第2229話「魔術のお供」
カミルと身長がほぼ同じということは、同じくタイプ-フェアリー機体であるラクトとも視線の高さが合うということだ。
「ふんふふーんふふんっ♪」
「なんか、珍しく機嫌が良さそうだな」
隣を歩くラクトの口ずさむ鼻歌もよく聞こえるし、彼女の頭がステップに合わせて揺れるのも見える。普段はつむじの方が見慣れているせいで、少し落ち着かない。
「そうかな? そうかも。レッジがログインしたら、一緒に行こうと思って準備してたんだよねー」
普段はクールな印象もあるラクトが見るからに浮かれている理由。それは当然、今回実装された新規コンテンツ"魔術"にある。そもそも機術師界隈では本物の魔術師になれるとあって、積極的に転生を行おうとするプレイヤーが多いらしい。ラクトもそのうちの一人なのである。
「いいのか、魔術師になるといろいろ制約もあるが」
「ロマンはそれに勝るからね。それに、レッジだって今は有機外装じゃん」
「まあ、俺は言い出した方だしなぁ」
難しいことはいい、とラクトは指で弾き飛ばす。
「それよりもさ、レッジはどれにする?」
「……まだ日も経ってないだろうに、随分と種類が増えてるんだな」
彼女と共にやって来た〈ワダツミ〉の市場。海産物など港町の特産品も多く並ぶ活気あふれる広場の一角に、見慣れないコーナーができていた。技術者風の装いをした調査開拓員たちが声を張り上げ、両隣の店々と競うように客を呼びこんでいる。
路面に置かれたショーケースの中にずらりと並ぶのは、色も形もさまざまな手のひらサイズの小型端末たちである。
有機外装へと転生すると様々な機械人形特有の機能が使えなくなる。そんななかでせめてTELを繋いで、ネットも使えるようにと開発されたものである。
「マジカルフォンを略してカルフォンって呼ばれてるね。外付けになったから、各バンド色々試行錯誤して独自の機能を搭載したり、デザインを凝ったりしてるんだよ」
俺が少し精密検査詰めになっている間に、惑星イザナミでは新たなブームが到来していたらしい。
一番人気は元祖とも言えるタフガイフォンという高耐久モデルだが、よりスマートな見た目のものだったり、可愛らしいデザインのものだったり、多種多様だ。機械人形の調査開拓員でも使えないわけではないからか、物珍しげに覗き込んでいる者も多い。
「なるほど、スペックが色々違うんだな。こっちは処理速度重視で、こっちはカメラが……。これは?」
「んー、自動インスタントラーメン調理機能付きらしいね?」
なるほど。カルフォンバブルの真っ只中で、玉石混交の時代であるということはよく分かった。インスタントラーメンと水を入れると2秒で熱々の味噌ラーメンができるのは、いいのか悪いのか。
「これ、塩ラーメンを入れても味噌になるのか……」
なんか、変なところで魔術が使われてないか?
いや、これは純然たる科学技術の結晶らしいのだが。
「そこがミソなんすよねー」
「なるほど」
したり顔で一言突っ込んできた店主に曖昧な相槌を打ちつつ離れる。
カルフォンはTELとブラウジングができるシンプルなものがなんだかんだで一番良いような気がしてくるな。
「レッジ、これなんてどう?」
「エナドリ製造機能付き? こっちは糖度測定機能か。色々あるもんだな」
正直、使い所がないだろう。痒いところに手が届くが、別に普段は出番がない便利系キッチンツールみたいなもんだ。
「とりあえず、この一番シンプルなものでいいかな」
「えー。面白くないなぁ」
下手にゴテゴテとしていなくて、スペックが良さそうならそれでいい。そもそも、まだどれくらいのものが求められるのかも分からない。こういうのは使っているうちに少しずつカスタマイズしていくのがいいんだろう。
ラクトはそんな俺の選択に唇を尖らせながらも、同じものを手に取った。
「ラクトは好きな奴を選んでもいいんだぞ?」
「んー。わたしもこれでいいかなって」
じっとカルフォンを見つめながら答えるラクト。なんだかんだ、彼女もシンプルイズベストを旨とする性格なのだ。
「使い方は道中で色々調べるとして、早速行こっか」
「転生するには〈白き深淵の神殿〉に行かないといけないんだったな」
「そうそう。猫ちゃんもいるよ」
浮き足立つラクト。猫といえば、俺を地下に閉じ込めたあの猫のことだろう。
いったい今はどう過ごしているのか、少し気になる。
俺はラクトと共に海中輸送管ヤヒロワニの駅に向かった。
Tips
◇シュガフォン
魔術師支援用小型端末。基本的な機能に加えて、特殊なセンサーを搭載し、カメラで捉えた物体の糖度を非常に高い精度で測定する。
Now Loading...




