37●感染包囲網
「本作品の内容(ストーリー・設定・キャラクター)はすべて作者自身が創作したものです。ただし、日本語への翻訳に際し、AI翻訳ツールを参考・補助として使用していることをお伝えいたします。翻訳の正確性には細心の注意を払っておりますが、不自然な表現がありましたらご指摘いただけますと幸いです。」
リン・ユエチュアンが集中治療室から運び出されてきた時、全身は包帯でぐるぐる巻きにされ、まるでミイラのようだった。
沉纱が病床のそばに付き添い、彼を見下ろしながら、少しからかうような口調で言った。「これが、あんたの言う『死にはしない』?」
リン・ユエチュアンの目が、包帯の隙間から覗いた。彼はぱちぱちと瞬きをした。「俺はまだ生きてる」
「生きてる?」沉纱は手を伸ばして彼の胸をそっと押した。リン・ユエチュアンの眉間には、即座に深い皺が刻まれた。「内臓はほぼ全部裂けて、肋骨は四本折れ、左肩は粉砕脱臼、右膝の半月板には亀裂、脊椎には三カ所の圧迫骨折。これを生きてるって言うの?」
「医学的には、確かに生きてることになる」
この言葉に、沉纱はため息をついた。
汐瑶が病床の反対側から顔を出した。ツインテールが背中で揺れ、その顔には「やっぱりこうなると思ってた」と書いてある表情が貼り付いている。「隊長、毎回毎回そうですよね。前は内臓破裂、今回は全身骨折。次は自分の体を部品に分解して持ってくるつもりですか?」
リン・ユエチュアンは彼女を一目見て、それから仕方なさそうに目を閉じた。
「本当ですよ。もし私がその場にいたら、あの雄心仮面なんて、真っ先に私が麻痺させて制圧してました。あいつが発狂する出番なんて、そもそもなかったんです」言い終えると、汐瑶は誇らしげに胸を張った。
リン・ユエチュアンは口を挟まず、二秒沈黙してから言った。「あの東カーネルハイトの内乱の後、組織は全員に個人意志と注意力の訓練を増設した。だが、それでお前が百分百免疫だということにはならない。ディカノが攻撃するのは、個人の意志力や注意力だけじゃない。もっと複雑だ。お前は自分は大丈夫だと思っているかもしれないが、それはまだ誘因が現れていないだけかもしれない」
汐瑶は頬をぷくっと膨らませた。「それはありえません。あたしは毎日、食べるか寝るかしかしてないんですよ。怒る気さえ起きないのに、ディカノがあたしの何の悪念を誘発するって言うんですか?」
沉纱が彼女を一目見た。「暴食とか?」
「あれは悪念じゃありません! あれは人生を楽しんでるだけです!」
リン・ユエチュアンは目を閉じた。まったくもって、手のつけようがない。
病床は一般観察室へと運び込まれた。看護師は手際よく心電計を取り付け、点滴チューブを調整し、ベッドの頭にカルテを掛けてから、背を向けて部屋を出ていった。
部屋が静かになり、残ったのは計器の「ピッ、ピッ」という電子音と、汐瑶が林檎をかじる音だけだった。
リン・ユエチュアンが目を開けた。「お前、その林檎どこで手に入れた?」
「ナースステーションから取ってきました」汐瑶はもう一口かじり、果汁を飛び散らせた。「看護師さん、病人は食べられないって言ってたけど、家族が食べちゃダメとは言ってませんでした」
「お前は家族じゃない」
「あたしは隊長の愛人です、へへ」汐瑶は理屈を臆面もなく並べて笑った。「愛人も家族です」
リン・ユエチュアンはため息をついた。
汐瑶は林檎を食べ終えると、芯を二メートル先のゴミ箱へ精確に放り込み、手をぱんぱんと叩いて、病床の前に近づいた。「隊長、まだどこか辛いですか?」
「全身が痛い」
「具体的にどこが?」
「体の中も外も、全部痛い」
「じゃあ、マッサージしてあげましょうか?」
「いらない」
「なんでですか?」
