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ヴォーパルバニーと要塞おじさん  作者: ベニサンゴ
第42章

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第2231話「凍りつく瞳」

 鋼が溶け、神経が編み上げられていく。石室のなかは精霊たちで満ち満ちて、彼らは一斉に世界を書き換えていく。そこに存在するだけだった"供物"を元に、それを積み上げ、パズルを組み立てていくように、新たな肉体を生み出す。

 入れ物が作られ、元の容器は破壊される。流れだしたものは、水が上から下へと向かうように、そちらへと移ろっていく。


『目覚めたまえ、新たなる命を得た者よ』


 澄ました顔のエゥリエス。彼女が軽く尻尾で石畳を叩くと、ラクトははっと目を覚ます。大きく胸を膨らませ、筋肉を動かし、肺に空気を流し込む。吐き出し、吸い込み、また吐き出す。

 彼女の胸元で心臓が動き始め、その目に光が宿った。


「これが……有機外装……」


 自分の手を見つめながら、ラクトはしみじみと呟く。

 見た目はそう変わらない。水色の透き通るような髪に、130cm程度の小柄で細い体つき。その瞳も、知性を感じさせる涼やかな青だ。だが、それまで着込んでいたローブは機体と共に崩れ、今の彼女はエゥリエスがサービスで付けている簡素な麻服に変わっている。

 見るからに駆け出し、初心者といった様子の無垢な姿である。


「なんか、身体が重いね」

「機械人形とは耐久力もまるで違うからな。慣れないうちはすぐ疲れるし、動きも鈍いぞ」


 俺はその状態でレティと戦うことになったのだ。あれでよく一方的にやられなかったと自分を褒めてやりたい。

 機械人形から有機外装への転生では、スキルは一切引き継がない。とはいえ、ある程度は自身の"癖"のようなものが反映されるようで、戦士職ならばガタイが良くなるし、ラクトのような機術師ならば魔力が高めになっているらしい。


『というわけで、おめでとう。君は晴れて魔術師として新たな門出を迎えたわけだ』


 ラクトの足元までやってきたエゥリエスがにゃーんと笑う。


『解答は強制ではないが、ひとつ問いたい。君は、どのような魔術を志すつもりかね?』


 これは、この先の行動指針となるものだ。ラクトの返答によって、エゥリエスがおおよその案内をしてくれる。


「そうだね。……世界を凍り付かせる、最強の魔術師になりたいかな」

『なるほど。それはまた、素晴らしい!』


 ならば、と彼女は尻尾を持ち上げる。


『水を統べる魔術を研鑽したいというのなら、人魚たちの庭園に向かうと――』

「いや、違うよ」

『ふにゃん?』


 水属性、もしくは風属性の魔術の初歩は〈人魚の庭園〉で教わることができる。氷属性というのも、水属性の範疇だ。だからこそエゥリエスはそちらを指し示したのだろうが、ラクトは真顔でそれを封じる。


「水なんて軟弱だと思わない? わたしが極めるのはひたすら冷たくて硬い、氷だよ」

『う、うむ。だから、まずは〈人魚の庭園〉でアクアバレットのような――』

「水属性と、氷属性は違うんだよ。液体と固体がおんなじだと思ってる? 君、研究者だよね?」

『にゃうん』


 ラクトも普段はいたって冷静沈着で頼れる存在なのだが、こと氷属性にまつわることとなると頑固になる。そもそもが水属性アーツのチップを全て捨てて、氷だけに特化している独特なプレイスタイルだ。それでよく戦闘を成り立たせていると感心するくらい、実のところかなり奇妙なスタイルである。

 なにせ、水属性も使えた方が、当然汎用性は高まるはずなのだから。

 しかし彼女は頑なだ。

 あまりにも純然たる意志に、猫の方が気圧されている。すりすりと肉球で後ずさるが、すぐに壁へと追い詰められる。観測されている状況では、猫も逃げられない。


「氷属性の魔術、あるよね?」

『研鑽を積めば……』

「いま、あるよね」

『……にゃう』


 手を突き出すラクト。

 彼女の深淵を写すような目に、管理者が白旗を上げた。

Tips

◇氷属性

 水属性から派生し、物理的攻撃属性を持つに至った属性。固体操作は流体操作とはまた異なる理論が存在し、その習熟にはいっそうの研鑽が必要となる。


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猫チャン、またしても敗北www
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