第2235話「頼れるトラ重機」
晴れて魔術師となったラクトと共に、いざ〈エウルブギュギュアの献花台〉へ。――と最寄りの都市である〈ナキサワメまでやって来たところで、早速出鼻を挫かれた。
「インベントリが使えないの、想像してたよりずっと大変なんだけど……!」
「よく考えたら異常な量を持ち歩けてたわけだからなぁ。俺なんてテントを三張くらいは入れてたからな」
ここから先はいよいよフィールドということで、荷造りをしようとして重量の問題に直面してしまった。調査開拓用機械人形ならば三種の神器の一つである八咫鏡を通してインベントリにアクセスすることができる。所持限界重量さえ守れば、大量のアイテムを楽に持ち運べる機能だが、当たり前のものすぎてすっかり抜け落ちていた。
有機外装にはそんな便利なものはない。荷物は自分で持ち運ばなければならないし、その重量は直接のしかかってくる。その上、俺たちは今、機械人形よりも遥かに非力だ。
自分の装備にプラスして持ち運べるのは現実とほぼ同じ――リュックを背負うとしても30kg程度が限界だろう。
「どうする? 白月にソリでも牽かせて――いででっ!」
ちょっとしたジョークを炸裂させたら尻に水晶の枝角が突き刺さった。
「せめて機獣をレンタルした方がいいかもね。スキルがないから、扱えるかどうか分かんないんだけど……」
八尺瓊勾玉の代替品であるカルフォンも、ツクヨミと接続する機能しかない。インベントリなどという若干反則気味の超技術までは、まだ再現すらできないのが現状だ。
ラクトの提案も妥当だが、それはそれで不安は残る。機獣の使役には〈操縦〉スキルが深く関わってくる。スキルシステムの恩恵に与れない今、どれほどの機獣を扱えるのか。
「ああ、いや。そういえば適任がいたな」
「適任?」
しばらく悩んだ後、はたと気付く。俺たちには機獣ではないがハイパワーで頼れる力持ちがいるじゃないか。それも二機も。
TELLは繋がらないが、ネット回線があれば問題ない。
「ラクトはちょっと荷物の準備をしててくれ。バンクから出すのはできるだろ?」
「そりゃまあできるけどさ」
都市の中央制御塔からアクセスできるバンクは大容量のアイテム保管庫だ。こればかりは、俺たち有機外装の調査開拓員でも流石にアクセスできる。これすら使えなけりゃ、流石に暴動が起こるからな。
ラクトが必要なアイテムを引き出しているのを後目に、俺はカルフォンを操作する。シード02-アマツマラの基盤システムからルートを偽装しつつ侵入し、坑道の奥で働いているはずの二機に連絡を取る。
「大丈夫? 結構重量も嵩んじゃったけど」
「大丈夫だろ。パワーは随一だからな」
こんもりと山のようになったアイテムを前にして途方に暮れるラクト。彼女と共に待つことしばし。なにやら遠くの方にいるナキサワメが、どこか不安そうな顔でチラチラとこちらを見ながらも、話しかけることはない、微妙な時間が流れ始めた、その時だった。
『ヤッホーゥ! レッジサン、オ久シブリデスネ!』
『突然連絡シテキテスグ来テ欲シイトカ、無茶言ワナイデヨ!』
『ぴょわーーっ!?』
空からジェット機の轟音が迫ってきて、街中が騒然とする。中央制御塔を掠めるように低空飛行する輸送機の後部タラップが開き、そこから黄色と黒のトラ柄アタッチメントを付けた多脚重機が二機、重量を感じさせない跳躍で落ちてくる。
総重量5トン以上の元警備NPCにして現坑道掘削NPCのミヤコとナナミである。
「そっか、この二人ならいっぱい荷物も持ってくれるしどんな土地でも歩けるよね!」
「そういうことだ。すまんが頼まれてくれないか」
元々は何の変哲もないただの警備NPCだった二機だが、ひょんなことから俺が改造を施すことになって、今では凄まじいパワーを誇る頼もしい存在になっていた。その上であくまで二人は自律的に行動するNPCであり、俺やラクトに使役される存在ではない。
『ッタク、仕方ナイワネェ』
『ウキウキデ輸送機ヲブン獲ッテキタノハミヤコノ方デス』
『余計ナ事言ワナクテイイノ!』
やれやれ、と言わんばかりに両腕の巨大なチェーンソーを揺らすミヤコ。その背後でピコピコとライトを明滅させるナナミの背中には、もはや大砲と称した方が妥当なほどの巨大な狙撃砲が積まれている。
『トニカク、ココノトコロズット地下デ穴掘リバッカリデ辟易シテタノ。丁度イイカラ、アンタニ付キ合ッテアゲルワヨ』
『私モ、微力デスガ助太刀シマスヨ!』
「二人がいてくれると心強い。色々あって、俺とラクトはかなり非力になっちまったからな」
ぶるるん、と勇ましくエンジンを唸らせる二人。
その力強さを実感しながら、俺は早速ナナミの背中に荷物を載せていく。
「大丈夫? 重くない?」
『普段ハ坑道デ採掘シタモノヲ運ンデマスカラネ。余裕デスヨ』
『馬力ガ違ウノヨ、馬力ガ!』
ラクトの心配も跳ね除けて、あっさりと積載は完了する。
俺とラクトはナナミの背中に乗り込んで、〈エウルブギュギュアの献花台〉に進路を定めた。
Tips
◇輸送機突発無許可発進インシデント
地下資源採集拠点シード02-アマツマラで発生した突発的インシデント。坑道延伸工事中であった特殊土木用掘削NPC二機が突如として逸脱行動を行い、地下格納庫へと侵入。暖機状態でスタンバイしていた大型輸送機"POPMAN-221"に乗り込み、システムを奪取。その後、管制システムおよび管理者ホムスビの制止を振り切って飛び立った。
シード02-アマツマラ安全管理委員会は本件を調査開拓員レッジ案件と認定し、管理者ウェイドへの対処申請を行なっている。
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