36●最終決戦
重力波が雄心仮面を中心に同心円状に外へ広がり、地面はひび割れ、街灯は歪み、遠くの校舎の窓は次々と爆ぜた。
カイアルは後方で地面に伏せ、両手で耳を塞ぎ、リン・ユエチュアンの背中が一歩一歩、あの暴走した英雄に向かっていくのを見ていた。
「林先生!……」彼は叫んだ。その声は混乱の中で、あまりにも小さく響いた。
リン・ユエチュアンは振り返らなかった。
彼の視線は雄心仮面を捉えていた。彼の大脳辺縁系は、ディカノの情報に狂おしいほど侵食されている。恐怖、怒り、攻撃欲。この原始的で本能的な感情が、理性を完全に圧倒していた。
「雄心!」沉纱が地面から起き上がり、マスクのひび割れ越しの眼差しは、焦りと確固たる意志を帯びていた。「聞こえる?私は霊心よ!まだ私を覚えてる?」
雄心仮面が顔を上げた。「霊心……」マスク越しの声は低い。「なぜ俺を止める?」
「あんたが制御を失ってるからよ!」沉纱は一歩前に出た。「ディカノがあんたの判断を狂わせてる!あんたはそんな人じゃない、雄心!」
「俺はそんな人じゃない?」雄心仮面は繰り返し、その語調には一瞬、困惑があった。やがて困惑は冷笑に変わった。「じゃあ、俺はどんな人間なんだ?」
「あんたは英雄よ。英雄になったのは、その力があったからじゃない。人を守りたいって心があったから。その心はディカノごときで変わりはしない」
沈黙。
雄心仮面はその場に立ち、うつむいていた。
そして彼は笑った。
笑声がマスクの奥から漏れ出した。低く、抑え込まれた笑い。それが徐々に大きくなり、狂おしくなり、最後にはほとんど狂気に近い大笑いへと変わった。
「人を守る?」彼は笑った。「俺は自分すら守れない!あいつらがなんて言ってるか知ってるか?『雄心仮面はただの道具』、『英雄協会の犬』、『能力がどれだけ強くても、誰かに紐を引かれた木偶だ』!」
彼は勢いよく顔を上げた。
「あいつらの言う通りだ!俺は木偶だ!ずっと他人の期待に沿って生きてきた。英雄になって、世界を救って、平和を守って、でも誰が俺を守ってくれるんだ!?」
彼が叫び終わると同時に、強力な重力波が彼の身体から爆発した。
リン・ユエチュアンは即座に音波障壁を最大出力まで引き上げた。
二つの力が空気中で衝突し、唸りを上げる。地面が二人の間で引き裂かれ、一条の亀裂が走った。
沉纱は衝撃波に押されて何歩も後退した。「このままじゃ、ここが壊される!」彼女は足を踏みしめ、深く息を吸い込み、両手を体の前で交差させ、それから勢いよく開いた。
「生命統合幻境!」
世界が一瞬で静まり返った。
カイアルの目の前の光景が突然、歪んだ。リン・ユエチュアンも雄心仮面も消え、沉纱も消えた。残ったのは、半空中に浮かび、柔らかな白い光を放つ球体だけ。
「こ……これ、なんなんですか?」カイアルは手を伸ばして、その光球に触れようとした。しかし指はすり抜け、何にも触れなかった。
「触るな」
片手が彼の肩を押さえた。
カイアルが振り返ると、そこには最も謎に包まれた英雄、唯心仮面が、いつの間にか後ろに立っていた。
「これは霊心仮面の切り札、生命統合幻境だ」唯心仮面のマスク越しの視線が、その光球に落ちた。「彼女は三人の意識を、同じ精神世界へと引き込んだ。あの世界では、あらゆるダメージが現実だ。意識が死んだと思えば、肉体も死ぬ」
カイアルは目を大きく見開いた。「じゃあ、林先生と霊心仮面は……」
「見ていろ」唯心仮面は遮った。「やれることはやった。あとは彼ら次第だ」
幻境の内側。
リン・ユエチュアンが目を開けると、自分は虚無の空間に立っていた。
空はなく、地面もない。周囲は果てのない白。だが、重力の感覚はまだある。
彼の身体は、雄心仮面が放つ重圧をいまだに受け続けていて、筋肉の一分一寸が悲鳴を上げている。
「これは……」リン・ユエチュアンは手首を回した。音波障壁は依然として作動していて、能力に影響はない。
「私の幻境よ」沉纱の声が背後から聞こえた。
リン・ユエチュアンが振り返ると、彼女が立っていた。幻境の中の彼女は戦闘服ではなく、簡素な白いシャツとズボン姿で、長い髪を下ろしている。
