こっくり 4
「一応聞いておくけど、奏はこの店入ったことないよな?」
「そもそもワタクシ、商店街に来ること自体、初めてですわ!」
「⋯⋯あっそ。なら大丈夫だ」
霊禍が店のドアを開く。続いて亘、奏も店内に入る。
奏がまず感じたのは、狭さ。彼女が人生で足を踏み入れたことのある店は、スーパーやショッピングモール、ケーキ屋などがせいぜいだった。こんな狭い店があるということ自体が衝撃的だ。
お世辞にも綺麗とは言えない、ところどころが錆びた金属製の商品棚。並べられているのは安物のトイレットペーパーや殺虫剤など。壁や床はホコリまみれ。
「よっ、オッサン」
と、霊禍が挨拶をしたのは、店の最奥。古びたレジの横に、この店の店主が鎮座していた。
⋯⋯デカい。とにかくデカい。縦にも横にもデカい人だ。脳内とはいえ、奏が「デカい」なんてテキトーな語彙を使ってしまうくらいにはデカい男だった。
「霊禍と亘か。いらっしゃい」
パツパツのTシャツを着た大男の口から、気さくな挨拶が飛び出した。
「そっちのお嬢ちゃんは?」
「奏って子」
「あ⋯⋯どうもごきげんよう⋯⋯」
店主は太い指で奏を手招きした。それに応じ、奏がレジの近くまで寄る。
「お嬢ちゃん、あの二人と一緒ってことは、例のブツを買いに来たんだろ? ウチの裏商品を買うには、ちょいとした審査が必要でね。
ちょいと、これに手を入れてみてくれ」
そう言って店主が取り出したのは、鉄製の平べったい箱だった。一面だけが開いており、ちょうど手を入れられそうなくらいの空間が見える。
「これ⋯⋯大丈夫なやつなんですの?」と奏は二人のほうを振り向いた。
「だーいじょぶだって! 私たちも二年前やったけど、大した事ねーよ」
レジ台に置かれた箱に、おそるおそる手を入れる。
指先を入れたくらいでは、まだなんの違和感もない。第二関節くらいまで入れると少しひんやりしたような感覚があったが、それでも全然平気だ。
「うぅ⋯⋯もう一思いに行っちゃいますわ」
ずい、と一気に手を突っ込んだ、その時。
指先に、何かが触れた。
生温かく、ブヨブヨとした何かが、指を湿らせたのだ。
「うぎゃああああああああああああああ!!!!!!」
慌てて手を引っ込める。指先には赤くネバついた液体が多量に付着している。
「ドンゲバビーーーーーですわぁああああああ!!!!!!!!!」
奏はポケットからハンカチを取り出し、急いで指を拭いた。
店主は身体をのけぞらせて笑っていた。
「笑い事じゃ! ありませんわ!
なんですのこれは! 妖怪!? エイリアン!?」
「ガハハハッ⋯⋯いや、それは単に、本人が嫌がる物を具現化するってだけの呪物だよ。ほんとにそれだけだ⋯⋯。
いやぁ~それにしてもお嬢ちゃん、本当に普通だね。そんな喋り方だけど、人間性は普通すぎるくらいに普通だ。人よりちょっとプライドが強めかな? だけど誇りのない人間なんていない。
ある人は学歴、ある人は資格、ある人は容姿にプライドを委ねる。キミは資産と家系を誇っているけど⋯⋯そこの信念だけは人よりはるかに強固だな⋯⋯」
「なっ⋯⋯なんでそこまで⋯⋯」
奏の額には汗が浮かんでいた。
「まっ俺のプライドはフライドチキンの早食いってとこかな。ガハハ!」
笑い声が狭い店に反響する。
「だけど、覚悟しなよ。そう近くないうちに、お嬢ちゃんは一度、大きな別れを経験することになる」
店主の表情が一気に冷めたものだから、奏は思わず半歩下がってしまった。
「それは⋯⋯どういう⋯⋯」
「気にすんな! オッサンはすぐテキトーなこと言うから!
私の時だって、『戦いはすぐに終わる』とか言って! もう二年目突入してんだけど!?」と霊禍。
「僕にも『オバケの親友ができる』とか言って、そんな気配一ミリもないですよ」亘までもがそれに加わる。
「なぁんだ、そうでしたのね」
店主は座りなおした。
「まっ、審査は問題なし。予定通り、裏の商品を売ってやるよ。
俺は三川士郎。よろしくな」
「師匠のお兄ちゃんなんだよね」と霊禍。
士郎はレジの奥の戸棚からケースを取り出し、机の上に乗せた。
「お探しのものは?」
「憑き物を落とすやつ。三つくれ」と、霊禍は淡々と答えた。




