お金持ちの友達の家 5
鉄格子越しに臨が二人を見下ろす。
「どうしても、帰るつもりはないのですか」
「アンタが知ってること、ぜーんぶ正直に話してくれたら帰ってやるよ」
「僕たちも疲れたので、話していただけませんか⋯⋯?」
「なぜそこまで執着なさるのですか⋯⋯?
あなた方には何も関係ないでしょう。そこまでする意味がわかりません」
霊禍は少し迷った末に、自分の目的を打ち明けた。
「私は両親ともども幽霊にブッ殺された。
だから幽霊も、それを利用する人間も、私にとっては全員敵だ。
関係の有無は問題じゃない。私の手が届く場所では、幽霊に誰も殺させない。
それが私なりの復讐だ」
「僕は付き添いです」
臨はしばらく二人を見ていた。
そして緊張が解けたかのように、ため息をついた。
「⋯⋯なんだ、いい子たちじゃないですか」
口元に微笑が浮かぶ。
「ですが、もう門を開けることはできません。早く家に帰ってください。ここで起きていることは、あなたたちには危険すぎる。」
「はぁ? いま和解する感じの雰囲気だったじゃ──」
その瞬間、鋭い金属音が響いた。
ガシャン、ガシャンと門が動く。三人とも身構えた。
「まだ九時なのに⋯⋯」と臨。
揺れは次第に勢いを増していく。鉄格子がはち切れんばかりに歪む。
──いつの間にか、門の下のレールに赤い液体が溜まっていた。
赤い汁は鉄格子に沿って徐々に体積を増していき、あっという間に霊禍の身長を追い越すほどになった。
霊禍がオーラを纏い、攻撃しようとした。しかし臨の動きのほうが早かった。
「二人とも、そこをどいてください」
臨は右の袖をまくり、赤い水たまりに腕を向けた。
臨の腕は細く、しかし確かな力強さを有していた。
水色の複雑な線が腕に走り、鈍い光を放つ。霊禍と亘はその様子を不思議そうに観察していた。
次の瞬間、その線に沿って、右腕が『開いた』。
まるで傘が開くかのように、複数のパーツが周囲にバシャリと展開し、中心の銀色の筒が露わになった。
その筒は砲身だった。光の束が中心に集約されていき、甲高い駆動音が響く。
──義手だ。
そして、ビームが放たれた。
青白く鋭い閃光が走る。
耳をつんざく破裂音。周囲の空気は熱を帯び、砲身の震えが二人の肌にも伝わってきた。
ビームが直撃した辺りの鉄柵は溶け、アスファルトすら抉れる。無論のこと、赤い液体は、跡形もなく消滅していた。
「⋯⋯撃てるんかい」霊禍が呟いた。
臨はそんなツッコミをスルーし、砲身を納めた。
「お怪我はございませんか?」
「大丈夫です⋯⋯っていうかそれ、どういうテクノロジーで⋯⋯」
などという、つかの間の安心はすぐに消え失せた。
「おい、霊禍、あれ⋯⋯」
赤い液体が、またしても地面に溜まっていた。グツグツと沸騰しているかのような動きを見せている。
臨がもう一度、義手を向ける。しかし、砲身がむき出しにはなったものの、青白い光は浮かび上がってこない。
「⋯⋯エネルギー切れです」臨の表情は暗い。
液体は膨張し続ける。ブクブクと、形成され、大きくなっていく。
日の光などないため、亘と臨は門の照明だけを頼りに、その形を捉えるしかなかった。
それは肢体となり、ドレスとなり、手元には鉈を形成した。
──赤い女が、そこに生まれた。




