こっくり 3
「こっくりさん、ありがとうございました。お帰りください」
教室の中央。クソバカ男子三人組の乾、狐田、狸山の三人が、机を囲んでそう唱えていた。
周囲には人だかりができており、儀式の終了に安堵した様子で大盛り上がり。
そこに、霊禍が猛スピードで侵入してくる。
「なにやっとんじゃぁぁあああああああ!!!!!!!」
ほんの少し前、校舎に入ったあたりで、教室から「こっくりさん」の儀式をしている声を聞き取った霊禍は、全速力でここまでやってきたのだった。遅れて亘と奏も到着した。
「お前らマジで、その行為が、どれだけ危険だと⋯⋯!」
「霊禍、落ち着け!」
そう言われた霊禍は、周りがしんと静まり返っているのに気づいた。その怒り方は、単にこっくりさんをやっていたのを見ただけにしては、明らかに異常すぎた。
「⋯⋯いや、まぁ、そのな。
いっつも先生が言ってたじゃねーか。こっくりさんとかそういう儀式に手を出すなって。
その言いつけを破るってのはダメなんじゃねーの?」
クソバカトリオの巨漢、狸山が前に出てくる。
「よりにもよって、遅刻常習犯の霊禍に言われたくはねえな」
⋯⋯霊禍は何も言い返せなかった。
「それは人身攻撃という有名な論点すり替えの一種で、今の霊禍の発言の妥当性と普段の行いに関連性は⋯⋯」
「こっくりさんなんてちょっとしたお遊びだろうが! お前も先生もビビりすぎなんだよ!」
亘の長々とした説明を、一番ノッポの狐田が遮ってきた。
「みんな楽しんでたし、昼休み中だから誰にも迷惑なんてかかってない。
先生は出張中だし、いいじゃないか⋯⋯」
最後に、背の小さい乾がそう付け加えた。
三人寄れば文殊の知恵。クソバカトリオにしてはそこそこ論理的なジェットストリームアタックの完成である。
「クソ⋯⋯お前ら⋯⋯」
そこで、代理の先生が教室に入ってきた。言い合いは一時中止。五時間目の授業が始まった。
「あぁは言われたけど、あの三人は既に幽霊に憑依されている!」
放課後の空き教室。霊禍はそんなことを言い始めた。
「本当ですの? ぜんぜん異常な風には見えませんけれど」
「最初期の憑依を一発で見破れるのは、それこそ霊禍くらいじゃないかな。
今はまだ自覚症状すらないだろうけど、放っておくと、身体を完全に乗っ取られるよ」
「それは大変ですわ! その憑依というのは霊能力の一種ですの?」
「いや、単なる特技のようなものだね。使える幽霊は少ないけど、唯一無二じゃあない」
霊禍は頬杖をついた。
「つーわけで、憑依解除の呪物を買いに行くぞ」
「よし。行こう」と亘。
「え??? 呪物、を、買う? どこで?」
疑問を浮かべる奏の手を、霊禍が強引に引っ張って立ち上がらせる。
「来りゃわかるよ」
まだ日が高い住宅街。案外普通の道路を進むので、奏は少し退屈に感じていた。
「ねぇ霊禍さん、そもそも、こっくりさんをやっただけで憑依なんてされるものですの?」
「いや、あの三人が、こっくりさんと相性良すぎるってだけだ。それとこの町は、なぜか霊の密度が高いからな」
「相性⋯⋯?」
「『こっくり』って、漢字でどう書くか知ってる?」と亘。
奏は首を横に振った。
「『狐狗狸』。
要するにキツネとイヌとタヌキだよ」
「それって⋯⋯あの三人の苗字!!?」
狐田。乾。狸山。
「こういうちょっとした偶然の一致みたいなものを、脳ミソが無意識のうちに感じ取って、幽霊を招いちまうんだ」
「⋯⋯どんな偶然ですか!」
「やっちまったもんはしょうがねえ。それを解決するために私たちがいるんだからな」
三人はそのまま進んでいき、駅の近くにある商店街にたどり着いた。
しばらく入っていったところで、霊禍が足を止めた。
──そこは、寂れた個人商店だった。
いまにも潰れてしまいそうな、こぢんまりとした日用雑貨店。店先には、誰が買うのかわからない、奇抜な柄の傘などが雑多に置かれていた。
看板には『三川商店』と書かれている。
「こんなところが⋯⋯呪物のお店?」と、思わず奏は呟いた。




