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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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2252/2256

第2250話「砂糖の衣」

 レティたちににこやかに迎えられ、優雅にコーヒーを啜ることとなった。マスターこだわりのオリジナルブレンドが、まるで味がしない。レティたちがいつログインしたのかもまったく分からなかった。カルフォンに全てを委ねるのも良し悪しだ。


「レッジさん? 聞いてます?」

「はい」


 結局、彼女たちが怒っている理由は、俺とレアティーズが揃って行方をくらませたからである。なにせ、俺はともかくレアティーズはエルフの使節団の重要人物。彼女がいなくなったとなって、上から下への大騒ぎだったとラクトが恨みがましい目を向けてきた。


「で、わたしたちがあっちこっち手分けして探してる間、二人は仲良く楽しく工場見学してたんだ」

「申開きもございません」


 素直に謝罪すると、彼女たちもひとまずは怒りを収めてくれた。


「とりあえず、ここでの食事代を」

「もちろんだ。それくらいは」

「あとは、今度レティたちともデートしてくださいね」

「もち、うん?」


 デート?

 と首を傾げる暇もなく、レティはこの日一番の笑みを浮かべる。俺は何か、変な言質を取られたのではないか。まあ、一緒に買い物や工場見学に行くくらいなら別に言われればいつでも行くんだが。


「というかレッジ、せめてメッセージの通知くらいはちゃんと気付いてよ。ウェイドがストレスで過食気味になってたんだから」

「それはいつものことでは?」


 じろりと睨まれたので素直に黙る。

 俺は空気が読める男である。


「あと、植物園の方も準備が整ってるよ。ウェイドとオフィーリアたちはそっちにいるから」


 今は姿が見えないウェイドたちは、先行して待ってくれているらしい。彼女たちにも悪いことをした。レアティーズもしょんぼりとして、深く反省しているようだった。

 植物園に入る準備が整ったならば、早速そこへ向かいたい。

 俺は席から立ち上がり、伝票を確認する。


「ごじゅっ……!?」


 そこに書かれていた数字の桁の多さに思わず大きな声が出そうになる。


「どうかしましたか、レッジさん?」

「い、いや……なんでもない」


 寸前でなんとか喉を締めて声を抑え、平静を保つ。

 俺はレティに、ちゃんと笑えただろうか。一抹の不安を抱きながら、代金を支払う。〈新天地〉はコーヒーもうまいが、理性のぶっ飛んだデカ盛りメニューも豊富なことを忘れていた。


『ごめんね、レッジ。あーしが勝手なことしちゃったから……』

「レアだけの責任じゃないさ。俺も一言残しておけば――」

「レッジさん?」


 しょぼしょぼとして謝るレアティーズを慰めていると、レティが低い声を発する。


「詳しく、説明してください。レティはいま、冷静さを、失いかけています」

「何が――ああ、これは街中でレアティーズの名前をそのまま呼んだら混乱するだろ? だから」

「へーーーーっ! ふーん、そうですか。そうですか! ちょっと追加注文しますね?」

「レティ!? ちょ、レティさん!? なんか高い順に注文してないか?」


 退店する流れになっていたのに、なぜかレティたちは再び腰を下ろし、猛然とメニューをタップしはじめた。俺の制止も儚く、伝票の数字はぐんぐんと増えていくのだった。


━━━━━


「ぐぉお……。財布がすっからかんだ……」

「ごちそうさまでした!」


 気持ちいいくらいの食べっぷりで、レティは山のような料理を完食した。健啖家すぎる。

 満足げなレティたちと共に今度こそ店を出て、俺たちは街の中心にある植物型原始原生生物管理研究所へと向かう。そこにはすでに人だかりができていて、その中心でウェイドたちが待ち構えていた。


「よ、ウェイド。すまんぬぐぶるぁっ!?」


 出会い頭に拳が飛んできて、吹き飛ばされる。

 有機外装の身体は軽いし小さいし、ウェイドの拳が当たりやすい。石畳に転がる俺を見下ろし、銀髪をゆらめかせた鬼の形相のウェイドは鼻息を荒くしていた。


『急にいなくなったかと思えば音信不通で、まったく。何をやってるんですか。無駄な仕事を増やさないでください。殴りますよ?』

「殴ってから言うなよ……」


 パキポキと指の関節を鳴らすウェイド。その手が半透明の白い結晶で包まれているのに気がついた。


「それは?」

『タクティカルシュガーアーマー、TSAですが』

「さも当然みたいな顔で……」


 どうやら特殊な砂糖を素材とした防具らしい。どういうことだと思わなくもないが、ウェイドは砂糖に大量の研究資金を投じているからな。そういう砂糖もできるのだろう。


『普通の装備品は、基本的に調査開拓用機会人形専用です。ですがこれは砂糖結晶によるもの。エルフだろうと有機外装だろうと、問題なく装備できるはずです』


 そう言いながら、彼女は半透明の結晶で作られた装備一式を取り出す。

 どうやら伊達や酔狂で砂糖装備を作っていたわけではなく、俺たちの使用を考えて開発してくれたらしい。


「ベタベタしたりもないんだな」

『普通に防御力のある砂糖ですからね。正直、あんまり甘くないですよ』


 なぜか残念そうに言うウェイド。別に装備に甘さは求めていない。

 試しにTSA装備を身につけてみると、ぴったりとフィットした。動きづらくもないし、快適なもんだ。

 レアティーズたちエルフのぶんもあるようで、ウェイドが装備を配っていく。


「レッジさんが白い装備っていうのは珍しいですね」

「自分でもちょっと違和感があるな」


 とはいえ、さほど不恰好というわけでもないらしい。ウェイドには感謝しなければ。


『では、行きましょうか』


 全員の準備が整ったのを見て、ウェイドは声をあげた。

Tips

◇タクティカルシュガーアーマー

 高密度結合によって非常に頑丈な結晶状態となった砂糖を用いた戦闘用防具。上質精錬鉄鋼と同程度の耐久性を持ちながら、機会人形以外でも問題なく使用できる。

 甘くはない。


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