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お金持ちの友達の家 8

「お母さま、なの⋯⋯?」


 奏の視線は、霊禍に燃やされている赤い女に向けられていた。


「お嬢様、いまは落ち着いてください!」


 臨の静止を振り払い、奏が飛び出した。


「どいて⋯⋯!」


 奏が霊禍を押す。オーラで全身を強化している霊禍を、何の力もない奏がどかせるはずはないのだが、それでも力強く押した。


「バカヤロ⋯⋯! こいつは幽霊であってお前の母親本人じゃ⋯⋯」


 と警告した時にはもう遅かった。


 赤い女の足元。霊禍の死角となっている靴の辺りに液体が集中する。


 そして⋯⋯勢いよく棘のようなものが伸び、奏の脇腹を突き刺した。


「⋯⋯⋯⋯ッ!!!!」


 うずくまる奏。寝間着の下からじわじわと染み出し始めた血液が、床に溜まった赤い液体に混ざり、見えなくなっていく。


「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ッ!! アァ⋯⋯!!! 痛⋯⋯⋯⋯い⋯⋯!」


 臨が駆けよって様子を見るも、奏はのたうち回るばかりで、手が付けられない。亘はグレイヴを顕現させ、臨、亘を含めた三人がかりで奏を抑えつけた。電話台の陰に隠れさせる。


 奏の顔は赤い液体で染められ、その上から涙や汗、鼻水までもがぐちゃぐちゃに混ざりあっている。


「大丈夫ですよ⋯⋯必ず助かりますから⋯⋯」


 そうなだめる臨も、心の内では焦りを感じていた。


 明らかに、呼吸が苦しくなり始めているし、頭痛もする。液体を一瞬で蒸発させるような高温かつ高出力の炎が出続けているのだから、一酸化炭素濃度は急速に増し続けている。


「ビームまだ!?」霊禍が叫ぶ。


「あと一分です⋯⋯!」


「あぁもう長い!」


「いたい⋯⋯いたい⋯⋯」


「霊禍⋯⋯そろそろ息苦しくなってきた⋯⋯」


「うるせぇ私もだ!!」


 赤い部屋の中は完全なパニック。もはや全員に理性はほとんど残っていなかった。臨や亘すらも姿勢を崩し始めた。


 火力が弱まっていく。その隙に液体が膨張し、今度は霊禍が鉈の餌食になる。


 霊禍はすぐさま不死鳥の力で回復したものの、既に遅かった。奏を庇った臨の肩に、鉈が深く刺さっていた。グレイヴも女を妨害しようとするが、軽々しく突き飛ばされる。


 赤い女は、部屋の隅に奏を追い詰めていた。


「かな⋯⋯で⋯⋯お⋯⋯いで⋯⋯」


「イヤ⋯⋯」


 鉈が空を切る。奏の脳天を割るまで、残り数センチ。


 ──その四角形の刃は、なんの前触れもなくバラバラに折れてしまった。


 赤い女は、急激な重心の変化に耐えきれず姿勢を崩す。


 その場にいる誰もが、その光景を理解できなかった。


「本当に、お母さま、なのですか⋯⋯?」


 奏は、壁に身を寄せながら、ゆっくりと立ち上がった。全身が赤く染まり、服の裾から液体が垂れている。


 まだ血は止まっていない。朦朧とする意識の中で、奏は確かに幽霊の姿を視界に捉えていた。


「たとえそうであろうと、なかろうと⋯⋯あなたは最早、ただの野蛮な人殺し⋯⋯」


 華奢な右腕が、赤い女に向けられる。


 密室であるというのに、どこからともなく風が吹いてきた。壁や床の液体に波紋が広がっていく。


 奏の周囲に、揺れ動く力場のようなものが集まっているのを霊禍は感じていた。


「特に臨を傷つけたこと──地獄で詫びなさい」


 奏の右手から、不可視のエネルギーが飛び出す。それは赤い女本体には当たらず、すぐ隣の電話台に激突した。


 そして⋯⋯電話台は真っ二つに切断された。


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