日本人形前線 5
怪物は弾幕に押され、部屋の外、廊下の奥にまで後退していた。刻太はヘリで棚の近くの床に移動し、そこにほとんど全てのミニチュアたちを集めた。それぞれ縮尺もバラバラであるため、刻太の何倍も大きいような者もいたが、それはごく一部だ。大概は刻太と同じ1/30スケールであるため、そこまで違和感はない。
改めて、ざっとメンバーを見てみる。自衛隊、ゴツいSF兵士、ヘリ、戦闘機、多脚戦車⋯⋯実在から非実在まで、本当に幅広いメンツだ。
「なぁブラザー、アンタなら最高の作戦を考えてくれるって信じてるぜ。なんたって俺ぁ、ブラザーに塗ってもらったんだからな」
そう言って肩を組んできた紫色のスナイパーは、昼間に刻太が説明していたウォーアックス30000のキャラクターだ。名はマゼンタと言う。手には長いスナイパーライフル。ゴツゴツとした背中のアームには、太いエネルギーライフルが備え付けられている。
「あぁ、任せてよ」と気丈に返す刻太の脳内では、今まさに状況の整理が行われていた。
自衛隊に加え、こんなハリウッドっぽい奴らが大量にいるのだから⋯⋯どうにかあの怪獣にも対抗できるはずだ。
現在の最優先事項は、一階で寝ているはずの両親の救出と、家からの脱出。あの怪獣を倒せればそれに越したことはないが、昨晩も自然にアイツが消えたことを考えると、このままやり過ごすだけでも事態が改善する可能性はある。
「司令官! 調査隊、ただいま帰還しました!」
ヘリコプターから数人の隊員が降りてくる。
「現在あの怪獣は、階段の手前で待機しています! また、廊下の窓が開いていたので確認したところ、どうやら家の外壁沿いに結界のようなものが張られているらしく、外に出ることはできませんでした!」
「⋯⋯なるほど」
刻太はこの家の間取りを思い描いた。二階の廊下は一本道で、刻太の部屋はその最奥に位置する。通路の中腹には空き部屋もあるが、そもそも扉は開いているのだろうか。この小ささではドアを開けるのも一苦労だ。
あまり希望的観測に頼りすぎてはいけない。一本道であの怪獣と戦うことを覚悟しなければならないだろう。
「⋯⋯⋯⋯これから、基本方針を説明しようと思う」
ミニチュアたちは姿勢を正した。
「僕たちはこれから、僕のお父さんとお母さんを救出しに向かう。二人が僕みたいに縮小しているのか、それとも元のサイズのままなのかはわからないけど、あの怪獣が危険なのには変わりない。今すぐそのためには」
「僕たちの人数と兵器の比率だけど⋯⋯歩兵が五十、航空機を除いた重兵器は十、軽い乗り物などは十五という塩梅になっている。
なので、みんなには五人一組の小隊を組んでもらう。兵器の種類にもよるけど、小隊ごとに操縦手を除いて二、三人は歩兵が余るはずだ。その歩兵に、バイクなどの乗り物に乗ってもらう。それでも何人かは余るだろうけど、乗り物に乗らないのはウォーアックスシリーズの人になるように調整してほしい。
ウォーアックスシリーズの歩兵は、頑丈なアーマーを装着しているし、銃器の威力も高い。少なくとも自衛隊員よりは、乗り物なしでも戦えるはずだ」
ファンタジーとリアルの差異は、あまりにも大きい。たとえそれが、ミニチュアだったとしても。
「各小隊の最前に重兵器を配置して、歩兵はその後ろに隠れる陣形を基本にする。廊下から階段までは一直線で、遮蔽物も無い。だからみんなには、兵器を盾にする形で進んでほしいんだ」
「けどよぉブラザー、その作戦だと、兵器の動きを周りの歩兵に合わせるせいで、実力を百パーセント発揮できないんじゃねぇか?」
マゼンタの懸念は的を射ていた。しかしそれでも、この作戦を選ぶ理由があった。
「⋯⋯僕は、みんなに死んでほしくないんだ」
「おいおい⋯⋯なぁに言ってるんだ? 俺たちゃただのミニチュアだ。人間のブラザーさえ生き延びてくれりゃあ、それで幸せなんだぜ?」
周りの隊員たちも、笑いながら頷いている。そんな様子が、かえって刻太を苛立たせた。
「そんな⋯⋯寂しいこと言うなよ!
ここにいるみんなは、俺と一緒に過ごした友達だ! ミニチュアとかフィギュアとか、そんなこと関係ないだろ!
絶対、みんなで生きてこの状況を打破するんだ!」
一瞬の沈黙ののち、全員が奮起の叫びを上げた。やっぱりみんな、死にたくないんじゃないかと刻太は思った。
作戦は実行に移る。部屋のドア枠をスタートライン代わりに、各小隊が整列する。戦車などの兵器の後ろに、歩兵が並ぶ。作戦通りの陣形だ。例外となる航空機隊は最後方で待機している。
「ブラザー、こいつに乗りな」とマゼンタが運んできたのは、多脚戦車ジャガー・ノート。美しい流線型のフォルム。三対、計六本の脚が搭乗部と主砲を支えている。
「えっ、いや、俺は⋯⋯」
「遠慮すんな! ブラザーが一番大切なのは変わらねぇんだしよ。こいつぁ頑丈だし素早い。それにAI搭載だ。きっと力になるぜ。俺も近くでカバーすっから」
「わかった。ありがとな」
うつ伏せになる形で、ジャガー・ノートに搭乗する。眼前にメインカメラ映像とインターフェースが映し出される。こんな状況だが、刻太が高揚していないといえば噓になる。
上部の扉が閉じ、いよいよ操縦可能な状態になる。
外部の様子を確認する。みんな準備は良さそうだ。航空機隊も用意できている。
「いつでもいいぜ」横からマゼンタが機体をコツンと叩いた。
刻太は深呼吸し、指の震えを止めようとしながらボタンを押した。無線通信がONになる。
「⋯⋯みんな、行くよ。
──総員、作戦開始! 」
装甲越しに聞こえるほどの、激しい雄叫びが響いた。最前列の小隊たちがドアから飛び出し、廊下を猛進し始めた。




