33●危機の真相
爆発音が響いたのと同時に、リン・ユエチュアンは百川グループ本社ビルに辿り着いていた。
彼は正面玄関からは入らず、地下駐車場の換気ダクトから侵入した。
音波感知が彼の脳裏に、建物全体の立体映像を描き出していく。警備員の位置、監視カメラの死角、エレベーターの稼働状況。
彼は二十三階で千奈のスマートフォンのシグナルを捉えた。
リン・ユエチュアンは消防階段を這い上がり、防火扉を押し開けた。廊下には人っ子一人おらず、ただ突き当たりの両開きの扉だけが、明かりを漏らしている。
彼は扉の前まで歩み寄ると、音波を木扉に貫通させ、中の状況を感知した。
千奈は壁際のソファに座っていて、呼吸は穏やか、心拍も正常。怪我はない。百川は窓際に立ち、その側には五人の人影がある。
リン・ユエチュアンは一瞬、硬直した。その五人の心拍数、呼吸リズム、筋肉の緊張度は、普通の人間が出せる数値ではなかった。訓練を積み、反応速度が極めて速く、常に戦闘態勢を維持している。
彼はこの身体データを知っている。何年も東カーネルハイトにいたから、嫌というほどわかっている。
リン・ユエチュアンは扉を押し開けた。
会議室の中の全員が、一斉に彼を見た。
千奈が真っ先に立ち上がった。「リン……林川?」
百川が微かに眉をひそめた。「どうしてここへ?」
リン・ユエチュアンは百川を見なかった。その視線は五人を走査している。
五人は皆、私服を着ている。男三人、女二人。年齢はどれも若く、一番上でも二十五、六ほどだ。彼らは会議用テーブルの両側に散らばって座り、姿勢こそくつろいでいるが、その目は鋭く警戒を湛えている。
リン・ユエチュアンはその中の一人の座り方に見覚えがあった。
右手が常に腰のあたりにある。あれは長期間、武器を携帯してきた癖だ。東カーネルハイトの人間は、武器を腰の後ろに隠す習慣がある。
「千奈が連れて行かれたと聞いた」リン・ユエチュアンは視線を戻し、百川を見た。「彼女の無事を確認しに来た」
「彼女は無事だ」百川は言った。「もう戻っていい」
「どこへ戻れと?」
「自分の学校へ。自分のいるべき場所へ」
リン・ユエチュアンは相手にせず、直接尋ねた。「ディカノはどこまで漏れた?」
会議室が一瞬で静まり返った。
百川の表情が変わった。先ほどの、丁寧だがどこか距離のある社交用の表情ではない。審査と警戒の色に変わった。
「なぜディカノを知っている?」会議テーブルの一番奥に座っていた男が口を開いた。
見た目は二十五歳前後。短髪で、輪郭は固く、濃い灰色のジャケットを着ている。リン・ユエチュアンはこの男を知っていた。東カーネルハイト第三クリーフ小隊隊長、灰だ。
リン・ユエチュアンは彼を見た。「東カーネルハイトが小隊丸ごと動くということは、社会全体に直接影響する大事が起きたということだ」
男の目つきが変わった。
他の四人も即座に警戒態勢に入った。数人が手を腰の後ろに回している。
「お前、何者だ?」彼は立ち上がり、リン・ユエチュアンを睨みつけて警告した。
リン・ユエチュアンは答えず、百川の方を向いた。「ディカノはどこまで漏れた?」
百川は数秒沈黙し、それからため息をついた。「超能学院のすぐそばだ」
「輸送中に事故が起きた」百川は椅子に座り直した。「我々は東カーネルハイトと協力し、ディカノを本部の地下研究所へ運び、廃棄処理する予定だった。車列が城東大通りを通過中、突然襲撃を受けた」
「何者だ?」
「不明だ」灰が言葉を継いだ。「少なくとも六人の超能力者。能力は多種多様で、連携も洗練されていた。奴らはディカノを積載したコンテナを直接攻撃し、コンテナを損傷させ、ガス漏れを引き起こした」
リン・ユエチュアンの脳内で、即座に推論が走る。「漏出地点は超能学院のすぐそばか? 今、どれだけの人間が感染している?」
「まだわからない」灰の声はやや低かった。「ディカノの感染は即時ではない。潜伏期間がある。ディカノが放出する光粒子に感染した者は、当初は何の症状も出ない。だが、内面の悪が無限に増幅されていく。誘因が生じた時、爆発する」
リン・ユエチュアンは思考する。
ディカノ。コードネーム「正義失联(正義の連絡途絶)」。SR級特異物品。
それはウイルスでも細菌でも、既知の化学物質でもない。それはむしろ、情報に近い。人間の意識の基底部のコードを書き換える類の情報だ。
ディカノに感染した者は、発熱も咳も、いかなる生理的な異常も示さない。だが、その心は知らず知らずのうちに変わっていく。本来なら善良な人間は冷淡になり、温和な人間は粗暴になり、法を守る人間はやりたい放題になる。
