第2243話「護衛と対象」
エルフの要人たちを案内するにあたって、最優先されるのは安全性だ。当然ながら墜落率9割を超える某組合の流れ星ジェット機などは使えるはずもない。それ以外の、調査開拓員が個人で扱える乗り物も懸念は拭いきれない。かといって、管理者専用機を使うわけにもいかないらしい。
『貴方はあまり知らないかもしれませんが、専用機というのは搭乗者が厳格に定められているからこそなんですよ。エルフ族とはいえ、管理者専用機に乗せるわけにはいきません』
「ケチくさいなぁ」
『区別です!!』
俺が何度か管理者専用機に乗ったことがあるのも、当然は切迫した状況があったからだ。そもそも、管理者専用機は速度優先なところもあり、管理者筐体の頑丈性を前提とした運行もされている。そう言った面でも、エルフを輸送するには不適ということだろう。
「そういえば、今の状態の私たちが死――行動不能になったらどうなるんだろ?」
今更ながらラクトが首を傾げる。
調査開拓員の命は安い。機体はいくらでも代わりがあり、アップデートセンターに記録を残しておけば、気軽に乗り換えることもできる。だが、有機外装となると、そうはいかない。
『その辺の説明はエゥリエスからされてるはずだよ。言っても有機外装だからね、キミたちのここに神核実体があるんだよ』
塔の外に広がる無辺の干潟をペチャペチャと歩きながらオトヒメがさらりと答える。ぽんぽんと胸を叩き、その奥を示す。
第零期先行調査開拓団員は、第一期団とは異なる方針を取っていた。そのうちの一つが、有機外装と神核実体と呼ばれるものだ。正直、これについてはよく分かっていない。
しかし俺たちの中にも神核実体そのものではないにせよ、それに近いコアがあるらしい。
『有機外装が損傷を受けても、コアが無事ならだいじょうブイ! ま、コアが破壊されたらエゥリエスに頼まないと復活できないかもだけどねー』
機械人形ならば行動不能になればアップデートセンターで臨時機体で蘇り、機体を取りに行けばほぼノーコストで復帰できた。しかし有機外装はコアを持ち帰り、儀式の間でエゥリエスになんやかんやしてもらわないといけないらしい。
「そうかんがえると、有機外装は複数人での行動が前提っぽいな」
少なくとも、自分が死んでもコアを持ち帰ってくれる誰かがいてくれないとかなり厳しい。インベントリも使えない以上、仲間との協力がなければかなりの苦労を強いられる。
一歩進んだコンテンツということもあり、ソロプレイは非推奨の形態のようだ。
『大丈夫だよ。レッジにはあーしが付いてるし!』
魔術師のプレイスタイルに思索を巡らせていると、ぽんぽこと頭を撫でられる。レアティーズである。
この姿になって体格差が顕著になったせいか、彼女は軽率に頭を撫でてくるようになった。
「一応、俺とラクトが護衛なんだぞ」
「そ、そうだよ!」
せめてもの反抗として、今回の旅での役割を改めて伝える。隣でラクトも
そうだそうだと言っている。
しかしレアティーズは完全に浮かれ切っていた。初めて外の世界に出るのだから、浮き足立つのも分かるのだが……。
『ガルゥゥゥアアアアア!』
『ぶちかませ、マジヤバのデカ槍! "颯の大槍"ッ!』
『ギュァアアアアアッ!』
俺たちの存在を嗅ぎつけて襲いかかってきた巨大な蟹が、レアティーズの指先から放たれる極太の突風によって穴を穿たれ吹き飛ばされる。このレベル帯の調査開拓員なら複数人でかからねばならない程度には強敵の原生生物なのだが、一撃で屠ったレアティーズは涼しい顔だ。
『あーしだってケッコー強いんだよ。レッジと肩を並べてタッグも組めるし!』
得意げな笑顔をこちらに向けて、Vサインをしてみせる褐色エルフギャル。
彼女だけではない。オフィーリアも、神祇官の古エルフたちも、余裕綽々の表情で原生生物の襲撃を返り討ちにしているのだ。
魔術師となったことで、より鮮明に彼女たちの強さが分かる。そもそもの土台として、扱う魔力が文字通り桁違いなのだ。
機械人形が扱えるMPはたったの5。有機外装化すると爆発的に増えて、俺やラクトの初期値でも500程度はある。しかし、レアティーズの魔術や、その周囲に集まる精霊たちの数からして、おそらくMP換算で50,000は軽く凌駕している。
俺やラクトが100人束になってかかっても、勝てるかどうかは互角なのだ。
「……エルフってすごいんだなぁ」
『ふふーん。でしょでしょ! もしかしたらログウッドじゃなくて、あーしでも"深紅の燃眼"作れちゃうかもねー』
種族の差をまざまざと見せつけられれば、納得する他ない。
レアティーズはすっかり調子に乗っていた。
Tips
◇ "颯の大槍"
マジでヤバイ、激アツのやつ。パネエ。マジ、パネエ。すごすぎる。ヤバすぎてヤバすぎる。まぢ最強らぶ。ハート撃ち抜いてずきゅん。そっこーマブ。
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