プロローグ/沈黙の三年間 4
亘は外へ出た。
夜空では、亘の心など無視するかのように満天の星が輝いていた。
駐車場の端までたどり着き、そのまま林へと入る。
「おい、亘!」
グレイヴが追いかけながら叫ぶも、亘は無視して進む。
「おい!」
グレイヴの細い腕が、亘の肩を掴み、勢いよく木に押し付ける。
「お前⋯⋯なんで何も言わなかったんだ!」
亘は身体を震わせるだけで、何も答えない。
「母親が最後に聞く息子のセリフが、ミニ博多明太しらす丼でいいわけねぇだろ!」
そう言いながら、グレイヴは亘の肩を揺さぶった。その勢いで、亘の目から一粒の涙がこぼれ落ち、グレイヴの腕にぶつかった。
亘の頬は真っ赤に染まり、べちゃべちゃに濡れていた。
グレイヴは何も言えずに、亘の肩から手を離した。亘はそのまま木の根元に座り込んだ。静まり返った駐車場に、引き締まった息の響きだけが鳴っていた。
それからしばらくして、父が亘の様子を見に来た。そのまま父に連れられ、タクシーに乗った。
この日、亘は、今にも消えてしまいそうな浅い呼吸以外は、全くの無言のままだった。
数日後、葬儀が執り行われることになった。開始一時間前から次々と人がやって来る。
「まさか花崗ちゃんがねぇ⋯⋯」
「亘くん、大きくなったねぇ。もうすぐ四年生だっけ?」
「覚えてる? 亘くんが生まれたとき⋯⋯」
「いやぁ〜どうも久しぶりです、墓山さん」
「自分も納骨まで行きますよ」
見知らぬ親戚たちが、狭いホールで話す。
亘は、その会話の数々こそが葬儀の本当の意義なのだと、なんとなく察した。しかし、それを理解していようと、やはり居心地の悪さを感じてしまう。
それから、葬儀は無事に終わり、納骨へと向かうことになった。
雨が降っていた。
傘の下から亘が墓を眺めている。
かつて、亘の母・墓山花崗だった骨の数々は、父の手によって墓の底へと納められた。
「亘、今度こそ言えよ」
グレイヴの言う通り、この本当の別れに際して、『ありがとう』の一言くらいは言っておくつもりだった。
何人もの親戚が見守る中、墓の蓋が父の手で閉じられる──その瞬間。
亘が小さく「ありがとう」と呟こうとした、その一瞬の出来事だった。
世界が、止まった。
何が起きたのか、すぐには分からなかった。亘が慌てて周囲を見渡すと、親戚の人々も、森の木々や雑草も、雨粒の一つ一つまでもが、ぴったりと静止していた。
「おい、なんだよこれ!」
振り向くと、グレイヴがいつも通りに動いていた。うるささも、普段と変わらない。
「みんなどうした! なんで止まってるんだ!?」
グレイヴは近くにいた親戚のおばさんに触れたが、反応はない。亘はひとまず父親に触れようとした。
「やぁ、亘クン」
上方から声がした。若い男の声だ。
亘とグレイヴは、声の出処を見上げた。
亘は、その男の喪服姿から、彼が葬式の参列者なのではないかと一瞬考えた。
しかしそれにしては、彼のいる位置はあまりにも品がなかった。
──その男は、墓石の上に立っていた。
迷惑系youtuberですかね




