プロローグ/沈黙の三年間 13
気がつくと、メフィストは消えており、部屋は元通りになっていた。
ソファに霊禍が座っていた。戦闘時に放出していた炎や、使用していた刀はすっかり消えている。
「⋯⋯ありがとう。いろいろと」
「別に大したことはしてねぇよ」
霊禍の声色はサッパリとしていた。
「部屋はメフィストが直した。サービスだとよ」
家具の配置や、小物の置き場までもが元通りになっている。亘は少し歩き回り、その完全さを確認した。
しばらくの沈黙の後、霊禍が話しだした。
「お前の母親が最後になんて言ったのか、聞こえなかっただろ」
「⋯⋯うん」
「私は聞き取れたんだけど、知りたいか?」
「いや、いい」
「そうか」
「でも、よく聞こえたね、あんな小さな声」
「まぁな、私は感覚が鋭いから」
そういえばそうだったな、と亘は昼間のことを思い出した。
「だから昼休みにお前が盗み聞きしてたのもバレバレだよ」
「えっ」
「キモいな〜とは思ってたよ。別に怒っちゃいないけど」
「⋯⋯ごめん」
「いいって。つーか、後ろのそいつは何?」
亘は後ろを振り向いた。そこには、あの見慣れた守護霊がいた。
グレイヴ。確かに彼自身だ。だけどそれにしてはあまりにも、
「静かすぎる」
「え?」
「コイツは前まで騒がしかったのに、今は何も言わない。というか、口自体が消えてるんだ」
「ふーん⋯⋯。そいつなりに思うところがあったってことじゃねーの?」
そうなのかもしれないな、と亘は自然に納得した。
「じゃ、私は帰る。お姉ちゃんがまた暴れるかもしれないし」
霊禍は玄関へ歩いていく。亘はそれを追った。
「あのさ」
「なに?」
「僕はこれから、どう生きていけばいいんだろう」
「どういうこと?」
「今までの人生には母さんがいて、特に指針がなくても母さんのために行動していれば、大きく間違うことはなかった。だけどこれからは、そういう基準が消えることになる。父さんは、そういう感じじゃないし」
「お前それ、どうしても誰かに基準を定めなきゃダメか?」
「僕はずっとそういう生き方だったから」
「⋯⋯だったら、しばらくは私を基準にしろ」
困惑も束の間、それも悪くないかもしれない、と亘は思った。
「⋯⋯そうしてみるよ」
「勝手にすりゃいいよ。勝手にな。私はもう帰る」
「引き止めてごめん。もう遅いのに」
「⋯⋯お前、名前なんだっけ」
「墓山、亘」
「一応、私は幽ヶ崎霊禍」
「すごい名前だね」
「ハハ、うるせーよ」
「⋯⋯じゃあね、霊禍」
「あぁ、明日絶対学校こいよ! 亘!」
この数日後、二人は『師匠』となる人物と出会い、大きく成長する。半年間の修行を経て、師匠は二人を残して海外へ飛んだ。
そして物語は、二年後、二人が小学六年生になった頃に戻る⋯⋯。




