こっくり 6
「⋯⋯⋯⋯やっぱり、家のなかで遊びません?」
地面に反射する青い光。それは、鍵穴が右足の裏にあることを示していた。
「は? なにいってんだよ。公園で遊ぶんだろ?」
背丈の小さい少年は、そんな当たり前の答えを口にした。
「それに今、親の仕事の偉い人が家に来てるから、あんまり騒がしくできないし⋯⋯」
足元の光が、少し薄くなった。奏はそれを見てさらに慌て始める。
「で、ですわよね!? ハハ、ジョークですわホントホント。ホントニオ猪木、なんちって。
サ、さっそく行きましょう!」
乾は眉をひそめつつも、奏についていった。
奏はさきほど道に迷っていたときに、少し広い公園を発見していた。とりあえず、そこを目指し、二分ほど歩いた。
⋯⋯しかし、そもそも友達が遊んでいるということ自体がハッタリなのだから、当然ながら公園は無人だった。
雨上がりの湿った公園は、しんと静まり返っている。
「誰もいないじゃん」
乾は呆れた様子だった。
「あれ~? おかしいですわね~?
みんな、もしかしてワタクシを置いて、どこかへ行ってしまったのでしょうか!?
ヒドイですわ~最悪ですわ~!」
⋯⋯なんて、ヘタクソな演技でごまかすくらいしか、奏に選択肢はなかった。
「そんな⋯⋯」
乾の声が震えていた。
「そんなの、あんまりだ⋯⋯! 人をそんな除け者みたいにして! 許せない⋯⋯⋯⋯!」
なんと、乾はこんな大根役者を心の底から信じているようだった。
助かった、と奏は胸をなでおろした。こうして信じてもらえるのであれば、これからの選択肢はいくらでも増えるだろう。
まずはどうしようか。『だまされた二人』としての親近感が芽生えたから、ある程度時間をおけば家にあがりこむこともできるだろう。
「なぁ、こんなひどいことをしたのは誰なんだ!? 教えてくれ! 俺が注意しておくから!」
今後のプランを思案している状態でそう咄嗟に聞かれたものだから、奏はボンヤリとしたまま答えてしまった。否、ボンヤリしていなくても、この辺りでバッタリ遭遇しない相手を選ぶべき場面だから、同じ答えを出していた可能性は大いにある。
「えっと⋯⋯狸山くんとか、狐田くんも⋯⋯」
ここでは霊禍や亘の名前を出すべきだった。そう思った時にはもう遅かった。
──経験が浅いが故のミス。ほんの一言で、計画は破綻へと導かれる。
「⋯⋯⋯⋯あの二人が、そんなひどいことをするわけがないだろ!!!!」
しまった、と奏が思った時には、乾の怒りは頂点に達していた。
「なんでそんな嘘をついたんだ!! よりにもよってあの二人を陥れようとしているのか!? そんなんだからみんなに避けられるんじゃないのか!!?」
その言葉にショックを受ける以前に、奏は乾の異常に気づいていた。
異様に長い犬歯。口からあふれ出ているヨダレ。耳はピクピクと動いている。
──そうか、もうここまで憑依が進んでいるんだ。
鎌鼬奏は覚悟を決めた。
すぐに嘘がバレたとはいえ、クラスで避けられている自分を信じてくれた少年。
奏のために、トリオの名誉のために、本気で憤ることのできる、乾裕太という少年。
──絶対に、救い出して見せる。
右の足元の光はほとんど消えかかっていた。自分の行動に説得力を持たせるには、動機までをもでっちあげるしかなかった。
「本当に⋯⋯ごめんなさい。
ワタクシは乾くんを呼び出したくて、こんな嘘を⋯⋯。決して悪気はなかったの」
「呼び出したいって⋯⋯どうして?」
その答えを出すのに躊躇はあった。だけどそれ以外に、妥当な答えなどあるはずがなかった。
意を決し、奏は叫ぶ。
「ワタクシは、乾くんのことが好きだから⋯⋯!」
鎌鼬奏、人生初の愛の告白である。




