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マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィ 4

 魔力とは、悪魔との契約によって得ることのできるエネルギーの総称。その性質は各個体によって異なり、また契約条件によっても出力が左右される。


 魔法少女☆アブソリュート・ゼロが二年前に悪魔ダンタリオンと交わした契約は、『図書館の保全と破壊者への報復』だった。魔力の属性は氷結と空間。細長い魔杖まじょう・アイシクルロッドを起点に放たれる一撃は、今までに倒したどの魔法使いよりも強烈だった。


 ──それだというのに、今この瞬間、マジカル猫耳メイド戦士・ラブリー♡リリィなんてふざけた名前と格好の人間に、彼女は押し負けていた。


 リリィの攻め方は単調。大振りで、驚くほど躱しやすく、工夫を凝らしている感じではなかった。だというのに、対人戦の経験が豊富なゼロでも、気圧されるだけの何かがある。


 ブレードでの連撃を鬱陶しく思い、十メートルほどバックステップで距離をとる。


「マジカルアローだニャン!」


 二倍の威力の矢が、即座に放たれる。


「アイシクルランス⋯⋯!」


 ゼロの周囲に何本かの鋭い氷柱つららが現れ、矢に激突する。何本かの氷槍はリリィ本体を狙って放たれたが、弓で軽々しく弾かれてしまった。


 間髪入れずにリリィが迫る。その右手には肉球のようなグローブがいつの間にか装着されていた。『ニャン』と言っていないので、そこまで警戒する必要のない一撃ではあるのだが⋯⋯ゼロにはそんなこと知る由もない。


 ゼロは慌てて跳躍し、民家の屋根に上がった。リリィも追って跳躍する。この際無詠唱のマジカルホップを使用していた。


 ここまでゼロが見たリリィの魔法は、ブレード、アロー、ホップの三種類。他にも隠し玉がある前提で動くのが得策だろう。リリィが武属性の魔力使いであることは察しがついていたが⋯⋯問題なのはその魔力量と戦法だった。


「リリィさん、対人戦の経験はありますか?」


「⋯⋯それを聞いてどうなるのかニャン。まぁ、ほとんどないけど」


「であれば⋯⋯力の使い道は幽霊狩りなどですかね」


「さぁ⋯⋯」


 曖昧な反応は肯定と同じだ。


 ⋯⋯やはりそうだ。ラブリー♡リリィは幽霊狩りが専門。大半の幽霊は魔法使いよりも弱く、それゆえに戦い方も、『追い詰めるやり方』が主軸になる。そういう人物は、ゼロの経験上、相手にしやすいことが多かった。なにせ、戦い方がパターン化している。その隙を突いてやればよいのだ。


 だというのに。なんだ、このマジカル猫耳メイド戦士は。


 確かにパターン化された戦い方だ。近ければブレード。遠ければアローからのホップで接近。単にそれだけだった。


 ⋯⋯それだけなのに、洗練され過ぎていて入り込む余地がない。


 極めつけは、単純な威力。ゼロにとっては完全に正体不明の出鱈目な魔力量が、洗練された戦略をガッチリ補強している。正面から待ち受けたら、絶対に勝てない。


 ──となれば、搦め手しかないだろう。


 今まで見せていない、空間属性の魔法を使う。


 もちろん、今こうして異空間で戦えているのも、空間属性の魔法の効果ではあるのだが⋯⋯直接的に戦闘で空間属性は使っていない。スキを突くなら早いうちがいいだろう。


 ブレードの攻撃を何発かやり過ごし、わざと距離を取る。今まではここでアイシクルランスなんかを発動したわけだが、ここで一発『置く』のだ。


 アローをギリギリで回避し、さそうように体勢を大きく崩す。すると必然的に、ラブリー♡リリィは距離を詰めてくる。


「ワールド・ディストート!」


 空間系魔法の最上位。二人のちょうど間の位置に、空間のひずみが生じ始めた。


 リリィの右腕がその歪みに差し掛かる。まるで画像編集ソフトで無理やり加工されたかのように、円形に引き伸ばされ始めた。


 頓狂な声が上がる。自分の腕が見たこともない形になり、リリィは思わず手を引っ込めたが、既に遅かった。


 歪みは瞬く間に強くなり、彼女の右手首から先を完全に引きちぎった。マジカルステッキも含め、右手は完全に消滅。桃色の断面だけが残された。


 思わぬダメージにバランスを崩すリリィ。その一瞬の隙を見逃さず、ロッドの先端で顔面を突く。狙いは正確だったが、リリィが執念で頭をずらし、ロッドは猫耳に激突した。


 左耳が杖と屋根に挟まれ、そのまま千切れる。リリィの左脚がゼロの腹部を打ち、その反動で二人の距離は遠ざかった。


 リリィは急いで立ち上がったが、姿勢はほとんど崩れていた。右腕と左の猫耳の喪失。今までのリリィが食らったことのないダメージだった。


 千切れた猫耳を押さえる。魔力体とはいえ、重要な感覚器官を失ったダメージは大きい。視界が傾き、周りの音は何度も反響しているように聞こえる。


 ──さらに、右手まで失っているため、ただ立っているだけでも精一杯だった。ふと断面を触ってみると、痛みともまた異なる鋭敏な感覚に襲われた。


「⋯⋯そろそろ諦めるつもりはないかニャ?」


「それはこっちの台詞ですよ」


 おそらく、次で決着がつく。ゼロは杖を構え直し、リリィを視界の中心に捉えた。


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