「お前にこんな手があったとは」リン・ユエチュアンはやや意外そうだった。「一度も聞いたことがないぞ」
沉纱は彼の隣に歩み寄り、前方を見つめた。「この技は最初から、敵と刺し違えるための切り札だった。敵を幻境に引き込み、意識を閉じ込める。そして私自身も、もう外には出られない」
「もっと早くこの技を見せていれば、お前の能力もSR級に評価されていたかもしれないな」
「そんな話はやめて。やむにやまれぬ状況じゃなければ、私はこの技は使わない」
リン・ユエチュアンは一秒、黙った。「じゃあ、今は?」
「今は、あんたが戦いを終わらせられるかどうかに賭ける」沉纱が言った。
沉纱のその信頼に、リン・ユエチュアンは何も言い返せなかった。
向かいの空間に、雄心仮面も同じ瞬間に現れた。
彼はあの深い青の戦闘服を、依然として身に着けている。
「霊心、お前、外の人間に加担して俺を相手にするのか」その声は幻境の中で反響する。「俺たちは戦友じゃなかったのか?」
「戦友だからこそ、このまま暴走させるわけにはいかない」沉纱の語調は穏やかだった。「雄心、必ず正気に戻してみせる」
「正気?」雄心仮面は天を仰いで大笑いした。「俺は今、これまでになく正気だ!やっとわかった。この世界に必要なのは英雄じゃない。秩序だ。俺が作る秩序だ!」
彼は右手を持ち上げ、五指を開き、掌をリン・ユエチュアンに向けた。
重力場が瞬時に凝縮する。
リン・ユエチュアンは、見えない力が四方八方から迫ってくるのを感じた。音波障壁があっても、骨が軋む音がするほどだ。
「活性賦与!」
沉纱の声が幻境に響くと同時に、暖かなエネルギーがリン・ユエチュアンの体に流れ込む。
骨格は瞬時にさらに緻密になり、筋肉の爆発力は倍増し、内臓の表面は柔らかな生命エネルギーに覆われた。
リン・ユエチュアンは深く息を吸い込んだ。吐き出された息には、わずかに血の匂いが混じっている。内臓の損傷は依然として残っているが、活性賦与によって最低限にまで抑え込まれ、治癒も同時に進んでいた。
「いい技だ」リン・ユエチュアンは言った。
「無駄口はいい、早く行って!」
リン・ユエチュアンが動いた。
活性賦与と音波の牽引による後押しを受け、彼の身体は普段をはるかに超える速度を叩き出す。
雄心仮面は即座に重力の方向を変え、外へ向かって突き放す力を爆発させる。リン・ユエチュアンを弾き飛ばそうという狙いだ。
リン・ユエチュアンは空中で強引に体を捻り、音波障壁を体表に滑流層として張り巡らせ、その排斥力を逸らす。彼は重力波の隙間を抜け、拳をまっすぐに雄心仮面の顔面へと突き出した。
雄心仮面は上体を反らし、同時に腕を上げてガードする。
拳と掌がぶつかった瞬間、リン・ユエチュアンは相手の腕から凄まじい反撃力が返ってくるのを感じた。それは普通の人間の力ではない。戦闘服で強化された、超人的な身体能力だ。
だが、リン・ユエチュアンには活性賦与がある。
二つの力が激突し、爆ぜるような音が響く。
雄心仮面は三歩後退し、リン・ユエチュアンは宙で一回転して、しっかりと着地した。
初めての交錯、互角だった。
雄心仮面は自分の腕を一瞥した。戦闘服の袖口に、細かな亀裂が一本入っている。その表情は狂躁から真剣なものへと変わった。
「あんた、強いな」彼は言った。「ただの人間じゃない」
「俺は教師だ」リン・ユエチュアンは指を動かした。「学生に喧嘩のやり方を教える、そういう教師だ」
雄心仮面は笑わなかった。
彼は油断を捨て、両手を体の前で合わせ、十本の指を交差させた。
次の瞬間、重力場が一変した。
四方八方から、同時に圧縮が始まる。空気は液状になるまで押し潰され、純白の地面には完全な半球形の凹みが刻まれた。
リン・ユエチュアンは、自分の音波障壁が激しく震えるのを感じた。
全方位、死角なしの圧殺。音波障壁は一方向からの力は逸らせるが、力がすべての方向から同時に押し寄せれば、逸らせる効率は大幅に落ちる。
「紫!」沉纱が叫び、両手を前に突き出した。生命エネルギーが急速にリン・ユエチュアンへと流れ込む。
リン・ユエチュアンの身体は淡い緑の光に包まれ、骨格の耐圧上限がさらに引き上げられた。