この変化は感染する。空気を通じてではない。接触を通じてでもない。行動を通じてだ。感染した者が悪行を為すと、周囲の人間の奥底にある悪念を誘発し、連鎖反応を引き起こす。
かつて東カーネルハイトの内乱が起きたのも、誰かが本部にディカノを放ったからだ。本来なら規律厳格な暗殺組織が、一夜にして同士討ちの修羅場と化した。
リン・ユエチュアンは目を開いた。「学院は今、どうなっている?」
「まだわからない」百川は言った。「英雄協会には既に連絡済みだ。彼らが避難を組織している。だが問題は、もし既に感染者がいるなら、避難の過程で爆発を誘発しかねないということだ」
「だからお前たちは、ここで座っているのか?」
「情報を待っているんだ」灰の語気にはやや不快感が滲んだ。「十分な情報がないうちに軽率に動けば、状況を悪化させるだけだ」
リン・ユエチュアンは灰を見据えた。数秒間、じっと見てから、身を翻して外へ歩き出した。
「どこへ行く?」千奈が呼び止めた。
「学院に戻る」リン・ユエチュアンは振り返らなかった。「そこに、俺の生徒がいる」
「お前一人で何ができる?」
リン・ユエチュアンは入口で足を止め、顔だけを千奈に向けた。「少なくとも、連中が互いを殺し合わないようにできる」
彼はドアを押して出て行った。足音が廊下の果てに消えていく。
会議室には数秒の沈黙が落ちた。
百川は沈黙する一同を見渡し、灰に顔を向けた。「彼が誰か、わかるか?」
灰が尋ねた。「英雄協会の人間か?」
クリーフ小隊の誰一人としてリン・ユエチュアンに気づいていないのを見て、百川はほっと息をついた。「かつてはそうだ。だから彼は今回のディカノ漏出に介入する能力がある。疑う必要はない」
会議室は完全に静まり返った。
リン・ユエチュアンがビルを出た時、空はもう暗くなり始めていた。
彼はスマホを取り出し、まず沉紗にメッセージを送った。「ディカノ漏出。場所は超能学院付近。警戒しろ」
三秒後、沉紗から返信が来た。「了解。英雄協会は既に緊急対応を発動済み。私も向かっている」
リン・ユエチュアンはさらに汐瑶にメッセージを送った。「別荘にいろ。窓と戸を閉め、外に出るな。誰が来てもドアを開けるな」
汐瑶が即座に返信してきた。「隊長はどこにいるの?」
「用事だ」
「何の用事? 私、必要?」
「いらない。じっとしていろ」
「はあい_(:з」∠)_ 隊長、気をつけてね」
リン・ユエチュアンはスマホをしまい、超能学院の方角へと駆け出した。
通りを行く人々は、普段と変わらない。会社帰りの者、犬の散歩をする者、道端のバーベキュー屋台に並ぶ者。遠くの空は夕陽に橙色に染まり、一見、穏やかな夕暮れだ。
彼は歩みを速め、人波の間をすり抜けていく。
角を一つ曲がると、超能学院の校門が視界に入った。
何も変わらない。
警備員は詰所でスマホを見ている。学生が数人、門のところでデリバリーを待っている。遠くのグラウンドでは、まだ誰かが走っている。
リン・ユエチュアンは校門をくぐり、音波感知を全開にした。脳内に学院全体のリアルタイムな動態図が構築されていく。
教室棟では、学生たちが普段通りに自習している。
訓練場では、いくつかのクラスが通常訓練を行っている。
食堂では、職員が夕食の準備をしている。
寮棟では、眠っている者、ゲームをしている者、シャワーを浴びている者がいる。
すべてが正常に見えた。
だが、寮棟の下に着いたところで、彼のスマホが震えた。
以前、彼に個人的に連絡先を聞いていたカイアルからのメッセージだった。「林先生、今どこにいますか? 石磊の様子が少しおかしいんです」
リン・ユエチュアンは足を止めた。「どうした?」
「さっき一緒に買い物に行ったんですけど、急に情緒が不安定になって、なんだか泣き笑いが激しいっていうか。大丈夫か聞いたら、大丈夫だって言うんです。でも、俺はなんかおかしいと思うんです。あんなの石磊じゃない」
リン・ユエチュアンは一瞬、自分がこの異常を感知できていなかったことに気づいた。「今、どこにいる?」
「多分、寮にいるはずです。中は静かです」
「近づくな。刺激するな。俺がすぐ行く」
リン・ユエチュアンは男子寮棟へと向かって走り出した。
「本作品の内容(ストーリー・設定・キャラクター)はすべて作者自身が創作したものです。ただし、日本語への翻訳に際し、AI翻訳ツールを参考・補助として使用していることをお伝えいたします。翻訳の正確性には細心の注意を払っておりますが、不自然な表現がありましたらご指摘いただけますと幸いです。」




