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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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第2242話「はるかな空へ」

 レアティーズとオフィーリア、そしてエルダーエルフのログウッドと彼の側近である神祇官数人。オトヒメによって選出された使節団のメンバーは、総勢で十人弱となった。少ないようにも思えるが、〈妖精の王国〉の古エルフを合わせても、一族の数自体がそう多いものでもない。割合で見ればかなりの大所帯と言っていいだろう。


「レッジ、本当にレアティーズたちを外に連れ出すの?」

「心配か? こっちも準備してるし、ナナミとミヤコもいるんだ。大丈夫だろ」


 先ほどから気が進まない顔をしているラクトを安心させる。俺たちだけならともかく、ウェイドたちによるバックアップもあるのだから警護の態勢は盤石だ。


「そういうことじゃないんだけど……。はぁ」


 しかしそれでも物足りないのか、ラクトは深いため息をつく。これ以上どうすればいいのだろう。


「まあ、わたしもしっかり付いてればいいか」

「もちろん。ラクトにも期待してるぞ!」

「はぁ」


 不可解だなぁ。ラクトはいったい、どうしてしまったのか。


『レッジー! 準備できたよ!』


 そうこうしていると声がかかる。神殿の奥から現れたのは、いつもの民族的なドレスをさらにグレードアップさせ、耳や胸元にも鮮やかな色石の飾りを着けたレアティーズだ。彼女の背後には、同じような格好をしたオフィーリアもいる。

 二人とも、いつものゆったりとしながらも動きやすそうな姿から変わって、まさしく巫女姫という称号が相応しい荘厳な雰囲気だ。


「おお……」

『ふふん』


 じっとこちらを見つめてくるレアティーズ。何かを期待しているような顔で、笹型の耳をピクピクと揺らしている。


「似合ってるぞ、綺麗だな」

『んふっ。ふへへっ、そうでしょ! でしょでしょ! レッジってば、わかってるぅ!』


 親指を立てて素直な感想を伝えると、レアティーズはぴょこんと飛び跳ねて満面の笑顔になる。真面目な表情をしていると、つい手を合わせて拝みそうになるほどに神聖な清らかさを見せる彼女だが、無邪気にはしゃいでいる姿は幼い少女のようだ。


「はーっ! まったく! まったくだね、まったく!」

『アイツ、ホントニヤバインジャナイ?』

「ミヤコもそう思うよねぇ?」

『アレガレッジサンラシイ、ト言エバレッジサンラシインデスケドネ』


 後ろでラクトがミヤコたちと話し込んでいる。

 そんなことをしていると、神殿の奥から更に重々しい足音が重低音で響いた。


『待たせたのう。この法衣に袖を通すのも久しぶりでな』


 現れたのは、神祇官長ログウッド。悠久の時を生き、絶え間なく魔術の研鑽を積んできた、歴史そのもの。彼も塔の外へと出るとなっては装いを変える。それはレアティーズたちと同様に、エルフ族の神事で用いられる最上位の儀礼服だという。

 シミひとつない純白。それは極限まで張り詰め、今にも弾けそうなほどの緊張感を孕みつつも鋼のように固く鮮やかな光沢を放っていた。老躯を隙間なく覆う布地にはその凹凸がありありと浮かび、巌のような筋骨が見て取れる。


「なんか、仙人みたいだな。それも拳で戦うタイプの」

『仙人……? よく分からんが、これは黄園の王を助けた折に送られたものじゃよ』


 かっこよかろう、と腕を曲げて力瘤を見せつけてくる。白髭を豊かに蓄えた老人だというのに、背丈と分厚さだけは若々しい大樹のようだ。

 しかし黄園……。レゥコが治めていた〈黄なる園の守人〉たちの国のことだろうか。全体に光沢のある美しい衣装は、たしかにそちらの文化色をどことなく感じるところもある。

 豪華絢爛というよりも質実剛健。無駄を排した機能美のようなものが、そこに宿っている。

 "深紅の燃眼"を得るために、ログウッドが魔樹を燃やす。そのため、レアティーズたちのように動きづらそうな儀礼服よりも、実用性が求められるのだろう。


「神祇官の服もかっこいいな……」

『あれもまた神聖なる法衣じゃ。お主なぞ、触れることすら叶わんわい』


 ログウッドのそばに控える神祇官たちも、どことなく東洋の雰囲気を感じさせるゆったりとした動きのある服を着ている。どれも光沢があってなかなかかっこいい。

 魔術師のための装備などはまだあまり研究も進んでいないようだが魔力を高めたりスペルの威力を上げたりするものもあるのだろうか。


「よし、それじゃあ行くか」

『いえーーーいっ!』


 使節団の用意も整い、俺たちは塔を下る。大エレベーターを使えば、あまりにも呆気なく外へと繋がる。だが、レアティーズもオフィーリアも、ログウッドたち古エルフたちも、緊張に表情を固くしていた。

 彼らにとっては、文字通り異世界へと足を踏み入れることになるのだ。塔の中の天空街と地上街、そして地下街だけしか知らない彼らが、空も地も果てることのない広大な世界へと。それは空に向かって飛び立つような開放感と恐怖があるはずだ。


「大丈夫だよ、レアティーズ」

『……うん。レッジと一緒なら、怖くないよ!』


 彼女の手を握り、共に踏み出す。

 その日、エルフたちが塔の外へと姿を表した。

Tips

◇黄濁の戦乱

 かつて〈黄なる園の守人〉たちを襲った大規模な侵略。外なる領域から押し寄せてきた無尽の軍勢は黄園を野火のごとく食い荒らし、滅亡へ追い詰めた。古のエルフの助力によりその窮地は打開され、英雄には園王より法衣が贈られたという。


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