日本人形前線 3
遅れてきた亘と奏も、その部屋の様子をバッチリ確認した。
戦車、戦闘機、兵士。リアルな造形のミニチュアの数々。壁一面が埋まるほどの量を誇るそれらは、刻太が最も隠しておきたい秘密だった。
「⋯⋯おい、刻太」霊禍が口を開く。「なんだこれ!! 最高じゃねえか!!!」
霊禍は遠慮なく部屋に入り、棚を見物し始めた。亘と奏も後に続く。
「これ、F-16ですわね! オーソドックスなのがお好きなのですか!?」
「多脚戦車のジャガー・ノートだ⋯⋯。けっこうSF作品の兵器も多めだね」
「おい! これ! スターフィックスのイーウィンじゃねーか! あとこのゴツイ奴らなに!?」
いや、一応、ここ俺の部屋なんだけど⋯⋯と思った刻太だったが、こうも褒められると嬉しくなってしまう。
「この、いっぱいいる兵士たちは、ウォーアックス30000っていう海外のオモチャで! 全部のミニチュアに、自分で着色してるんだ! 遠距離戦できる兵士は紫色で統一しててさ⋯⋯!」
「すっげ! なんだよお前! めっちゃすごいじゃん! こんなん隠す必要ねぇって!」
隠す──。そう。刻太はこの趣味をあまり公にしていなかった。先ほども、霊禍たちが部屋に行くのを拒もうとしていた。
「二年くらい前に、この部屋に友達を呼んだら、なんか拒絶されちゃってさ。それ以来、趣味を明かすのが怖くなっちゃってたんだ」
その友達というのは苔谷矛良であり、「人殺しの兵器を飾るなんて趣味が悪い」などと言われてしまったのだったが、霊禍たちはそのことを知る由もなかった。
「でも、まぁ、褒めてもらえてよかったよ」刻太はほっとした様子だった。
「むしろさぁ~ソイツがおかしいんじゃねぇの?」と言いながら、霊禍はまだまだ棚に夢中だ。
「つーか、この部屋、バケモノがいた気配とか全然ないな。ほんとに髪の毛のオバケなんかいたのか?」
「⋯⋯いたよ。確かにいた。ただの見間違いなら僕は、なんやかんやで寝られていたと思う。そうじゃあない実在感が、あのとき確かにあったんだ。だから徹夜で怯えていたんだよ」
霊禍は「なるほどな」と呟いた。「こんな部屋なら、なんか出てきてもこいつらが撃退してくれそうなもんだけどな」
──本当にそうなら、なんの心配もいらないのだけれど。
「ねぇ、これ! これは! 陸自の高機動車ですわよね!? いいチョイスですわ~!」奏が心底嬉しそうな声色で言った。
「おっ詳しいね。そう、それでこっちの車が⋯⋯」
二人が語り始めたのを見て、霊禍と亘は怪訝な顔をした。こりゃあ長くなるな。
「⋯⋯奏って、なんか妙なとこ詳しいよな」と霊禍。
「映画の知識もそこそこあるよね。友達もいないし臨さんも忙しかっただろうから、一人で完結する趣味を楽しむことが多かったのかな」
亘の推測が正しいかはともかく、霊禍と亘は退屈な時間を過ごすことになった。解放されたのは、約二時間後。刻太の両親が仕事から帰ってきた時間だった。
「まぁ、ちょっとは恐怖が和らいだよ」と刻太は別れ際に言っていた。
しかし。
静かになった部屋は、刻太にとってはやはり不気味に感じられた。家族はずっとリビングにいるし、彼もそうすることにした。両親は今朝、刻太の証言を「見間違いでしょ」と言って聞かなかった。それにしてもやはり心細いので、家族の近くに居ざるを得ない。せめて屋根裏部屋とかくらいは、調べてほしいんだけど。
テレビはまさにゴールデンタイム。各局の目玉番組が視聴率を奪い合っているようだ。刻太はあまりテレビを見るほうではなかったが、それにしてもこの時間帯の番組は面白いし、なにより一人は辛かったのだ。
そんな時間もすぐに終わってしまった。「そろそろ寝なさい」と父に言われてしまい、二階へ上がらざるを得なくなる。恥を捨てて、どちらかの親と一緒に寝るという選択肢もあったが⋯⋯両親はまだ起きているつもりのようだった。
足が震える。階段をのぼりきるのにいつもの三倍の時間がかかった。
おそるおそる自室の扉を開き、中に何もいないことを確認した。照明をつけ、一応は安心したものの、やはり寝る気にはなれない。
⋯⋯しかし、二日連続徹夜などできるはずもなく、結局刻太はベッドに潜り込んだ。心の奥底から湧きあがる恐怖と、身体の隅々に満ちる倦怠感を拮抗させながら、意識が落ちるその瞬間まで、必死に目を瞑っていたのだった。




