マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィ 7
塗と別れ、火事に関する長い長い長い長い長い事情聴取や手続きが終わったころには、既に日が昇っていた。
魔力体での活動時には本体は休眠状態になるため、戦闘そのものの疲れはなかった。しかし頭脳方面の疲労は尋常ではなく、それに加えてストレスも相当なものだった。
⋯⋯しかし、唯の教師根性はそんなものでは折れない。もとより人手不足な幽魔小学校。自分が休むとほとんど仕事が回らなくなるだろう。
幸い、今日は金曜日だ。土日に仕事がないわけではないが、ある程度は時間を確保できる。
駅近くの服屋で着替えを購入。僅かな時間でスーパー銭湯に立ち寄り、身体を休めつつ身だしなみも整える。プートは律儀なもので、大浴場の外で待機していた。これもまた、本当に見られていないかは判断できないのだけれど。
⋯⋯そして、そのまま小学校へ。
職員室で可能な限りの事務作業を進め、それから教室へと歩いていく。本当は、もう少し早いうちから教室にいるべきではあるのだが、仕方がないだろう。
扉を開くと、まず黒板に貼られた大きな模造紙が見えた。まるで黒板を隠すかのように、隅から隅までしっかりと磁石で固定されている。
それに、今日はなんだか、この時間にしては人数が多いような気がした。
「えっと⋯⋯この紙はなに?」
「先生、それ絶対外しちゃダメですよ」
そう告げてきたのは苔谷矛良だった。なんとも掴みどころのない男子児童。なんでも卒なくこなすタイプだと、唯は認識している。
「え? そうなの? なら外さないけど⋯⋯」
「ほんとに、ダメですわよ!」
奏までもが念押ししてきた。
次第に教室に人が集まってきて、全員がなんというかよそよそしく席に着いた。なんだこれはといろいろ考えてみたものの、全然思い当たる節がない。適当な児童に中身を聞いてみても、答えてくれない。
⋯⋯そんなこんなで、朝の会のチャイムが鳴った。
「えっと、朝の会を始めたいんだけど、この紙は⋯⋯?」
と、尋ねたところで、最前列の席の二人が教壇に上がってきた。神妙な表情だが、やや口角が上がっているようにも見える。二人は手際よく磁石を取り外し、模造紙を一気に引っ張った。
──黒板に描かれていたのは、唯の似顔絵だった。
「「「「唯先生、お誕生日おめでとうございま~~~~す!!!!!!!!!!」」」」
一瞬、唯は心の底から混乱した。誕生日って、なんだっけ。
⋯⋯誕生日。
⋯⋯⋯⋯誕生日!!!!!?????
ウワ~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あまりにも予測不能だった祝福に、思わず涙が溢れだした。
「みんな⋯⋯⋯⋯ありがとう!!!!!」
改めて黒板を見る。唯の似顔絵を中心に、カラフルなこまごまとしたイラストがたくさん描かれている。よく見てみると、一つ一つの絵が、自分と子どもたちの思い出にまつわるものだ。例えば、この消しゴムは⋯⋯私が遊び半分で消しゴム落としに参加して、図らずも無双してしまったときのものだ。そういう細かい小ネタが大量に用意されていて、気づくたびに涙が止まらなくなる。
「あぁ⋯⋯ほんとにヤバい⋯⋯これはちょっと、写真撮るね。あぁ、ほんとに⋯⋯」
想像以上の泣きっぷりに、教室中が和気あいあいとした雰囲気になった。サプライズ成功を喜びつつ、あまりにも大成功すぎてちょっと呆れているような、そんな平和な空気だった。
「これ、消したくないな⋯⋯。あぁ、どうしよう」
そんな教室の戸が、大きな音を立てて開かれた。
「あれ、あ、ども。おはようございます、先生」
⋯⋯幽ヶ崎霊禍だ。
そういえば遅刻常習犯すぎて、来ていないことにも気づけていなかったというか、この雰囲気に流されてすっかり忘れてしまっていた。
「あぁ、誕生日、いやほんと、忘れてはなかったんですけど。すんません。おめでとうございます」
「あ、ありがとう⋯⋯」
教室の雰囲気は、なんだか静まってしまったような感じがする。しかし、そこまで空気が壊れたわけではない。まぁ、ちょっと冷めた程度だ。ちょっと笑っている子もいる。
霊禍はそのまま席に移動し始めたが、ふと立ち止まり、振り返った。
「先生、何歳になったんすかw」
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
いや、まぁね。まずね。
年を取ることって、悪いことじゃないんですよ。恥ずかしいことでもない。むしろ人としての深みは日々増しているわけだし、経済的自由度なんかも増すのだ。デメリットなんて、身体が衰えてくるくらいのものなのだから。
⋯⋯とはいえ。
今の発言には、明らかな嘲笑のニュアンスがありましたので、ね。
「霊禍さん、あとで職員室ね」
それを聞いて、霊禍の顔が真っ青になった。
(梨里島唯からの『怒られ』は、児童の号泣率、驚異の百パーセントである。なのに霊禍がこうも挑発的な理由は誰にも分からないが⋯⋯結局、今日も涙を流すことになったのだった)
だけど、唯は、自分の目の前にいるこの少女が、不死鳥の力で幽霊を狩り続けているだなんて知る由もなかった。
本来であれば、ここまでの魔力を持つ不死鳥のオーラに、気づかないはずがない。さらに言えば、こんな狭い田舎町の中で、二人とも幽霊を狙って動いているのだから、鉢合わせにならないのはあまりにも不自然だった。
全ては、プートの策略、もとい苦肉の策だった。唯がこの町に異動することになってから今に至るまで、圧倒的な強者である不死鳥に関わらないために、常時認識阻害魔法を霊禍と唯の両者にかけ続ける。さらに、霊禍や亘たちの動向のチェックは欠かさない。
故に、この二人は交わらない。
少なくとも、悪魔にすら想定できない悲劇が起こらない限りは。




