表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

プロローグ/沈黙の三年間 9

「死にそうって⋯⋯どういうこと?」


「⋯⋯誰にも言うなよ。あいつはなんか心臓の動き方とか血流とか肌ツヤとか⋯⋯とにかく身体のあらゆる部分に覇気がない」


 会話の様子を直接見てはいないわたるにも、村上さんが困惑する様子が容易に想像できた。


霊禍れいかちゃんはお医者さんかなにかなの? どうしてそんなことが⋯⋯」


「んー⋯⋯感覚が人より鋭い⋯⋯って言えばいいのか。別に大したことじゃねえよ」


 その言葉を聞いて、亘はすぐにその場を立ち去った。自分が盗み聞きしていることがバレているかもしれない、と思ったからだ。




「死にそう」


 その言葉の真意は分からなかった。単なる比喩か、それとも本当に、自分に死が近づいてきているというのか。


 文字通りの意味なのだとすれば──身に覚えがないわけではなかった。


 寝ようとすると背中に鳥肌が立つ感覚。咄嗟の判断ができなくなる倦怠感。稀に痙攣けいれんする全身。日を追うごとに許容量が減ったように感じられる胃袋。気を抜くとボヤける視界。


 そんなことは、ちょっとした身体の不調に過ぎないのだと、亘は自分に言い聞かせていた。


「だーーいじょぶだっての! 絶対症状でググるなよ! 病院のホームページはやたらと死を煽ってくるからな!」


 心の中のグレイヴも、そう言っている。


 結局その日は、特になにも起きず、亘はそのまま帰宅した。




 墓山家は今日も騒がしかった。主に、母・花崗みかげのせいで。


「また増税〜!? 亘が大人になる頃には消費税1兆%になってんじゃないの!?」


 ニュースを見ての独り言だ。夜七時台は墓山花崗の独壇場。父はまだ帰ってこないし、亘には花崗を止めることができない。


「最近ガソリンも高いし~~! 1リットルで1兆円とかさぁ~~~!」


 なんとシラフである。家という究極のリラックス空間が花崗の理性を弾き飛ばすのだろう、と亘は察していたが、それにしてもこの大声には毎回驚いてしまう。


 二年前、そもそも税金やガソリン価格なんてものは個人の力では変えることができないんだし、文句を言っても仕方がないんじゃないかと、亘は考えたことがある。結局それはただの無責任にしかならないから、文句くらいは言ってもいいという結論になったのだが、それにしても母のぶっきらぼうな独り言は、責任とかそういう次元を超越しているように思えた。


「あ~~~~メシ作んなきゃ~~今日パピー遅いから~~~」


 パピーというのは亘の父のことだ。『パパ』をあだ名のように変えたせいで子犬になってしまっているが、花崗はそれを気にしたことすらない。


「手伝うよ」


「え~? いらんいらん! 遊んでな!」


 なぁんだ、と思った瞬間、鋭い頭痛が亘を襲った。


 まるで雷に打たれたかのような衝撃。なんの前兆もなく現れたその痛みが、亘の脳を焦がす。


 亘は思わず倒れる。花崗が慌てた様子で駆け寄ってくる。


「亘! どうしたの!? 亘!」


 その声に、答えることすらできない。それほどまでに強い痛みが、休むことなく持続している。


 視界が歪む。見慣れたリビングの色彩が四方八方に引き伸ばされ、地獄の様相を呈する。強烈な眩暈めまいと吐き気。あまりに暴力的なその症状に、亘は死を覚悟した。


「亘、いま救急車呼ぶから! 」


 花崗がスマホに手を伸ばす。画面に触れたその瞬間。


 なんの前触れもなく、その鉄塊は爆発した。


 うわぁ、と叫んだ花崗の頬と手のひらには、赤黒い火傷やけどが生じた。


「なっ⋯⋯なんで⋯⋯」


 あまりにも多すぎる出来事に混乱する花崗の背後で、足音がした。


 振り向いた花崗の瞳が捉えたのは、見知らぬ男。


 一目見ただけで理解させられる、人間とは次元の異なる美を備えた立ち姿。


 悪魔メフィストがそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