出立と、名残惜しさ
大図書館、文化人類学コーナー前のテラス。
一般の来庁者の憩いの場でもある場所にリシェがたたずむ。
(はぁ・・・この図書館とも、この整然と佇んだ書架ともしばらくお別れかぁ・・・)
ため息の後思わず口に出る。
「このテラスで食べる図書館謹製のシフォンケーキが一番の楽しみだったのになぁ・・・。」
文化人類学司書としてこれまで人類が歩んできた歴史に触れることも楽しみだった。
約1000年前から開始した二連星双子星との星間交流、階級問題や権利問題など紆余曲折を経ての安定した現代社会の構築、星間法による教育の浸透、そして過去に多くの血を流しつつも歩んできた歴史たち、
彼女にとってここは天職ともいえる場所である。ずっとここにいると思っていたのだ。
そこへ彼女を見つけたヴァルターが歩み寄っていた。
「お嬢様、こちらでしたか。出発の準備が整っています。」
「ヴァルター様ありがとうございます。お嬢様といわれるのは少し恥ずかしいですね。」
リシェの顔を覗き込みながらヴァルター提案する。
「では、『お嬢』ではいかがですか?」
「それではあまり変わりないではないですか・・・、名前でよいですよ、皆は私をリシェと呼びます。」
少しむくれてリシェが言う。
「私は養子で子爵家に入ったとはいえ、元は地方男爵家の次男です。名門中の名門のあなた相手では気が引けてしまいます。」
ふと思いついた顔でヴァルターは言ってのける。
「『お嬢』は敬意を表しつつ親しみを込めた呼び方なので・・・下町でも親しまれますよ。」
「そうなのですか?ではそれでいきましょう!」
親しみという言葉に気をよくしたのか、明るい顔になり上機嫌になるリシェ
(妹みたいに扱いやすい方だなぁ)と思うヴァルターであった。
「ところでお嬢・・・」
「はい、なんでしょうか?」
「シフォンケーキはよろしいのですか?」
「!!・・・聞こえて・・・」
彼女は驚きと罰の悪さを顔ににじませた
【図書館名物シフォンケーキ】
そのふわふわな生地は空に浮かぶ雲とも称される。
それでいて焼きたては周囲が少しカリっとして香ばしい。
おすすめはプレーンなケーキに少し酸味のあるアプリコットジャムと生クリームのトッピング。
司書たちの間ではそれにプレーンな紅茶を合わせるのが人気。
●人が住まう二連星の星の話
魔法がある世界のため機械・電子の技術発展があまりなく、すべてが魔法技術の上に乗っている。
※魔法を日常に溶け込ませているため断熱・材料強度などの建材や燃料・輸送分野などの機械・化学では魔法技術がベースとなって発展している。
舞台は星歴3000年ごろの話
星歴2000年ごろに二連星間での通信が成功し交流が始まる。2100年ごろから実際の行き来が始まり2300年ごろに一般の星間航路が確立。
この交流は魔法技術が最大限力を発揮している。
魔法をうまく使える貴族階級とほとんど使えない平民階級に分かれるが、人権は等しく存在する社会文化
貴族は全人類の35%程度。
階級問題や権利問題など紆余曲折はあったが2500年以降今の社会形態に落ち着き、星間法による教育の浸透の助けもあり問題はほぼなくなった。
無論過去に多くの血が流れたが補償問題はもはや過去の歴史である。
二連星はよく似た環境であるが回転軸のずれにより蒼の星は若干水と緑が多い食料生産に向いており、赤の星は若干乾燥しており大地が多く鉱物資源が豊富である。
無論、互いの潮汐力の影響を受ける。
●貴族の割合について
一見貴族階級の割合が多く見えるが、ここまで魔法が文化や社会に深くかかわっていると、
魔法を行使できるものが少なすぎる場合に文字通り特権階級になってしまう。
貴族の割合としては現状が最適となっている。(横暴な御貴族様がいなくても変えがあるんだよ的な)
あくまで貴族とは特権階級というより社会基盤を支える役職のようであり、魔力を扱えないものとの区別として機能している。インフラ維持に必須である。
無論それでも直に魔力を扱えることそのものは特別なことではあるが・・・。
●文明の発展速度について
魔法があることにより現代(リアル世界)とは異なる技術発展が行われている。
そのため3000年の歴史があるにもかかわらず、すさまじく発展した機械技術や電子技術がない世界である。
そして現代(リアル世界)よりも1000年も先の時代なのにオカルトともいえる技術に発展していないのは、魔法技術の発展の上に文明が成り立っているためである。
つまり、貴族階級による魔法研究の進行度に合わせた緩やかな文明の発展が行われた社会である。
無論、魔法で整備された文化社会の時点でオカルトではあるが・・・。
また緩やかに発展した先の世界(星歴3000年)であるため、社会的文化や倫理・権利問題が長い歴史の中で解消された世界




