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お嫁サンタ  作者: celestial
2/10

出逢い/01


 池付きの広い庭に綺麗に整えられた庭園、几帳面に配置された置き石の数々。

 その日本の美を如何なく感じさせる広大な敷地を持つ、純和風の平屋の一角に少年はいた。


 少年の部屋は落ち着いた自宅の庭と同様に綺麗に片付いていた。

 いや、正確に言うのならば物があまり置かれていない殺風景な部屋であった。そのシンプルな構造の部屋は如実に少年の性格を表している。


 そして、その殺風景かつシンプルな少年の部屋はというと、畳の上に敷かれた布団一式と小さな卓袱台だけだった。

 それ以外には何もない生活臭の少ない少し淋しさを感じさせるだだっ広い部屋。


 その部屋の中央辺りに敷かれた布団の中で少年はすやすやと眠っていた。


「ふみゅう……」


 少年の名前は黒崎空雅くろさきくうが

 「空のように雅な男たれ」と両親が与えた珍妙な名を持つ少年であった。


 少年改め、空雅はゴロリと寝返りを打つ。その拍子に鼻まで覆っていた掛け布団がはらりとはぐれる。


「ん……、うん……」


 因みに今は絶賛“冬”である。当然ながら布団がはぐれると寒い。暖房器具一つない殺風景な部屋ともなれば尚更。


──畢竟ひっきょう、寒さを感じた空雅は目を醒ますのであった。


「ふぁ〜〜」


 大きな欠伸を一つ。

 それと共に吐き出される白い吐息が冬の寒さを訴えかける。


 グシグシと眠そうにまなこをこする空雅のパジャマには可愛らしい水玉模様があしらわれていた。空雅がちょこんと頭の上にのせているナイトキャップと同じ柄である。


 しかし何故また男である筈の彼が、こんなにも可愛らしい寝巻きを身に纏っているかというと、理由は単純かつ明快。至極簡単な理由である。


 彼は“大”の可愛い物好きなのだ。可愛い物には目がない。そういった理由で空雅は恥ずかしげもなく男が着るのには少々躊躇われるようなファンシーな柄のパジャマを身に纏っているのだった。


 しかし、そんな可愛いパジャマも彼は違和感なく自然に着こなしていた。

 漆黒の艶やかな黒髪に、黒曜石のように輝く黒く丸い瞳。

彼のその優しそうな顔立ちに実に可愛らしいパジャマは合っていた。


「くぁ〜……、眠っ」


 本日ニ度目の欠伸を漏らし、まだ温もりが残る布団に再び倒れ込む。

 目的は勿論、人類の最高の至福とされるザ・二度寝を敢行する為だ。


 そうして二度寝をするべく布団に倒れ込む空雅であったが、ふとその動きを止める。

 布団にダイブをしようとした瞬間、視界の端に見慣れない物体を捉えたからに他ならない。


 殺風景な広い部屋には敷き布団一式と卓袱台しかない筈である。そう、ない“筈”なのだ。


 しかし、どういったワケかそれ以外の物がある。


「……何で鎧?」


 空雅が呟いた通り部屋の片隅には金属特有の鈍い光を放つ西洋風の甲冑が一体。静かに、厳格に、そして不気味に、佇んでいる。

 爽やかな朝には不釣り合いなことこの上ないのに加え、日本の伝統美溢れる和室に西洋甲冑は超絶似合わない。


 空雅は暫し圧倒的存在感を持って部屋に君臨する西洋甲冑を寝ぼけた頭で凝視する。

 それから、ヨロリと立ち上がりフラフラと覚束ない足取りで甲冑に近寄る。そして再び甲冑をじいっと見つめた後、ふと興味を無くしたようにふぃと顔を背ける。

 そしてガシガシと頭をかきむしりながら部屋を出て行くのであった。





 さて、現在広大な敷地を誇る純和風の平屋の一室では、座布団の上に座った一人の少年が卓袱台の前で腕を組み、「うんうん」と唸っていた。


 少年の名は勿論、空雅。


 彼が唸っている理由は考えるまでもない。部屋に不法投棄されている不可解極まりない西洋甲冑である。


 時刻は昼前。

 遅くまで惰眠を貪っていた寝坊助さんの空雅でも流石に起床する時刻だ。


 顔も洗い、着替えも済ませた空雅は寝ぼけた頭も覚醒させ普段の冷静な思考を取り戻す。


 普段着は可愛い柄のものではなく、パリッとしたスーツ姿。淡いピンク色のカッターシャツにグレーのスーツ。純白のネクタイはアクセントとなって全体を引き締めて見せる。


 何故彼が休日にも関わらずスーツ姿なのかと問われると、偏に「面倒くさい」の一言に尽きる。

 逐一服をコーディネートするのが面倒なのだ。

 その点スーツなら服を選ぶ必要がなく、そつなく無難に仕上がる。

 そんな理由で彼はスーツを身に纏っているのだった。


 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

 目下の問題は目の前にある謎の塊と化している西洋甲冑である。


 太陽の光を浴び鈍い光沢を浮かべるそれは部屋一杯に不穏な空気を醸し出していた。


 西洋甲冑の高さは割と小さめ。とは言っても、空雅の胸元くらいの高さは充分にある。

 それは如何にも中世ヨーロッパに作られたような甲冑で、映画などで騎士ナイトなる者がこれと類似したモノを身に纏っていたのを度々見かけたことがある。

 そして、かなり重いと思われる。思われる、と言うのは実際に持って質量を確認したわけではないからだ。しかし、重厚かつ鈍重な輝きを持つそれは素人目にも一目で金属だということが解る。

 よって空雅はこれを重いと結論づけたのだった。


「しかし、誰がこんなモノを持って来たんだろう? ……相当重いと思うんけど」


 空雅は可愛らしく小首を傾げる。

 思案顔になり思考を巡らすが、どうにも理解できなかった。


 誰が? 何の目的で?


