お金持ちの友達の家 6
揺れ動く表皮。真っ赤な全身。
その姿に直感的な不安を感じた亘は、すぐさまグレイヴと融合し、そのまま突撃した。
黒い巨体が赤い女を叩く。上から、横から、持ち上げて下から、なんども叩き、殴り、蹴り、踏みつける。
それなのに、一切のダメージがない。液体があり得ないほど硬く、おぞましいほど手応えがない。素手でコンクリートを殴っているかのようだ。
手数自体では圧倒できているのに、何度叩いても効果がない。
今までただの少年だと思っていた人間が、四肢の長い犬のような怪物に変身し、狂ったように何度も女を叩き潰そうとする⋯⋯。この光景に、臨は釘付けになっていた。
「あの子は霊能力者⋯⋯だったのですね。あなたも?」と霊禍に尋ねる。
「私のは厳密にいえば魔力だけど、戦えるという点では同じ。オーラで自己治癒と攻撃とその他諸々ができる。
亘の変身は三分間で終わる。この調子じゃ勝てなさそうだし、身構えておいたほうがいい」
「⋯⋯承知いたしました。ビームのチャージには残り五分かかります」
そんな会話の最中にも、亘は赤い女に攻撃し続ける。だけど、ダメだ。鋭い爪や牙すらも、体内に入っていかない。
「仕留めきれない! もうすぐ融合が終わる!」
霊禍は右手にオーラを集中させた。色が濃くなっていくにつれてどんどん前後に伸びていき、鈍い輝きを放つ。
悪魔メフィストとの戦闘時に見せた、禍々しいオーラを放つ直刀。
──妖刀『綴命』
およそ霊禍の背丈に似つかわしくないその刀は、不死鳥に魅入られた者の特権。自己治癒や身体強化に次ぐ、もう一つの能力。
魔力で出来たその刃は、使用者《霊禍》本人の意に従い、軽やかに、それでいて力強く動く。
亘の融合が終わり、生身の肉体が露わになった直後。
霊禍の刺突が赤い女を貫き、それから紫炎が内側から湧きあがった。
熱が液体を蒸発させていく。
その熱気は臨や亘にも伝わるほどのもので、威力は申し分ないはずだった。
──それでもやはり、赤い女は復活した。
「これでダメならどうしろってんだよ⋯⋯」
三人は門の外から赤い女の復活の様子を眺めていた。
赤い女は、三人には目もくれなかった。無言のまま後ろを向き、屋敷の方角へと歩き始めた。
その目線の先は、
「⋯⋯! まずい、お嬢様が⋯⋯」
邸宅の玄関ドア。寝間着姿の奏が、目をこすりながら出てきていた。
「りん⋯⋯? さっきからなんのおと⋯⋯?」
奏は右手でドアノブを掴んでおり、左手には熊のぬいぐるみ。意識があるようで、ほとんどない様子だ。
赤い女が視界に入っていないようで、そのまま庭を直進し始めた。
「お嬢様、逃げて⋯⋯!」
三人は全速力で赤い女を追っていたが、亘と臨には攻撃の手段がない。霊禍のオーラ攻撃は奏を巻き込む可能性が高かった。
赤い女が、やっと奏の視界に入る。その頃には既に鉈が振り上げられていた。
頭が真っ白になった。
「うぎゃああああああああ!!!」
咄嗟の動き。ぬいぐるみを放り投げて、後ろに倒れ込む。鉈が右耳をほんの少しだけ削り取った。
霊禍の一撃。炎が側面から赤い女を蒸発させる。復活までの隙に奏の手を取り、強引に立ち上がらせた。そのまま家の中へと駆けていき、臨と亘もそれに続く。
「なっ、なななななななななななんですかあれは!!! ていうかまだ帰ってないんですのわ!? 耳痛いし!!」
「落ち着いてください! いまはあの女から逃げることだけを考えるのです!」
「あぁ~~もうなんかよくわかんないけど臨が言うならそうしましょう!」
一行は屋敷の奥へと進んでいった。




