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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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第2232話「魔術指南」

『もう一度言うが、これは本来なら十分に水属性のスペルを習熟した上でようやく――』

「うんうん。そうだね。了解」

『聞いてないね!?』


 儀式の間の隣には、試し撃ち用の訓練室がある。魔術師になりたての調査開拓員が軽く魔力を動かしてみて、その使い勝手をある程度確かめることができるようになっているようだ。

 ラクトは無事にエゥリエスから"氷弾"というスペルを得た。とはいえ魔術は基本的にはイメージ――想像力がものを言う。スペルというのは下書きのようなもので、それを元にどう魔術を発動するかは個人の裁量によるところが大きい。


『分かってるかい? まずは自分の中に流れる魔力の存在をしっかりと捉えた上で――』

「固く冷たき氷の、疾く駆け貫く弾丸よ、我が手から飛翔せよ。――"氷弾"ッ!」


 エゥリエスの声を遮って、小さな氷の鋭利な塊が放たれる。それは凄まじい勢いで訓練室の壁に迫り、激突する寸前に現れた白い魔法陣によって崩れた。


『せめて説明はさせてくれないかい!?』

「だいたい分かったって言ったじゃん。というか、壁に当てたかったんだけど」

『そんなことしたら修繕に手間がかかるだろう。ただでさえ騒音でユラからの視線が厳しいんだ。もう少しこちらの事情も考えてくれたまえ』


 訓練室で放った魔術は、何かに衝突するまえに魔力を解きほぐす魔術とやらによって分解されてしまう。対魔術用の鉄壁たりえるものだが、当然ながら俺たちには扱えないくらいに高度なものだ。

 この〈白き深淵の神殿〉の管理者ポジションに立っているのは"祭祀のコシュア=ユラ"のようで、エゥリエスはあくまで一画を間借りしているだけだという。大家の目を意識しなければならないあたり、彼女も肩身が狭い。


「でも、これだと手応えがないなぁ」

『あくまで魔術の使い方を実践する場所だからね。我慢したまえ』


 憮然とした顔で手のひらを見るラクト。

 初めて魔術を扱えた感動こそあるものの、その結果にはあまり納得がいっていない様子だった。


「ちなみに、このスペルは変えてもいいの?」


 機術(アーツ)は任意のアーツチップを組み合わせ、術式を作る。単語を並べて文章を作るようなもので、自由度が高いとはいえ、ある程度のパズル的な制限はある。

 一方で魔術は、魔力とスペルがあればいい。スペルも事前に登録するのではなく、先ほどエゥリエスが口頭で伝えただけだ。慣れないうちはカンペ――要は魔導書を持って読み上げるのがいいらしいが、ラクトは当然のように一発で誦じてみせていた。


『結局、この世界をどう変えたいかという君の思いが重要なのだよ。そこが強固であれば、スペルは自由が効くものだ』


 意志という不定形のスライムのようなものを、しっかりと留めておくコップ。スペルの認識としてはそういうもので間違っていないはずだ。意志を留めておくことさえできるなら、コップの形状はさほど重要なものでもない。


「なるほどね。色々リアルタイムにカスタムできるのはいいかも」


 ラクトは朗報を聞いたとばかりに笑みを浮かべ、壁に向かう。


「固く冷たき氷の、疾く駆け貫く弾丸よ、我が手から飛翔せよ。――"炎弾"ッ!」


 再びの詠唱。

 だが、今度は氷の弾丸が飛ぶことはなく、彼女の手のひらで何かが破裂した。


「なるほど。詠唱と魔術名が離れすぎてるとイメージがブレるから発動できない、と」

『君ぃ!? いきなり妙なことするんじゃないよ!』


 目を丸くして毛を逆立てたエゥリエスの非難は、さらりと無視される。


「弾丸よ、バン! ――"氷弾"!」


 再び無色透明の爆発。発動失敗だ。


「詠唱の短縮や破棄っていうのも定番かと思ったけど、ちょっと難しそうかな」

「ま、スペルは精霊にイメージを伝達する仕様書みたいな側面もあるからな。あんまり省きすぎると何をしていいのか分からなくて不発になる」

「レッジが言うと説得力が違うね……」


 魔術の発生メカニズムを正確にするなら、自分と世界の間に精霊が介在している。スペルを通じて精霊に意志を伝達し、精霊がそれを元に世界を書き換える、というステップが入るのだ。

 そうしなければ個々の魔術師が何か考えただけで世界が歪み、それこそ惑星イザナミが崩壊することにもなりかねない。それを抑止するための安全装置として取り付けた"理論"だ。


「氷の散弾よ、飛べ! ――"氷散弾"ッ!」


 ズダダダダ!


 ラクトの手のひらから小さな氷の粒が一斉に射出され、白い魔法陣に吸収される。今度の実験は成功のようだった。


「なるほど、勘所も掴めてきたかも。……でも、結構疲れるね。力が抜ける、というか……」


 汗を拭い、ふらりとよろめいてしゃがむラクト。

 スペルのアレンジこそ成功したものの消耗が激しい。ただでさえ転生した直後はMPも少ない上に、数段飛ばしで氷属性のスペルを使い始め、更にアレンジまでしたのだから。


『ふんっ。しばらく休めば回復するよ。ともあれ、最初は十分に明確なスペルで、素直に回数を重ねるべきだがね』


 ラクトを見下ろしながら、エゥリエスはアドバイスする。なんだかんだでしっかり指導してくれるあたり、彼女も魔術に興味を持つ者に優しい。


「ありがと、エゥリエス。じゃあ、とりあえず目標はこの壁をぶち抜くことにするよ」

『……にゃい?』


 表情豊かな猫に思わず吹き出しそになるのを堪えながら、俺はそっと壁際に向かうのだった。

Tips

◇"氷弾"

 小さな氷の塊を勢いよく撃ち出す初歩的な魔術。鋭利に尖った氷は、ただの水を叩きつけるよりもはるかに強い。


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― 新着の感想 ―
やっぱりラクトも、「白鹿庵」だよな 何をしでかすか、堪ったもんじゃない
壁貫(かべぬき)はユラさんが怒るから止めてさしあげて?
感想一覧
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