「お前にマッサージされたら、今度こそ本当に死ぬかもしれない」
沉纱は窓辺に立ち、外の夜景を眺めていた。しばらく沈黙した後、振り返った。「あんたの能力は、音波制御なんでしょ?」
リン・ユエチュアンは黙っていた。
「雄心仮面の重力場と渡り合えて、低周波共振で彼の作戦服を瓦解させられて、全方位の重力攻撃を防ぐ音波障壁を作れる。そんなの、CR級の音声消除でできることじゃない。SR級、もしかしたらそれ以上でしょ」沉纱の声はひどく落ち着いていた。
リン・ユエチュアンは、やはり黙っていた。
「あんた、そんなに長いこと隠してきて、疲れないの?」
「疲れる」リン・ユエチュアンは言った。「でも、疲れるより、生きてる方が大事だ」
沉纱は彼を見つめたが、結局それ以上は追及せず、向き直って窓の外を見続けた。
「今、ディカノの感染状況はどうなってる?」リン・ユエチュアンが尋ねた。
沉纱は振り返らず、淡々と話した。「超能学院内の感染者は、もう全員制圧して、英雄協会の支部に送って隔離してる。雄心仮面も本部に送り返した。英雄協会の上層部の何人かが、彼の全面検査と意識修復を進めてる」
「ディカノの光粒子を除去する方法は?」
「東カーネルハイトが以前使った、電磁パルス除去法を試してる」
リン・ユエチュアンはほっと息をついた。「それなら、そう大した問題にはならないな。電磁パルスは環境中のディカノ残留を有効に除去できる。全員を一通り通せば、制圧できるはずだ」
沉纱が振り返った。その顔の表情に、リン・ユエチュアンは、ついさっきまで弛みかけていた息を、再び呑み込まざるを得なくなった。
「大問題よ」彼女は言った。
リン・ユエチュアンは彼女を見据えた。
「超能学院がある、この城区。ここは『誰かが感染している可能性がある』なんてレベルじゃない。『大量の一般市民が、もう感染してしまっている』の」
部屋から音が消えた。
「現在、封城処理が行われてる」沉纱は続けた。「パニックを避けるため、当局はすべての情報を遮断した。この一帯のネットワーク信号も全部ブロックされてる。だから外の人間は、城内で何が起きてるのか、まったく知らない」
「感染した一般市民は、今どうしてる?」リン・ユエチュアンが尋ねた。
沉纱は二秒、沈黙した。
「あの人たちは今、まるで生ける屍のように、城内を目的もなく彷徨ってる。目標も、意識もなく、ただ本能的な衝動だけが残ってる。動くものを見れば追いかけ、明かりを見れば飛びつき、音が聞こえれば群がっていく」
汐瑶が首をひねって沉纱を見た。「姉さんのその言い方、なんだかゾンビの包囲みたいだね」
沉纱が彼女を一目見た。「ほぼ、そんな感じよ」
リン・ユエチュアンはベッドに横たわり、天井を見つめた。
突然、猫カフェのことを思い出した。
あいつらは、まだ猫カフェの中にいる。
リン・ユエチュアンは無意識に体を起こそうとした。動いた瞬間、全身の痛みが一斉に込み上げ、くぐもった声を漏らして、ベッドに逆戻りした。
「勝手に動かないで!」沉纱が即座に歩み寄った。「あんた、今の状態じゃベッドから降りることすらできないのよ。何をするつもり?」
「スマホ」リン・ユエチュアンは言った。「スマホを取ってくれ」
汐瑶がナイトテーブルから彼のスマホを取って手渡した。
リン・ユエチュアンはスマホを受け取り、画面を点けた。右上の電波表示は、空になっている。
彼は千奈の番号をかけた。
ツーツー、という話し中音。
もう一度。
ツーツー。
もう一度。
やはり、ツーツー。
彼はスマホを置き、目を閉じた。
「信号が全部遮断されてる」沉纱が言った。「対外通信だけじゃない。城内の基地局のほとんども停止してる。今、繋がるのは英雄協会の専用回線だけよ」
リン・ユエチュアンは何も言わなかった。
