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お金持ちの友達の家 1

 貨物列車での戦いの数日後、ある晴れた日の昼休み。幽ヶ崎(ゆうがさき)霊禍れいか墓山はかやまわたるは、ある一人の少女に、空き教室に来るように言われていた。


 二人はわけもわからないまま、指定された時間にその教室へ向かった。


 そこにいたのは、ブロンドヘアの華奢な少女。


 日本の田舎町には不相応な、西洋風の衣服。髪型はまさかのツインドリル。絵本の中から飛び出してきたかのようなビジュアルだが、歴とした幽魔小学校の児童である。


 ──名は鎌鼬かまいたちかなでという。


「遅かったですわね。五分前行動もできないだなんて⋯⋯礼儀知らずな庶民ですこと」


 キャラ付けのつもりなのか、奏はいつも『ですわ口調』だった。今までの五年間貫き通されたこの口調は、本人のビジュアルと相互作用を起こし、ステレオタイプなまでのお嬢様じょうさまぞうを形づくっていた。


 ⋯⋯それがクラスメイトに好まれているかは、ともかくとして。


(どちらかというと庶民のほうが五分前行動をするイメージだと亘は思ったが、面倒なので黙っておいた)


「うるせーよ。さっさと要件を言えボケ」


 霊禍はいつも以上に語気を強めてそう言った。


「下品なおくち⋯⋯やっぱり庶民とはこういうことなのですわね⋯⋯。あーほんとお金持ちでよかったですわー」


「はいはい団地住みで悪かったですね⋯⋯これで満足か?」


 奏は満足そうに微笑んでいる。


「まぁ、それくらいでいいですわ。

 さてと、今日はあなた方に頼みがあって呼んだわけですけれど、どうしてもと言うなら聞かせてあげてもよろしくってよ?」


「⋯⋯? 奏が頼む側なんだよな? 言い方がおかしくないか?」


 亘は奏の言葉に純粋な疑問を覚えただけだった。しかしまたこれが話をこじらせることになる。


「だーかーらー! ワタクシのほうがお金持ちで身分が高くて偉いのですから、あなた方がワタクシの頼みを聞けるというのは、とっても光栄なことですのよ!

 本来なら『どうか頼みを聞かせてください』と頼むのが当たり前ですわ!」


「お前マジでいい加減にしろよボケ」


 しびれを切らした霊禍が詰め寄る。


「ボケとはなんですか! ボケとは!」


「テメーのことを言ってんだよ!」


「なんですの!? しょーもない庶民のくせに!」


 ⋯⋯言い合いは五分くらい続いた。


 亘は霊禍の怒鳴り声が聞けてラッキーくらいに思っていた。


「そ! れ! で! 本題に入りますけれど!」


「おう早く言えよエセ貴族!」


うちに幽霊が出たのですわ!」


 それを聞いた瞬間、二人の目の色が変わった。




「やっと大人しくなりましたわね⋯⋯。まずはこれを見てほしいですわ」


 幽霊という言葉に反応し、冷静さを取り戻した霊禍れいかわたる。幽霊の絡む話題であることは薄々感づいていたが、直接そう言われると、気を引き締めなければいけなくなる。


 かなでは机に置かれていたポシェットを手に取り、スマホを取り出した。幽魔小学校ではスマホの持ち込みは禁止されているが、バレないように持ち込む児童も少なくない。


 スマホの画面に映し出されたのは、監視カメラの映像のようだった。屋外の大きな門の付近を、俯瞰視点で収めている動画だ。門は自動車一台分ほどの幅があり、鉄格子が縦に連なったような形状になっている。


「これ、お前の家の門?」


「ええ。立派な装飾付きですわ」


 薄暗いモノクロの映像。どうやら夜間に暗視カメラで撮影されたものらしい。二人は身を乗り出して、映像を凝視する。

 しかし、十秒ほど経っても、映像に動きはない。風の音が入っていなければ、静止画と見間違ってしまいそうだ。


 徐々に気が抜けてきた頃、画面内の門が突然動き始めた。


 ガシャン!ガシャン!ガシャン! と音が響く。門は勢いよく前後に揺れ、鍵付きの留め具がちぎれてしまいそうなほどに歪む。その動きはまるで、何者かに強く揺さぶられているかのようだった。


 数秒経つと、門の動きは不自然なほどにピタリと止んだ。そして、映像も終了した。


「⋯⋯まぁ別に? ワタクシは怖くもなんともないですけれど? あまりにも不自然ですから、幽霊関連でなにかと噂の多いあなた方に調べてほしいのですわ」


「これ、風や動物に押されてたわけじゃないの?」と亘。


「そりゃないな。風の音は常にゆったり吹いていたし、動物はそもそも映っていない」


 霊禍は案外冷静な口ぶりだった。


「奏、門が揺れる直前からもう一回見せてくれ」


 奏はシークバーを戻し、もう一度再生し始めた。


「ここを見ろ。真ん中の鉄格子だ」


 霊禍は画面に指をさし、門のちょうど中心の辺りを示した。


 門が揺れ始める。その時、鉄格子の中腹辺りに、数ピクセルの影が出現した。カメラに付着したホコリのようにも見えたが、門の動きに沿って動いている。そして、門の動きが止まるのとほぼ同時に消えた。


「この白いのは⋯⋯偶然じゃなさそうだな」


 亘がそう言っている脇で、奏はまだキョトンとしていた。


「なんのことを言っていますの?」


「もっかい見てみろ」


 霊禍はもう一度再生するように促した。


「え〜どこ? どこですの?」


 奏は画面を凝視した。そしてやっと、その数ピクセルの影を捉えたとき、奏の全身に鳥肌が立った。


「ウワっ⋯⋯なにこれ⋯⋯よく気づきましたわね⋯⋯」


 確かに、一度ざっと目を通しただけでは気づきようもない小ささの影だ。そこはさすがの霊禍の超感覚といったところだろう。


「ってなわけで⋯⋯シャクだけど放課後調査に行く。お前に何かあっても胸糞悪いしな」


 こうして霊禍と亘は、奏の自宅へ赴くこととなった。


いいキャラになっていきます

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