表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/65

マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィ 5

 魔法少女☆アブソリュート・ゼロの活動の始まりは二年前だった。元凶は、あの赤い本。


 当時東京で普通の中学生として暮らしていたゼロこと逆鉢さかばちぬるには、一人の友人がいた。真面目な学級委員長の女の子。仲間思いで思慮深く、そして読書が好きだった。


 素行の悪かった逆鉢塗に、ありのままの態度で接してくれた唯一の人間。誰にも信じてもらえなかった中で、ただ一人自分を信じてくれた少女。


 そんな彼女が、ある日から学校に来なくなった。心配に思いながらも復帰を心待ちにしていたが⋯⋯彼女の帰還は悲劇的なものになった。


 あの時の悲鳴は未だに塗の耳にこびりついている。彼女は近くにいた数人のクラスメイトを殴り殺した。そのパンチの威力は、教室の壁がひび割れるほどだった。床に多量の血が広がった。


 どうにか騒ぎが収まった頃に、塗は彼女の懐に赤い本があるのを発見した。どさくさに紛れてその本を取り上げた。そのあとすぐに警察が来て、彼女は連行された。


 それから彼女は正気を取り戻したらしかった。しかし、判決は有罪。彼女は一生、人殺しとして生きることになった。大人たちやクラスメイトはあの時の彼女を『おとなしい子の凶暴な本性』として語っていた。塗にはそれが許せなかった。


 それからのことは、塗の記憶にほとんど残っていなかった。彼女の罪をなかったことにするために、赤い本経由で出会った悪魔・ダンタリオンと契約し、魔法少女として働き始めた。彼女がやったことは、いつの間にかこの世界から消えていた。


 赤い本の働きを妨害する者たちを殺し続けた。不思議と心は痛まなかった。魔力体になると心も凍るのかもしれない。この二年で十人は殺しただろうか。学校も休んで、世界中を巡ってきた。殺して殺して、そして今に至る。


 ──あの子を人殺しにさせない。そのためなら、どんな相手でも殺してみせる。




 マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィは、歪んだ視界でどうにかゼロを捉えていた。どうやら向こうからは動かないらしい。


『まさか空間属性を実戦で使うとは。相手は相当戦闘慣れしているようだな』プートの助言が脳内に響く。歪んだ感覚のなかでその声だけ鮮明だから逆に気持ち悪い。


「属性とかあるの? 知らなかったんだけど⋯⋯!」


『すまない。まさか対人戦になるとは思っていなかったんだ。それはさておき、ワールド・ディストートは魔力消費量も多く、後隙も大きい技だ。きっとリリィくんの動くルートを狙ってくるぞ。慎重に動け』


「わかった」


 攻め方のパターンをいろいろ考えてみる。今までも工夫を凝らした戦い方をしたことはあったが⋯⋯対人戦となると生半可な工夫はかえって逆効果だろう。


 跳びあがって上から攻める? 動きが大振りになりすぎる。

 マジカルアローで牽制する? 右手ナシじゃ使えない。

 マジカルホップを多用する? おそらくそれが一番警戒されている。

 

 そこまで考えたところで、急激に頭の中が晴れた。


 リリィの脳内に生まれたアイデアは、ひらめきと呼ぶにはあまりにも不格好で無理やりだった。しかし、思いついてしまえばこれ以外の手法など考えられなくなっていく。まるで脳が侵食されていくかのような感覚だった。あの赤い本の文字のように。




 マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィが跳ねた。大きく、それはそれは大きく跳ねた。猫耳だというのに、さながら月まで跳ねる兎のようだった。


 ゼロは心を落ち着け、落ち着いて落下地点を予測した。暗い夜空で、星々に紛れた彼女を探すのは簡単ではなかったが、魔力体の強化視覚ならそこまで時間はかからなかった。それにしても、本当に大きく跳んだものだ。


 ──さすがに、そのまま落下攻撃をしてくるだけではないだろう。


 対人戦闘のコツは、自分が相手の立場だったら何をするか考えることだ。ゼロはそういう思考が得意だった。


 リリィの手札を改めて考えてみると、やはりマジカルホップが曲者だ。単純であるがゆえに応用が利くタイプだ。連発も可能なのではないか? なにはともあれ、空中で軌道を変えたいのならばそれしかないだろう。


 ピンクの魔女が次第に迫ってきていた。およそ百メートルほどだろうか。星空の下、拳をこちらに向けていた。


 ⋯⋯まさか、パンチをしようとしている?


 あり得ない。しかし彼女の右手を見て、認識を改める。魔力が煙のように噴き出している。


 ──やっぱり、あの魔力量は無茶だったんだ。跳躍は目くらまし。それ以外の絡め手を警戒させるための派手な演出だ。ブレード一本出せないようじゃあ、やはり魔力不足だろう。


 距離40。無論、直前でブレードを出されたり、ホップで軌道を変えられることは充分に警戒している。


 距離20。猫耳メイドらしくない、必死の表情が見えた。歯を食いしばり、まっすぐこちらを見ている。これが演技なら大したものだ。やはりこの一撃に全てを賭けているらしい。

 ゼロはアイシクルランスを手元に作り出した。


 距離5。リリィの身体が、大きく右にズレた。身体の側面にマジカルホップの魔法陣を展開したのか。着地したリリィを視界の隅で捉えた。間髪入れずに横方向から迫ってくる。ゼロはアイシクルランスを構え、相手を真正面に捉えて斬撃を喰らわせた。


 マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィの胴体は真っ二つになった。


 ゼロは勝ち誇った表情を浮かべた。リリィは勢い余って、ゼロの横を通り過ぎて倒れた。甘い。なんて甘いんだ。こんなちょっとの工夫で私を倒せると思うだなんて。浅はかにもほどがある。


 ⋯⋯そう考えるゼロの肉体もまた、胸部のあたりを真っ二つに切断されていた。切断面がずれ、下半身の感覚が消えるのは、この一秒後のことだった。


 一瞬のことで、理解ができなかった。ゼロは残り僅かな余力をふり絞り、後ろを振り向いた。


 リリィの身体は、確かに斜めに切断されていた。右耳の上から腰の左側まで、一直線の断面が見える。


 その、ちょうど中間。


 胸部の辺りに、一筋の刃が見えた。


 まさか、体内に、マジカルブレードを仕込んでいた、のか。


 どうして、そんな回りくどいことをするのか、ゼロには理解できなかった。ただ一つ確かだったのは、自分が相手の罠にはまったという、ただそれだけの事実だった。結果は相打ち。だけどゼロの断ち切られた胸の内には、敗北感だけが充満していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