彼は、あの小さな食堂で千奈が言った言葉を思い出した。「私達は家族だ。何かがあれば、みんなで背負えばいい」
今、あいつらは猫カフェに閉じ込められている。外には感染者が群がっている。なのに、自分はこのベッドの上に横たわっていて、指一本、満足に動かすことすらできない。
「沉纱」彼は目を開けた。
「なに?」
「水路の近くにある猫カフェに、俺の友人が何人かいる」
「そう」沉纱は言った。「でも、今の私には、どうにもできない」
リン・ユエチュアンは彼女を見た。
「今の状況は、あんたにもわかってるはずよ。全城封鎖、感染者の徘徊、英雄協会の人員は深刻に不足してる。私が派遣できる人員は限られてる。しかも彼らはまず、主要施設の安全を確保しなきゃいけない。病院、発電所、通信基地局、臨時指揮所」
リン・ユエチュアンは数秒沈黙し、それから首を回して汐瑶を見た。
汐瑶は即座に手を挙げた。「へへ! 隊長、あたしに任せてください!」
「行くな。ここにじっとしてろ」リン・ユエチュアンは止めた。
「うぅ……」汐瑶は頬を膨らませ、リン・ユエチュアンのベッドの足元に突っ伏した。
病院の向かいのビルの屋上。濃い色の私服を着た若い女が、屋上の縁に座り、両脚をぶらぶらさせている。手には高倍率の双眼鏡。
芯。
リン・ユエチュアンがベッドに横たわり、全身に包帯を巻いている。
ベッドのそばには二人の女。一人は私服姿、もう一人は霊心仮面の戦闘服を着ている。
芯は双眼鏡を下ろし、ポケットから手のひらサイズの通信機を取り出すと、通話ボタンを押した。
「隊長。彼は生きてます。怪我はかなり重い。短期間では動けません」
通信機から、灰の低い声が聞こえた。「確かか?」
「確かです。全身骨折、内臓も損傷してます」
「監視を続けろ。異常があれば随時報告しろ」
「了解」
芯は通信機をしまい、再び双眼鏡を構えた。
レンズの中で、リン・ユエチュアンが頭を少し傾け、視線がちょうど窓の方角に向いた。
芯の指が一瞬、止まった。
だが、リン・ユエチュアンはすぐにまた顔を戻し、そばの者と何事かを話し続けている。
猫カフェ。
新人のレジ係の娘は隅っこに縮こまっていた。彼女が猫カフェで働き始めて、まだ三週目だというのに、こんなとんでもない目に遭うとは。彼女はもともと、猫カフェの仕事とは猫を撫でて、コーヒーを飲んで、可愛い猫耳の同僚とおしゃべりすることだと思っていた。なのに今、外の通りは発狂した人たちでいっぱいだ。
製作スタッフはコーヒーマシンのそばにしゃがみ込み、黙り込んでいる。
老三は窓辺に立ち、新聞紙の端を少しめくって外を見ていた。
通りの上では、街灯はまだ灯っている。だが、その光は昏く黄ばみ、通り全体を、果てのないトンネルのように照らしている。
数人の人影が、通りを彷徨っている。
目的もなく移動している。一歩一歩がまったく不規則で、速くなったかと思えば遅くなり、突然立ち止まって空を仰ぎ、かと思うと急にくるりと向きを変え、別の方角へ歩いていく。
寝間着姿の中年女性が街灯の下まで歩いていき、立ち止まり、その場でぐるぐると回り始めた。
デリバリー配達員の制服を着た若い男が、道路の真ん中にしゃがみ込み、両手で頭を抱え、肩を激しく上下させている。泣いているように見えるが、声は一切発していない。
スーツ姿の会社員が、片手に書類鞄をぶら下げ、一歩一歩、前に進んでいる。その一歩一歩は恐ろしく遅く、まるで足に砂袋を括りつけられているかのようだ。
老三は新聞紙を下ろし、二歩後退った。
「外はどうなってる?」老四が尋ねた。
「なんとも言えん」老三の声はひどく低い。「あいつら、見た感じ……意識があるようには見えない」
「どういうことだ?」
