないんだが」とスヴェン。
「ならばやるしかないな」とフレダ。
「分かったよ」とスヴェン。
スヴェンは仕方なく大きな荷物から剣を取り出し、それで地面を掘り始める。
穴ができると、スヴェンは死体を抱え上げ、腐敗臭に耐えながら埋めた。
フレダは墓の上に石を置く。
「安らかに眠れ」とフレダ。
「安らかに眠れよ、アンデッドになるなよ」とスヴェン。
フレダは目を細め、眉をひそめる。
「間違ってるか?」とスヴェン。
「もういい。食事にしよう。私も腹が減った」とフレダ。
二人は元の場所に戻る。青い空は次第に暗い夜へと変わっていった。
焚き火の音と光が周囲を照らす。スヴェンは火を見つめながら小枝を投げ入れている。
一方フレダは、見つけた白い石のネックレスを手にしながら本を読んでいた。
フレダは本を閉じ、ネックレスを月明かりにかざす。石の中で何かがゆっくりと動いている。
「間違いない。この石の中に水の精霊がいる。だが……まるで胎内の赤ん坊のような状態だ」とフレダが小声で呟く。
「スヴェン、どこへ行くつもりだ?」とフレダ。
「腹が減った。さっきの川で魚を取ってくる」とスヴェン。
「さっき食べたばかりだろ。お前は本当にオーガみたいな奴だな」とフレダ。
「好きに言えよ。ちょっと行ってくる」とスヴェン。
「魚を捕ってこい。石を持って帰るんじゃないぞ」とフレダ。
スヴェンは来た道を辿って歩き出す。
「今夜は月明かりが雲に遮られてないのは助かるな」
川に着くと、水面に月が映っているのが見えた。
「さて、何で魚を捕るんだ」
スヴェンは十分に大きな枝を見つけ、先端を尖らせるように折った。
彼はゆっくりと川岸を歩きながら水中を観察する。
「おっ、あそこにでかいのが一匹いるぞ」
スヴェンは枝を魚目がけて投げつける。見事に突き刺さり、素早く魚を捕まえて岸に投げた。
時間を忘れて集中しているうちに、スヴェンは三匹の大きな魚を捕まえ、枝に刺していた。
「もう何年も料理人の料理を食べてないな……」
スヴェンの腹が激しく鳴る。
「自分で料理を覚えるしかないか」
スヴェンはフレダの元へ歩き始める。森の中、道の途中で彼は木の陰に立つ誰かの影を見つけた。
「出てこい。もう気づいてるぞ」とスヴェン。
影が木の陰から現れる。スヴェンの顔が驚きに歪む。
「まさか……さっき俺が埋めた奴じゃないか」
「ええ、あなたが私を埋めてくれたのを覚えてるわ。私の名前はヴィナ」
「あなたに聞きたいの。私から奪ったネックレスはどこ? あれは私の王国にとってとても大切なものなの」
「ネックレス? そんなもん知らねえよ」
ヴィナはうつむき、頭を押さえる。
[あの男の血を飲め] ヴィナの頭の中で囁きが響く。
「やめて……私は吸血鬼になりたくないの」
[生き返らせてやったことに感謝しろ] また囁きが。
「確かに生き返ったわ。でも……でも……」
「なんで一人で喋ってるんだ?」とスヴェン。
「ごめんなさい」とヴィナが言う。
「何がだ?」とスヴェン。
その瞬間、彼女の瞳が真っ赤に変わり、歯が吸血鬼のように鋭く伸びる。
「くそっ……魚を料理しようと思ったら、よりによって腹ペコの吸血鬼の女に遭遇するとはな」とスヴェン。




