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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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2251/2255

第2249話「静謐の個室」

 〈ウェイド〉の商業区画は競争率の高く、生馬の目を抜くような店同士の争いが日夜繰り広げられている。そんな喧騒から少し外れた路地裏。ひっそりと隠れるように佇む落ち着いた店構えのカフェがある。

 喫茶〈新天地〉――俺たちにとっては馴染み深く、この街においても老舗に数えられる名店である。

 ドアベルのしっとりとした涼しい音色が店内に響くと、メイド服を着た店員がやってくる。


『いらっしゃいませ、ようこそ新天地へ。――と、レッジさん、お久しぶりですね』

「久しぶりだな、ミモレ。元気そうでなによりだ」


 柔らかなオレンジ色の髪の少女。穏やかに笑みを浮かべ、丁寧な所作で挨拶をする。彼女もずいぶんと長い付き合いだ。


『おかげさまで。カミルちゃんとも、定期的にお茶をしてますからね』

「そりゃよかった」


 彼女の妹分に当たるのが、ウチの頼れるメイドさんことカミルなのである。さらに言えば、この店の裏に我ら〈白鹿庵〉の第一拠点があり、カミルは定期的にそこへ荷物整理のために訪れては、その足でミモレに会っていた。


『今日はまた、珍しい顔ぶれですね?』

「まあな。個室を取ってもらえないか?」

『かしこまりました。こちらへどうぞ』


 名店だけあって、ミモレの所作にも隙がない。彼女は俺の隣に立つレアティーズを見ても深く詮索することはなく、くるりと店の奥へ爪先を向けた。

 これまでも幾度となくここでコーヒーを飲んできた。攻略のための作戦会議や、新しいアイテム製作のための話し合いなど。この店がなければ生まれなかったものも多いだろう。

 〈新天地〉の魅力は多いが、俺が特に気に入っているのはプライバシーが確保されていることだ。個室を希望すれば、周囲を気にすることなく長時間過ごすことができる。現実の店と違って、回転率を意識しなくてもいいのも気が楽だ。


『こちらです』

「ありがとうな、ミモレ」

『いえいえ。ぜひ、みなさんでごゆるりと』


 にこやかな笑顔を残して、ミモレが去る。

 彼女の言葉に若干の違和感を抱きながら、ドアを開いた。


「こんにちは、レッジさん。デートは楽しかったですか?」

「うおおわっ!? レティ!? ど、どうしてここに!」


 革張りのソファにずっしりと身を沈める赤髪の少女。その両脇には、刀を立てたトーカ、何やら分厚い本を携えたラクト、エイミー、ミカゲ、シフォン、Letty、アンまで。〈白鹿庵〉が勢揃いである。


『れ、れれれれれレティ、ななななんかかんちがいしてない? あ、あーしとレッジは別に――』

「こんにちは、レアティーズさん。その格好もすごくよく似合ってますね? 変装だなんて、人が悪いじゃないですか」

『ぴぅ』


 にっこりと聖女のような笑みを浮かべるレティ。だが、俺の両肩には凄まじい重みがのしかかってくる。まるで重力そのものが倍増したかのような、異様な雰囲気。呑まれている。

 レアティーズもすっかり萎縮してしまって、俺の背中に隠れようとしている。無論、俺の方が小さいせいで隠れられていないのだが。

 ミモレはみなさんで、と言っていた。元々レティたちがここにいて、俺とレアティーズもそこに合流するものだと考えたらしい。優秀すぎる。何も悪いことはしていないのだが、


「とりあえずレッジ、何も言わずにいなくなったことに対して弁明は?」

「まことに申し訳ありませんでした」


 そうだった。ラクトたちに伝言も残さずに離れていた。

 恐る恐るカルフォンを確認すると鬼のように受信記録が残っていた。機会人形と違って直接メッセージの受信が確認できるわけでもないし、カルフォンを確認する習慣もないし、完全に忘れていた。


「それで、レアティーズさん。……楽しかったですか?」


 レティがレアティーズに視線を向ける。

 ニコニコと、その光景だけを見れば和やかな雰囲気だ。


『はひん』


 レアティーズは蚊の鳴くような声で頷いた。

Tips

◇新天地ブレンド

 喫茶〈新天地〉のマスターがこだわり抜いた、最高の一杯。季節ごとに変化する微妙な味わいをじっくりと吟味して、その時々で最適のものを提供することを信条にしており、毎日味わいが異なる。

 一口飲むだけで世界が変わる、コーヒーの新たな世界がひらける一杯。


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