彼は歯を食いしばり、音波障壁を守りから攻めへと切り替えた。自ら音波を放ち、重力攻撃を相殺していく。
二つの力は幻境の中で激しく衝突し、絶え間ない唸りを響かせた。
幻境の外。
カイアルは浮かぶ光球をじっと見つめた。その表面に、微かな波紋が浮かび始めているのが見えた。
「中で何が起きてるんですか?」彼は唯心仮面に尋ねた。
「喧嘩してる」唯心仮面の答えは簡潔明瞭だった。
「どっちが優勢ですか?」
唯心仮面は光球を数秒、じっと見つめた。「わからない」
カイアルの心臓は、喉元までせり上がっていた。
彼はリン・ユエチュアンが教えた集中力の訓練を思い出した。コインを投げ、キャッチし、また投げ、キャッチする。目に頼るんじゃない。感覚だ。制御しようとするんじゃない。予測するんだ。
彼は目を閉じ、深く息を吸って、それから目を開けた。
「俺、何かできますか?」彼は尋ねた。
唯心仮面が彼を一目見た。「君が?」
「林先生を助けたいんです。何ができるかはわからないけど、このまま黙って見てるだけは嫌だ」
唯心仮面は二秒沈黙し、それから光球を指さした。「あの幻境は、霊心仮面が意識で構築したものだ。理論上、外部の誰かが意識レベルに精確に干渉できれば、幻境の内部に影響を及ぼす可能性がある」
「俺にはできないです」カイアルは言った。「俺の能力は願望具現化ですが、現実のルールを超えてはいけません。意識レベルへの干渉なんて、俺には難しすぎます。そもそも意識って何かもわからない」
「なら、君が一番慣れた方法を使えばいい」唯心仮面が言った。
カイアルは一瞬きょとんとし、それから自分の手を見下ろした。
コインを投げる。目に頼らない。感覚だ。制御じゃない。予測だ。
彼は再び顔を上げ、その光球に視線を固定した。
幻境の中。
リン・ユエチュアンは重力に押され、片膝を地についた。
音波障壁は弱まり、身体はもう限界だった。活性賦与は確かに骨格と筋肉を強化したが、低周波音波による内臓へのダメージは累積していく。一発放つごとに、内臓が引き裂かれるリスクが増す。
沉纱は彼の背後に立ち、顔色は青白い。
彼女の生命エネルギーは驚くべき速さで消耗していた。リン・ユエチュアンに活性賦与を供給するには、膨大なエネルギーが要るのだ。
「紫」彼女の声はやや力なかった。「速攻で決めないと。じゃないと、三人ともここで死ぬ」
リン・ユエチュアンは歯を食いしばって立ち上がった。膝が震えている。
「わかってる」彼は言った。「だが、俺の低周波はダメージを伴う。無消耗の重力相手に、持久戦は無理だ」
「なるほど、あんたの能力は音波なのね……でも、彼にも弱点はある!」沉纱が説明した。「作戦服よ」
リン・ユエチュアンは彼女を見た。
「彼の重力耐性の大半は、あの作戦服によるもの」沉纱が説明する。「あれは英雄協会が彼のためだけに特注したもので、内部に重力均衡装置が組み込まれている。そのおかげで、彼の身体は普通の人間の十倍のG値にも耐えられる。もしあの作戦服がなければ、彼自身の肉体の限界は、せいぜい三倍のG値まで」
「つまり、作戦服さえ破壊できれば……」
「彼は、自分の重力に耐え切れなくなる」
リン・ユエチュアンは理解した。
雄心仮面が今、ためらいなく重力を放てるのは、あの作戦服が彼を守っているからだ。作戦服が機能を失えば、彼自身も自分の重力に押し潰される。
「問題は、どうやって破壊するかだ」リン・ユエチュアンは言った。「あの作戦服は、弾丸すら通さない」
「あんたの音波ならできる」沉纱が言った。「低周波はどんな固体も透過して、内部構造に直接作用する。周波数さえ合えば、内部から作戦服の分子構造を瓦解させられる」
リン・ユエチュアンは一秒、沈黙した。
「試した」彼は言った。「だが、奴の重力場が音波の伝播経路を歪める。俺の低周波は奴に届かない。それどころか、内臓の損傷が速まるだけだ」
沉纱は唇を噛み、それから言った。「私が彼の気を引く」
リン・ユエチュアンは彼女を見た。「お前が?」
「私は霊心仮面よ」沉纱は言った。「戦闘は得意じゃない。でも、彼は私にまでは手加減する。少なくとも……完全に制御を失う前までは」
彼女はリン・ユエチュアンの返事を待たず、既に雄心仮面へと歩き出していた。
