お金持ちの友達の家 3+4
鎌鼬奏とメイドの臨は慣れた足取りで豪邸の中を進んでいく。しかし続く霊禍と亘にとって、屋敷の中は異次元に等しかった。
天井が高い! 廊下が広い! 照明が意味わからない形をしている!
「ふふーん、どうです? さすがお金持ちでしょう?」
「お前が得意げになるのはムカつくけど⋯⋯これは確かにすげーや。玄関にゴミ袋とか置かなくていいんだ」と霊禍。
「廊下でこの広さ? リビングとかどのくらい広いの?」亘も純粋な関心を寄せた。
「フフフ、もっと褒めなさい。そうすれば鎌鼬家にも箔が付くというものですわ」
「お嬢様、あまり家のことは言わないでください⋯⋯」
亘は、臨の発言に少しだけ違和感を覚えた。奏の言う通り、鎌鼬家が有名な貴族なのであれば、別に家のことを隠す必要もないように思った。
まぁ、そういうマナーがあるのかもしれない。
一行はリビングに到着した。
家具さえなければバレーボールができそうなほどの面積。窓からは麓の町が一望できる。そんなリビングを構成しているのは、巨大なテレビ、広いテーブル、そして一畳以上はありそうなソファ。
そんな巨大ソファに、子ども三人が並んで座る。臨は紅茶を淹れてテーブルに置いた。
「それで⋯⋯本日は遊びにいらっしゃったのですか?」
「ん---っと、まぁ、そんな感じですね」
「では、庭でも廊下でも好きに使って遊んでください。それとも最近の子は、ゲームのほうが好きなのでしょうか? そこのテレビの下にゲーム機はありますよ」
「いやいや、やっぱ外で鬼ごっこしますよ。元気なもんでね、へへ」
「承知いたしました。では、ごゆっくり」
そう言うと臨は奥の部屋へと消えていった。
「⋯⋯さて、じゃあ門を調べに行くぞ」
それを聞いた奏は、飲んでいた紅茶を慌てて口から外した。
「え!? 鬼ごっこをするんじゃありませんの!?」
霊禍と亘は、呆れて声も出なかった。
「さ、さっきのは小粋なジョークですわよ。庶民には伝わらなかったかもしれませんけれど⋯⋯」
「亘、そっちなんか見つかったか?」
「全然。芝生も綺麗だし、違和感ない」
「──って無視ですか!?」
二人での調査は難航していた。そもそも霊禍の超感覚で何も感じ取れない以上、手掛かりは無いに等しいのだが、それでも一応、調査をしていた。
──霊禍の超感覚について詳しく知らない奏からしたら、一目見ただけで調査終了というのは、不服だろうから。
「んー怪しいものは見当たらないな⋯⋯」
と、亘が言っている間に、家のほうから足音が聞こえてきた。
振り向くとそこにはメイドの臨が立っていた。屈んで調査を進めている二人を、冷たい目で見下ろしていた。
「みなさん⋯⋯そこで何をしているのですか?」
霊禍が立ち上がる。
「えっと⋯⋯この辺に家の鍵を落としちゃって⋯⋯でももう見つかったので大丈夫っすよ、ほら」
ポケットから取り出された鍵に、臨は見向きもしなかった。
「下手な嘘はやめなさい。この門で起きたことを調べにきたのでしょう?」
冷たい風が吹き、霊禍は無言で鍵をポケットにしまった。
「⋯⋯そっすよ、監視カメラの映像、見せてもらったんで」
臨は横目で奏を見た。奏は肩を震わせながら目を逸らした。
「今すぐ立ち去りなさい。この件はあなたたちには関係ない。」
「えぇ、わかりました、立ち去りますよ⋯⋯。
だけどアンタ、怪しすぎるぜ」
風がさらに強くなった。霊禍の髪と臨のエプロンドレスが靡き、存在感を強めていた。亘は霊禍の後ろに立っている。奏はこの会話を横から聞くことしかできなかった。
4
「まず前提として、この家には人が少なすぎる。こんなに広いのに、いるのは奏と臨さんだけだ。
屋内から他の人の気配は感じなかったし、ガレージの車も一台だけ。残りのスペースはもう一台入りそうに空いていたが、タイヤ痕の欠片すら見当たらなかった。車なしじゃ不便なこの場所で、徒歩移動なんてするわけがないしな。つまりアンタはこの家で唯一の大人だ。
