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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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第2241話「旅行にいこうよ」

 "深紅の燃眼"を手に入れるために必要な魔樹。それは世界を燃やし尽くす凄まじい力を持つという。それを聞けば、俺もラクトも、他ならぬウェイドもピンと来る。


━━━━━

◇“昊喰らう紅蓮の翼花”

 現在は滅びた原初原生生物。第零期先行調査開拓団によって蒔かれた“生命の種”から生まれた初期の原生生物。

 莫大な熱エネルギーを内部に蓄え、高温状態にある植物。ほとんどは非常に高い難燃性、高熱耐性を備えているが、花弁だけはごく僅かな熱や光、衝撃によって発火する。その際に内部に蓄積した熱エネルギーが広範囲に拡散され、周囲の他の植物を焼き払い、焦土と化した土地に種を広げる。

 発火、爆発の衝撃は凄まじく、その火柱は時に成層圏に達することもある。あらゆる有機的生命体を焼き焦がし、養分として取り込み、更に版図を広げる。

 一時期は地上のほぼ全てを覆い尽くし、最大の繁栄種として栄華を誇っていた。しかし、気候変動や他種族の台頭によって絶滅する。


━━━━━


 第零期先行調査開拓団が生み出した、環境すら変えるほどの力を持つ植物。おそらく、レアティーズたちが言っているのは、これのことだろう。


『ダメですよ』

「ウェイドさん!?」


 俺が何かを言う前に、仏頂面のウェイドがぶった斬ってくる。


「まだ何も言ってないんだが……」

『あの花の種子を持ち出すことは禁止です。あまりにも被害が大きすぎるので。そもそも今のあなたには持ち出せないでしょうがね』

「うぐ。それはまあ、確かに……」


 "昊喰らう紅蓮の翼花"は種子の状態でも非常に高い発火能力を備えている。そうでなくとも、万が一種子が流出でもすれば、それだけで惑星イザナミがヤバい。

 ここにきて、インベントリの重要性に直面する。

 あんなに危険な原子原生生物でも、インベントリに収納しておけばとりあえずは安全なのだ。魔術師は、それを安全に運ぶことができない。そのうえ〈栽培〉スキルもないから、安全に発芽させ育てることすら難しい。

 流石に今の状況でカミルに代役を任せるわけにもいかないしな。

 有機外装の不便なところが、一気に噴出してきた。どうしたもんか。


『レッジもウェイドも、魔樹について心当たりはあるんだね?』

「一応な。それを持ってくることは――」

『ダメです』

「みたいなんだが」


 流石に頑ななウェイドだ。こればかりは砂糖の塊を袖の下に通しても、撤回してくれそうにない。……たぶん、そこまで堕ちてはないだろう。


『じゃ、あーしたちが行ってもいいよね?』

「うん? うーん、それなら……いいのか?」


 確かに俺たちが紅蓮の翼花を持ち運ぶことはできない。しかし、レアティーズたちが向かうぶんには何ら問題はないような気がする。


『だ、ダメですよ! そもそも原始原生生物は非常に危険なものなんですよ。それを素人が扱うなんて――』

「レアティーズたちは素人ってわけでもないだろ。それにまあ、とりあえず見るだけならいいんじゃないか?」


 確実に言えることは、ウェイドが運営する植物型原始原生生物管理研究所には、"昊喰らう紅蓮の翼花"が間違いなくあるということ。そして、レアティーズたちがそれを見に行くことは、制度上問題ないということだ。


『う、ぐぐぐ……』


 法の番人たるウェイドさんならこれを許可せざるを得ないだろう。拳を握りしめ、いかにも不服そうな顔をしているが、否定する材料が何もない。

 なにせ、レアティーズたちエルフ組も、オトヒメとの協約を経て調査開拓団の一員として認められているのだから。


『せ、セキュリティクリアランスの問題はあるので、収容チャンバー内部に入ることや、マシンアームその他の設備の操作は一切許可できません。収容物の観察だけなら……ぐぬぅう』


 懊悩の末に吐き出された結論。これが、ウェイドが許容できる最大限の譲歩だった。


『やった! じゃあ、あーしたちも塔の外に出られるんだね!』


 飛び上がって喜んだのはレアティーズ。

 改めて言われてみれば、彼女は今まで一度も塔の外の世界を見たことがない。話には聞いていても、体験したことがない。ましてや、彼女は人生の長い時間を地下に幽閉され、苦しみ続けてきたのだ。

 褐色に染まった肌。その身に滲む痛々しさ。

 ウェイドは眉をぎゅっと寄せたまま、それ以上のことは何も言わない。オトヒメも静かに笑っているだけだ。


「……うん? あれ、ちょっとレッジ。この流れは――」


 ラクトが何かに気が付いた様子で、こちらへ目を向けてきた。

 だが、振り向きかけた俺の両脇に手が差し込まれて、そのまま持ち上げられる。


『レッジ、せっかくだから外の世界のいろんなこと、あーしに教えてよ!』


 身長171cm。

 すらりとしたシルエットをした褐色のエルフの少女は、太陽のように眩しい笑顔を、同じ視線の高さになった俺に向けてきた。

 ……なるほど。やはり、ラクトを気軽に抱えていたことは反省したほうがいいな。実際やられる側になってみてよく分かった。


『よーし! それじゃ、オトセンも頑張っちゃうゾ!』


 オトヒメがぴょこんと跳ねて、周囲に無数のウィンドウを展開する。ウェイドの方にも何らかのアクセスが向かったようで、彼女も狼狽える。


『エルフ族によるウェイド特別交流使節団を結成。オトヒメおよびウェイドの管理者レベルで各種調整を行っちゃうよ♡ 公共交通機関も含めて安全な移動手段を設定して、安心安全な旅をプレゼント!』


 目眩く展開。滑らかな手捌きで、あっという間に旅のプランができてしまう。


『レアティーズもオフィーリアも、エルフ族にとってかけがえのない、とーーーっても大切で可愛い子たちだからね。……レッジ、アテンドはよろしくね?』


 満面の笑みの奥に垣間見える凄まじいプレッシャー。俺はレアティーズに抱き上げられて両足をプラプラとさせたまま、深く頷くことしかできなかった。

Tips

◇エルフ族によるウェイド特別交流使節団

 管理者オトヒメにより提案され、指揮官T-3の審査ののち、管理者ウェイドによって許諾された使節団。古エルフ族を含むエルフたちを地上前衛拠点シード02-スサノオに招待し、調査開拓団とのより親密な関係構築を望む。管理者二名による全面的な支援を基にした交流企画である。

"エルフ族の伝統的なお菓子――もとい伝統的な食文化の情報はとても気になりますね。相互理解による今後の連携緊密化を促進するためにも非常に有効な施策であると言えるでしょう。"――管理者ウェイド_

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