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プロローグ/沈黙の三年間 5

 墓石の上の男は、テレビで見る俳優と同じくらいに整った顔立ちだった。


 微笑ほほえみながらもどこか物憂げに見える表情が、丁寧に着用された喪服と調和しており、まるで芸術品のように美しい。


 墓を踏みつける行為すらも、厳かな儀式かのように思えるほどに、その姿は『完全』だった。


 それなのに──わたるの脳裏に浮かぶのは、恐怖。


 または、それよりも本能的かつ根源的な拒否感と、圧倒的なまでの畏怖。


 亘は、急激に死にたくなってきた。


 これほどまでに圧倒的な存在がいるのに、自分なんかがなぜ生きているのか、理解できない。


 亘はとにかく、その完全な姿を直視したくなかった。かといって、一度あの姿を見てしまったからには、もうそれ以外の物を視界に映すのが億劫だった。


 だから亘は、もう目は不要だ、と思ってしまった。


 なんの疑問も持たずに親指を瞼の上に置き、そのまま押し込もうとした。


 その腕を、グレイヴが抑えた。


「なにやってんだバカ!」


 その叫び声で、亘はやっと正気になった。


 息が荒くなっている。心臓の鼓動がうるさいくらいに強くなり、視界の焦点が定まらない。


 それでも、数十秒かけてどうにか落ち着きを取り戻し、やっとパニックは収めることができた。


 自分の行いに恐怖しつつも、意を決してもう一度男を視界に入れる。


「おい、テメーは墓から降りろ! クソバカ!」


 よくアレに食ってかかれるな、と亘は感心した。


 男は軽やかに、重力を感じさせない動きで飛び降りた。


「いやぁ、ごめんごめん。高いところが好きでさ」


 さも当然かのように男は言った。


「テメー誰だよ! 時間止めたのもお前か!?」


 男は少し考える素振りを見せた。


「ボクのことは、メフィストとでも呼んでほしいな」


 メフィスト。亘にも聞き覚えのある名だった。キリスト教の有名な悪魔だったか。その名に恥じない品格を、その男は有していた。


「それと、これは時間停止というよりは、限られた霊体にのみ鍵を与えた意識の延長空間で⋯⋯なんてことはどうでもいっか。手っ取り早く、要望だけ伝えるね」


 メフィストは人差し指を立てた。白い手袋に包まれていた。


「グレイヴをボクに渡してほしいんだ。そうすれば、亘クンのお母さんを蘇らせてあげる」


 その条件は、亘にとってあまりにも都合がよかった。


墓に乗ってたくせに強そう

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