第2240話「エルダーの秘宝」
『判決。懲役1000年』
「勘弁してくれよウェイド」
ご丁寧に法服まで着込んで、ガベルをガンガンと叩きつけるウェイドに即時上告する。いくらなんでも開廷0秒で判決読み上げは不当すぎるだろう。
『そもそも余罪が積み上がりすぎてるんですよ。分かってます? 反省の色あります?』
「反省してるさ。とはいえ、こっちも不可抗力というか、正当防衛というか、緊急避難的なやむを得ない事情があるというか」
『何をどうしたら歴史的にも重要な塔をぶち抜く正当性が示せるんですか』
「噛んだ」
『判決。懲役5000年』
インフレしすぎて実質終身刑だ。
こっちはただ嘘偽りのない事実を訴えているだけだというのに。
『まあとにかく、しばらくは複数人での魔術行使はやめた方がいいカナ。分からないことも多いし、安全性が確保できるまではネ』
圧倒的不当裁判を見かねてオトヒメが落とし所を見つけてくれる。ウェイドは不服そうだが、現実的なところを見てそれ以上の求刑はしなかった。
『せめてもう少し大人しくしていてください。どうして私がこんなところまで駆けつけなければならないんですか』
「善処する」
『はぁーーっ』
素直に頷いたのに、返ってきたのは深いため息。管理者というのも大変だ。などと言ったら誰のせいだとガベルが襲いかかってくるだろうから口を噤むが。
無事に裁判は閉廷したようでウェイドはいつもの白いワンピースに戻る。それと切り替わるように、エルフ姉妹がやってきた。
『で、レッジ。何がどうなってそんな姿に?』
「話すと色々あるんだが……』
まだ有機外装の姿は二人に説明していない。ざっくりと簡潔にいきさつを語ると、レアティーズは目を白黒させて頭の上に疑問符をいくつも浮かべていた。
『ごめん。あーし馬鹿だから全然分からないや』
「いや、俺もちょっと説明が難しいんだ」
まあ、これはもうこういうものだと思ってもらうしかない。俺とラクトは生身の肉体になって、魔術が使えるようになった、と。一応、二人とも有機外装のことは知っている。俺たちに先んじてスペルを求めてやって来る調査開拓員たちも多数いるからだ。
『それでは、お二人もエルフの魔術を求めて来られたのですか?』
「それもあるんだが、ちょっと事情が特殊でな。"深紅の燃眼"って知ってるか?」
その言葉を口にした途端、二人の目つきが変わる。空気が張り詰め、温度まで低くなったように錯覚するほどだった。
〈白き深淵の神殿〉の壁を修復するために必要な三つの素材。そのうちのひとつ、〈妖精の楽園〉にあるというアイテム。それがいったいどんなものなのか、俺たちは何も知らない。だが、周囲の反応を見る限り、ありふれたものというわけではないらしい。
『レッジ、それを何に使うの?』
「神殿の修復だ。エゥリエスに頼まれてな」
実際にはラクトが壁をぶち抜いたから集めてこいと言われたのだが、まあ間違ってるわけでもないだろう。
「俺もラクトも、それがどういう代物なのかも知らないんだ。差し支えなければ、教えてくれないか?」
『……そっか。なるほどね』
いつになく真剣な眼差しをしたレアティーズは、覚悟を決めたように口を開く。
『"深紅の燃眼"はエルフの秘宝。長い年月を厳しい鍛錬に費やしたエルダーエルフが作り出す高純度の魔力結晶なんだよ』
「ほう……。なら、ログウッドに頼めばいいのか?」
『そう簡単なものじゃないの。これを作るためには、"薪"が必要なんだ』
薪。火を育て、燃え上がらせるもの。当然ながら、ただの木ではないのだろう。オフィーリアが説明を引き継ぐ。
『外の世界のどこかに、世界を燃やし尽くす魔樹があると言われています。それはわずかな火の粉でも凄まじい猛火へと変え、空まで焼き焦がすと。"深紅の燃眼"はエルダーがその魔樹を、三日三晩魔術の炎によって燃やし続けなければならないのです。当然ながら少しでも魔力の加減を間違えれば、周囲に甚大な被害があります』
「……ふむ」
エルフたちはこの塔の中だけで過ごしているわけではない。
過去に龍闘祭があったように、ごく稀に外へ出ることもある。"深紅の燃眼"もまた、魔術を極めたエルダーエルフが外の世界へと向かい、放浪の果てに見つけ出した魔樹と格闘し、命を賭して手に入れるものらしい。
さすが、秘宝と称するに相応しいものだ。
『ログウッドでも魔樹を燃やし尽くすことができるかは分かりません。そもそも、魔樹がどこにあるのかさえ、分からないのです』
『ずいぶん昔になんとか"深紅の燃眼"を持ち帰ってきたエルフは、たしか50年くらいは放浪してたんじゃなかったかなぁ』
『それでもかなり、異例の速さと言われていましたね』
なるほど。
第一に魔樹を探すこと、第二に魔樹を燃やすこと。秘宝を手に入れるためには、高い壁が二つも聳え立っているらしい。
「なあ、二人とも。その魔樹について心当たりがあるって言ったら、どうする?」
俺が思い切って口にすると、エルフの姉妹は揃って目を丸くした。
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