「雄心」彼女の声は大きくなかったが、幻境の中でくっきりと響いた。「私たちが初めて会った日のこと、まだ覚えてる?」
雄心仮面の動きが、一瞬止まった。
「英雄協会の選抜試験の時よ。あなたが選ばれた直後、私が話をしに行った。あの時、あなたはすごく緊張していて、話すとどもって、マスクまで前後ろ逆につけてた」沉纱の声はとても優しかった。「あなたは私に聞いた。『霊心先輩、英雄って一体、何ですか?』」
「私は言った。英雄は、何でもできる神様じゃない。自分には限界があると知りながら、それでも立ち上がって人を守ることを選んだ、普通の人だって」
雄心仮面の手が震えている。
重力場の強度が弱まった。
「やめろ……」彼の声は掠れていた。「もう言うな……」
「あの時、あなたは笑って言った。『それなら、俺はこの先ずっと普通の人でいい。一人でも多く守れるなら、それで』」沉纱は続けた。「まだ覚えてる?」
「黙れと言ってるんだ!」
重力場が再び爆発し、内側へと凝縮した。彼はすべての重力を自分の周囲に圧縮し、肉眼でも見える漆黒の球体を形成した。
これが彼の絶対防御。
球体の内部では、あらゆる物質が自身の重力に押し潰される。光さえも、その中から逃れることはできない。
重力がすべて内側に凝縮したことで、外界への歪曲効果は最低限まで落ちた。
突然、黒い球体に、見えない力が干渉したように、亀裂が走った。
「これは!? まさかカイアルか!?」それを見たリン・ユエチュアンは、即座に低周波音波を放った。音波の伝播経路は、もう妨げられない。真っ直ぐに、何の遮りもなく、その黒い球体の亀裂へと突き刺さる。
低周波は重力場を貫いた。
作戦服の表面を貫いた。
内蔵された重力均衡装置を貫いた。
精確に、作戦服内部の最も脆い部分へと直撃した。
微かな、ほとんど聞こえないほどのかすかな音。「パキッ」
黒い球体が砕け散る。
雄心仮面が半空から落下した。彼の作戦服の表面には、胸から四肢へと広がる蜘蛛の巣状の亀裂が走っている。
リン・ユエチュアンが彼を受け止めた。
重力場が消えたことで、雄心仮面の体重は正常に戻り、リン・ユエチュアンは片手で彼の背中を支えた。彼のマスクは完全に砕け、その下の、若く、青白く、汗まみれの顔が露わになる。
その濃い褐色の瞳から、殺気が消えていく。
「俺は……」雄心仮面は口を開いた。声はか細い。「俺、何をした?」
「あんたは、あと少しで俺たちを殺すところだった」リン・ユエチュアンは言った。
雄心仮面は目を閉じ、喉仏をひとつ動かした。「すまない」と彼は言った。
幻境が崩壊を始めた。
白い空間は端から砕け、亀裂の隙間からは外の世界の光が差し込んでくる。沉纱はよろめき、片膝をついた。顔色は紙のように白い。
リン・ユエチュアンは雄心仮面を抱え、崩れゆく幻境の中央に立ち、無数の破片が一枚一枚剥がれ落ち、外の夜、街灯、そしてカイアルの怯えた顔が露わになっていくのを見つめていた。
三人が現実へと弾き戻された。
外では、英雄協会の要員たちがクリーフ小隊の五人と連携し、暴徒化した学生や、その後症状を見せた者たちを、既にすべて制圧していた。
リン・ユエチュアンの両足が地面に着いた瞬間、全身の至るところから激痛が込み上げてきた。活性賦与の効果が切れ、それまで抑え込まれていたダメージが一気に反噬してきたのだ。内臓は数カ所が裂け、肋骨は少なくとも三本折れ、左肩は関節包が重力に押し潰されて脱臼し、右膝の半月板には亀裂が入っていた。
彼は半ば地面に膝をつき、血の塊を一つ吐き出した。
「林先生!」カイアルが駆け寄り、支えたいのに触れられずにいる。「だ、だ、だ、大丈夫ですか!?」
リン・ユエチュアンは顔を上げて彼を一目見た。口元にはまだ血が滲んでいる。「お前、さっき能力を使ったな?」
カイアルは一瞬きょとんとし、それから頷いた。「俺……何とか力になろうとしました。幻境をコインに見立てて、それがコインで、俺にそれを感じ取れるってイメージして……それから、何かに触れた気がして、思い切り一発、叩き込んだんです……」
リン・ユエチュアンは彼を見つめ、二秒黙った。
