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日本人形前線 7

「⋯⋯まずい」


 墓山亘は呟いた。


 霊禍・亘・奏の三人は既に佐々木家に到着していた。塀を乗り越え、窓の外から中を観察する。しかし、黒いもやのようなものに視界を遮られてしまう。霊禍の超感覚でさえも、内部の様子を確認することができない。


「どけ! 割る!」


 霊禍の腕がオーラを帯びる。打撃が窓ガラスにクリーンヒットするも、ヒビ一つ入らなかった。


「ワタクシの能力もダメですわ。そもそも狙えないというか⋯⋯変な感覚ですわ」


「⋯⋯空間そのものが、断絶されているのかもしれない」霊禍が言った。


「ひとまず、抜け道とか、空間のひずみがないか探そう。それでもムリなら⋯⋯夜遅いけど、士郎さんの店で呪物を買おう」


 亘の提案は最適解に近かった。だけどそれにしても、ここから商店街まで往復するとなれば、霊禍がオーラを使って飛行したとしても、かなりの時間がかかることが予想される。


 その頃にはきっと、佐々木家での戦いは終局を迎えるだろう。




 目の前で行われた殺戮。それを見て刻太は自分の作戦の甘さを痛感していた。一階の廊下で、刻太はマゼンタに運ばれながら涙を流していた。


「クソ⋯⋯俺は⋯⋯あいつらを指揮する資格なんてなかったんだ⋯⋯!」


 力任せに、マゼンタの背中のアーマーを叩く。鋼鉄さながらに塗装されたプラスチックから軽妙な音が鳴った。


 リビングの手前で、刻太の身体が投げ飛ばされた。鈍い音が鳴り、柱に刻太の背中が激突する。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 刻太の頬はびしょびしょに濡れていた。もはやこの身体の痛みに憤る余裕もなかった。目の前で親友たちが殺される光景。あんなものを見てしまえば、勇気など湧きあがるはずもなかった。


 ──マゼンタが刻太に近づく。


「⋯⋯おい、今なんて言った?」低く重い声が響く。


「俺にはみんなを指揮する資格がなかったって言っ────」


 バチン。刻太の視界が真っ白になる。自分の頬が叩かれたのだとすら気づけないほどの、鋭すぎる痛みだった。再び起き上がった時に、自分が七センチも飛ばされていたことに初めて気づいた。


「弱音を吐くな!!!」


 雄々しい顔をしわくちゃにして、マゼンタは叫んだ。


「そんなことを言うなら⋯⋯俺はもうお前をブラザーとは呼ばねぇ!」


「だって、仕方ないじゃないか! こんな⋯⋯ひどい結果になって⋯⋯。一階に来られたのも、俺とマゼンタだけで⋯⋯」


「⋯⋯それを『結果』とは呼ばねェ」


 刻太の瞳が縮む。


「この世界に結果なんてものは存在しねェんだ。あるのは永遠に続く過程。それだけだ。

 あいつらの死は、まだ続いている! お前が⋯⋯お前自身が、パパとママをブチ助けて、あいつらの死を意味あるものにしなくちゃならねぇんだよ!!!!」


 大きな手が、刻太に差し伸べられた。


 ──しばらくの沈黙の後に、刻太は顔を拭いながら手を掴み、立ち上がった。


「⋯⋯行こう」


 その声も、握りしめられた手も、もはや震えてはいなかった。




 ⋯⋯しかし、次の瞬間には、マゼンタの手が痙攣し始めた。


 その様子を疑問に思い、刻太はマゼンタの身体を見た。そして、腹部を黒い毛が貫いているのを目撃した。


「え⋯⋯」


 呆然とする刻太の肩が、マゼンタの腕に強く押された。次の瞬間には、さらに三つの毛の束がマゼンタの顔と右脚を貫いた。


「いけ⋯⋯」か細い声が漏れ出る。


 動揺する刻太。マゼンタが最後の一息を大きく吸った。


「走れ! ブラザー!!

 俺の死も! 無駄にするんじゃねェ!」


 廊下の奥、階段がある角から、カミラの巨体が現れた。暗闇に紛れながら、黒い巨体が蠢く。


 刻太は走った。リビングに入り、カーペットの大地を蹴る。もはや彼に躊躇も、後悔もなかった。両親が待つ寝室まで、残り二メートルを切っていた。


 消えゆく意識の中で、マゼンタはその勇姿を目に焼き付けていた。


 そして微かな笑みを浮かべながら、紫色ししょくの戦士は目を閉じた。


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