「つまり……動いてる。でも、自分がなぜ動いてるのか、わかってない。歩いてる。でも、自分がどこへ行こうとしているのか、わかってない。生きてる。でもあいつらは……」老三は一度、言葉を切った。「生きてるようには見えない」
美仁の猫耳がぴくりと動いた。「じゃあ、あいつら、何に見えるの?」
老三は彼女を一目見た。「ただ歩くだけの植物状態の人間だ。本能だけが残ってる」
「どんな本能?」
「光を追い、音を追い、動くものを追う。蛾と似たようなもんだ。ただし蛾が火に飛び込むのは自殺行為だが、あいつらが突っ込んでくるのは、こっちの命を取りに来るためだ」
レジ係の娘は、怖さのあまり歯がガチガチと鳴っている。
老四が歩み寄り、上着を一枚、彼女の肩にかけた。「怖がるな。俺たちがこんなにいるんだ。大丈夫だ」
「わ、私……お母さんに電話していいですか?」レジ係の娘の声は泣き出しそうだった。「きっとすごく心配してる……」
「繋がらない」老二が後ろのソファに座り、手にスマホを握っている。画面は点いているが、電波表示は空だ。「全城の信号が遮断されてる。電話も繋がらないし、ネットにも繋がらない」
「じゃあ、どうするんですか?」レジ係の娘の声が一段と高くなった。「あたしたち、ここで死んじゃうんですか?」
「死なない」美仁が突然、口を開いた。
全員が彼女を見た。
美仁はカウンターの後ろから立ち上がり、猫耳をぴんと立て、両手を腰に当てた。「林先生が言ってた。彼の言う通りにすれば、大丈夫。窓とドアに貼り物をして、音を出さないで、光を漏らさないで。そうすれば、外の人たちに気づかれない」
「でも……」レジ係の娘は「もし気づかれちゃったら……」と言いかけた。
「もし、はない」美仁は自信満々に言った。「林先生が大丈夫って言ったら、大丈夫なの」
老三は彼女を見つめた。口元がわずかに動いた。
「林川先生は神様じゃない。大丈夫と言ったからって、大丈夫なわけじゃないだろ」と、そう言いたかった。だが、口には出さなかった。美仁の自信をくじくのが怖かったからではない。突然、一つの疑問が脳裏をよぎったからだ。
林川先生は、どうしてこんな方法を知っていたんだ?
窓とドアに貼り物をし、光を出さず、音を出さず、内と外を遮断する。これらの措置は、聞こえは簡単だが、普通の超能学院の指導員が知っているようなことではない。これは自然災害への対処法じゃない。これは……
「バイオハザード?」老三は心の中で、その四文字をつぶやいた。
外の感染者たちは、映画のゾンビのように噛みついて感染を広げることはない。だが、その行動様式はゾンビとほとんど変わらない。光を追い、音を追い、動くものを追い、そして攻撃する。
これは自然災害じゃない。
これは人為的なものだ。
あるいは、人災だ。
老三はそれ以上、深く考えないことにした。今は考えても無駄だ。最優先は、生き延びることだ。
老四が後ろからミネラルウォーターの箱を一つ運んできて、開封し、一本ずつ手渡した。
「飲もう。『愛の飲用水』用に在庫がたくさんあって助かったよ」彼は言った。「いつまで閉じ込められるか、わからないからな」
製作スタッフは水を受け取り、キャップをひねって一口飲み、それから一言、尋ねた。「店長は、いつ戻ってくるんですか?」
誰も答えなかった。
千奈は百川に連れて行かれてから、音沙汰がない。電話も通じなければ、メッセージも送れない。彼らは千奈が今どこにいて、無事なのかどうかすら、わからないのだ。
「ボスは大丈夫だ」老二はソファに凭れ、目を閉じた。「ボスは、あれだ……悪女は千年生きる、ってやつだ。俺たちがみんな死んでも、ボスだけは死なない」
「それ、褒めてるの? けなしてるの?」老四が尋ねた。
「褒めてる」
一同は、暗闇の中で黙り込んだ。