 こればかりは、いくら頭を捻ったところで蛇口よろしく良い考えが出てくるものではなかった。


「あ、もしかして、クリスマスプレゼントかな……?」


 空雅がポツリと呟く。

 クリスチャンでもない空雅は今朝に至るまで、クリスマスのことをすっかり失念していたが、先程居間で見たニュース番組で言っていた。


 そう、今日は天下御免の十字架親父誕生祭──、通称“クリスマス”である。


「……でも、こんなモノをプレゼントされても困るな。全くサンタさんの人格が疑われるね」


 空雅はこの不可思議な西洋甲冑 を置いていった人間を、サンタだと結論づける。一応、根拠はある。消去法で考えた結果であった。


 まず、両親がプレゼントしたというのは有り得ない。確かに空雅の両親なら、この趣味の悪いとしか言いようのない西洋甲冑も真顔でプレゼントするくらいのハイセンスの持ち主(当然、皮肉である)だが、それはないのだ。

 両親は二年前に交通事故で死んだ。

 つまり、両親がこれを置いて行ったという線は完全に消えるわけである。


 ならば、外部の者がコレを?


 そうは考えてみたものの、それは物理的に不可能だと即座に気がつく。

 いくら自分は寝付きがいい方だとは言っても、自分に気づかれることなくこの部屋に入ることは不可能。

 更に悪いことには、この家の周りには、グルリと背の高い塀で覆われている。つまりは、あの重たそうな甲冑を背負った状態で、高く威圧感のある塀を乗り越えなければならないのだ。

 そして、そんなことが“常人”にできる筈がない。


 ……という消去法の結果、この用途不明な西洋甲冑を置いて行った犯人は“超人”であるサンタに他ならない、という結論に相成ったわけである。少々常識的には無理がある結論だが、気にしてはならない。




 ぐぅぅ〜〜



 そんな事を考えていた折り、閑散とした静かな和室に何とも情けない音が響いた。

 音源は空雅の腹であった。

 時計を見ると昼を少し回った頃。

 普段ならまだそこまで腹が減るような時間帯ではないが、如何せん今朝は起きる時間が遅かった。

 故に朝食も食べていない空雅には、かなり堪えた。


「うん、お腹も減ったしご飯にするかな」


 誰に言うでもなくそう呟くと空雅は立ち上がり、再び部屋を出て行くのであった。





「何にもない……」


 パタンと冷蔵庫の扉を閉める。


 現在、空雅は昼食を取るべく、自室からは少し離れた厨房に立っていた。

 キッチンや台所と呼ぶには広すぎるそこはまさに厨房。

 やはり綺麗に片付いている厨房にはオーブンやフライヤーは勿論のこと、グリラーにグリドルまでが備え付けられている。

 それに加えて沢山のシンク、料理好きには堪らない夢のような空間である。


 しかし生憎、空雅は別段料理好きというわけではなかった。幼いころ母親に料理を仕込まれた空雅は実は人並み以上に料理が得意だったりするのだが、ここ最近は厨房に来ることもめっきりと減った。


 昔は料理を作って、それを食べてくれた人の笑顔を見るのが好きだった。だが、今は食べてくれる相手がいない。両親は既に死んで広い屋敷に一人きりだ。

 自分が料理を作るのは己の餓えを凌ぐときのみ。

 それ以外は厨房に立つこともない。


 更にそれに加えて、家政婦さんも一人雇っている。

 いつもはその家政婦さんが調理をこなしてくれるので、わざわざ自分で作る必要もない。


 しかし、現在その家政婦さんはと言うとこの屋敷にはいないようだ。

 今日はクリスマスということもあり、丸一日暇を与えている。

 つまり、今日1日は自ら調理するしかないのだ。


 そしていざ調理を開始しようと、冷蔵庫を開けてみたのだが……


「何にもない……」


 冷蔵庫の中はものの見事に空であった。

 このときばかりは、食材を余すことなく使い切る有能な家政婦を恨んだという。


「仕方ない、どうせ夕飯の材料も買わなきゃだし、ついでに外で昼食を取るか」


 そう言って空雅は短い嘆息を一つ。

 極度の面倒くさがりの空雅にとって、外にでるのはあまり好ましくない。ましてや冬の寒空の下である、暗鬱な気分も一入ひとしおと言ったところだろう。


「よし、そうと決まったらとっとと行って来るか」


 早いところ昼食と買い物を済ませて帰宅したい空雅は、クルリと踵を返して厨房を出ようとする。


 そして、厨房を出ようとした空雅は、振り返った体制のまま固まった。


「………」


「………」


 空雅と西洋甲冑の無言での物言わぬ応酬。



──そう、振り返った先には“空雅の部屋にいる”筈の西洋甲冑があるのだった。

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