そして、アンタ自身の行動もおかしい。私たちの要件が気になるんだったら、最初に会った時に聞けばよかったはずだ。そこで外遊びをするとわかれば、わざわざリビングに招いて紅茶を出す手間が省けるのに⋯⋯《《どうして私たちを家の中に招いた》》? 私たちを門から遠ざけようとしてるのが見え見えなんだよ」
臨は表情一つ変えずに答え始めた。
「家族の人数に関しては回答を控えさせていただきますが⋯⋯客人が来たら部屋へ招くのは当然でしょう。それに、門の付近は危ないですから、遠ざけるのは当たり前です」
「危ない⋯⋯? そんなに危ないんだったら、私たちを追い返せばいい。危険だとわかっていながら、どうして家に入れたんだ?」
臨は黙った。霊禍は調子づいて話し続ける。
「それにアンタ、さっきから家の情報が外に漏れるのを嫌がっているな? 監視カメラの映像もそうだし、廊下を歩いていた時も『家のことを言うな』とか⋯⋯。
鎌鼬家は有名な貴族サマなんだろ? ウザいけど別にいいじゃん自慢して。
それともなにか⋯⋯隠しておきたい秘密でもあるのか?」
臨は返答しようとしていた。だがそれを遮り、霊禍は最後の一言を放った。
「なぁアンタ、人を殺したことあるだろ? そういう立ち振る舞いだ」
一気に空気が冷めていく。臨の顔は青ざめ、額から汗が吹き出ている。
ここで臨が沈黙すること自体が、その問いを肯定しているに等しかった。
亘が「言い過ぎだ」と言おうとしたが、それよりも圧倒的に大きな叫び声が辺りに響いた。
「なに言ってんですか⋯⋯このバカ!!!!」
奏の声だった。鼓膜が破れそうなほどの大声。
「さっきから黙って聞いていれば⋯⋯臨が怪しいだの、秘密があるだの⋯⋯挙句の果てに人殺し扱いまでして!!!
臨はほとんど一人で私をここまで育ててくれた! それを疑うだなんて!!」
奏の目元には大粒の涙が浮かんでいた。
「この家に一人だけの大人? そりゃそうでしょう! お父様はスウェーデンに行っているんだから!
危険なのに家に招いた理由は、私が遊ぶのを止めたくなかったから! この家に秘密なんてないし、臨は人殺しなんかじゃない!」
涙が次々と溢れていき、芝生に落ちていく。過呼吸になりながら、それでも奏は言い切った。
「絶対ゆるさない⋯⋯もう帰って!!!」
奏は臨の服を引っ張り、家に入るように促した。霊禍と亘は仕方なく門の外に出て、二人が家に入っていくのを眺めていた。
門は自動的に閉められた。
「どうする⋯⋯?」霊禍が尋ねる。
「僕に策がある」と亘。
それから5時間後。
──二人は、まだ門の前に立っていた。
鎌鼬家に拒絶されたこともあり、これ以上の調査は不可能かのように思われた。無理やり敷地内に入れば警察沙汰は免れない。いくら不死鳥の力や守護霊を保有しているといっても、二人は単なる小学生。よほどのことがなければ犯罪に手を染めたくはない立場だ。
しかし、唯一つ残されている手段があった。
それは『張り込み』だった。
門の前に直立し、一歩も動かない。それだけの単純な策。
当然ながら、邸宅の窓から二人の様子は丸見えだ。警戒されてはいるだろう。しかしそれがいいのだ。
二人は小学生。帰宅していないことを知りながら夜道に放置するなど、まともな神経をしている大人ならできないはずだ。
仮にそれがダメでも、奏の学校や臨の買い物などで、そう時間が経たないうちに二人のうちどちらかは必ず門を通る。
ちなみに裏門などがないことは、霊禍の超感覚で確認済み。トイレや食事に関しては、山の麓にコンビニがあるため、往復二十分ほどで対応できる。その間どちらか片方が張り込んでいれば、それでよいのだから。
⋯⋯というのが、亘が考えた作戦だった。
そして現在時刻は、夜の九時。
ついに、玄関から臨が現れた。
亘は本当に遠慮がないね