「お前のその一撃、ちょうど雄心仮面の重力場に直撃したんだ」
カイアルは目を大きく見開いた。「本当ですか?」
「本当だ」リン・ユエチュアンは言った。「お前が、俺たちを救ったんだ」
カイアルの口は、開き、閉じ、また開いた。それから突然、涙が溢れ出した。怖いからでも、感動したからでもない。ただ……やり遂げたのだ。
本当に、やり遂げた。
自分は、ただ見ているしかできない役立たずなんかじゃなかった。自分の能力で、守りたい人を、本当に守れるんだ。
「林先生……」カイアルは涙を拭いながら、声を詰まらせた。「俺……俺、やっぱりダメですね……なんで、泣けてくるんだ……」
リン・ユエチュアンは手を伸ばし、彼の頭をポンと叩いた。
「泣くんじゃない」彼は言った。「お前のさっきの動き、一生自慢できるぞ」
沉纱は地面から立ち上がった。足取りはふらついているが、それでも彼女は気力を振り絞って雄心仮面のそばまで歩いた。彼の作戦服は幻境の意識と共に完全に使い物にならなくなっていて、全身を地面に投げ出し、昏睡したまま動かない。
「まだ生きてる」沉纱は彼の頸動脈に手を当て、ほっと息をついた。「彼を隔離車に乗せて、英雄協会本部へ送りなさい。二十四時間、監視を」
隔離服の隊員が二人、駆け寄り、慎重に雄心仮面を担架に載せた。
沉纱はリン・ユエチュアンを振り返り、その視線を彼の全身に走らせた。服は血まみれ、口元にはまだ血が滲み、左腕は不自然な角度で垂れ下がっている。
「あんたも病院に行きなさい」彼女は有無を言わせぬ口調で言った。
「死にはしない」リン・ユエチュアンは言った。
「これは相談じゃない」
リン・ユエチュアンは彼女を一目見たが、反論しなかった。
沉纱は少し離れた場所の隔離車へ手を振った。また二人の隔離服の隊員が来て、リン・ユエチュアンも担架に乗せようとした。リン・ユエチュアンは手を振って断り、自分で立ち上がった。一歩踏み出すと、膝ががくんと折れ、あやうく再び膝をつきそうになる。
カイアルが慌てて支えた。「林先生、無理はしないでください」
リン・ユエチュアンは何も言わず、カイアルに支えられたまま隔離車へと向かった。
沉纱のそばを通り過ぎる時、彼は立ち止まった。
「お前が一人前の英雄に成長した。俺は嬉しい」
沉纱は一瞬きょとんとし、それから口元が、めったに見せない微笑を浮かべた。
リン・ユエチュアンはそれ以上何も言わず、カイアルに支えられて車に乗り込んだ。
隔離車のドアが閉まり、エンジンがかかり、車体が微かに震えた。
リン・ユエチュアンはシートに凭れ、目を閉じ、窓の外から聞こえる音に耳を澄ませていた。サイレン、トランシーバーのノイズ、隔離服の隊員たちの足音、遠くの学生の啜り泣き。
それから、もう一つ、心臓の鼓動。
彼自身のものではない。
リン・ユエチュアンは目を開け、隔離車のバックミラーに映る光景を見た。
人垣の端に、私服姿の若い女が一人立っている。両手をポケットに突っ込み、顔には何の表情もない。周囲の隔離服の隊員たちとは一切の関わりを持っていないようでいて、しかしその視線は、ずっとこの隔離車に釘付けになっていた。
リン・ユエチュアンは、あの立ち方を知っている。
あれは、東カーネルハイトの人間だ。
彼は目を閉じ、心の中で静かに、その心臓の鼓動の周波数を刻み込んだ。
隔離車は校門を出て、夜の闇へと溶け込んだ。
校門前の人々は徐々に散っていき、数人の隔離服の隊員だけが残って後片付けをしている。
灰は遠くに立ち、隔離車が消えた方角を見つめていた。
「芯」彼は低く言った。「近づきすぎるな。あいつに気づかれる」
イヤホンから、清冷とした女の声が聞こえた。「わかってる」
「まさか雄心仮面と互角に渡り合うとはな。監視を続け、異常がないか確認しろ」
「了解」
そして、すべては静寂に帰した。
「本作品の内容(ストーリー・設定・キャラクター)はすべて作者自身が創作したものです。ただし、日本語への翻訳に際し、AI翻訳ツールを参考・補助として使用していることをお伝えいたします。翻訳の正確性には細心の注意を払っておりますが、不自然な表現がありましたらご指摘いただけますと幸いです。」




