彼の過去 中学二年生、冬(前)
俺と夏美の関係は、産まれる前から始まっていた。俺達の母親が親友で、子供ができたのも同じぐらいだった。一番古い俺達の写真は、病院のベッドに寝かされる赤ん坊のころだ。
そこからずっと一緒だった。家も近所、幼稚園も小学校も中学校も一緒。どっちが兄か姉かは置いといて、俺達は兄妹のように過ごしてきた。気づいたら周囲からは夫婦だなんだとかわれたりはしたけど。
あくまで夏美は家族みたいなものだと思っていた。
中学二年の終わり……終業式の前の日までは。
「ねぇ空、三年もクラス一緒かな?」
「もしそうだったら九年連続だな」
「クラスが別なら、修学旅行も別々だね」
「だな」
まだ冷たい風の吹く通学路を、二人並んで歩いていく。
「今日の給食なんだっけ」
「カレー」
「やったー、おかわりしよっと」
とりとめのない会話と。
「あーあ、高校どこにしよ。空は北高だっけ?」
「ちょっと遠いけど、通える距離だしね」
「偏差値高いよね……あたしでも受かると思う?」
「これから猛勉強すれば、あるいは」
「……中体連の後からでも間に合うかな」
「受験舐めすぎだろ」
少し先の未来と。
「あたしさー、萩女子と迷ってるんだよね」
「あぁ、バスケ強いんだっけ?」
「そこの監督から誘われててさ、もし受けるなら推薦状書いてくれるって」
「勉強しなくていいの?」
「そ」
「うらやましい……」
「でもまずは、最後の大会で結果残さないとね。あたし達、最低でも地区優勝目指してるから」
来るかもしれない別れを。
「高校別になったら、連続記録途切れるね」
「その前に三年がどうなるかだろ」
踏みしめながら歩いていく。
「夏美」
「何?」
「……来年もクラス、一緒だといいな」
「空から宿題写させてもらえるしね」
「あのなぁ」
——これが最後だって、気づかずに。
「あ」
白い商用車が、ふらふらと近づいてくる。夏美をこっちに寄せようと、手を伸ばす。夏美はそれがからかいだと思ったのが、後ろを振り返って避ける。
「へへーん、捕まえて」
夏美の言葉が途切れる。視界の中に、瞼を閉じたドライバーの姿が映る。
——後から聞いた話だと、その会社は長時間労働に関して労基から勧告を受けていたらしい。運転手も無理な営業ノルマを強いられて、連日連夜車を走らせていたそうだ。
きっと同情されるべき人なのだろう。けれど事実として、その男は通学路に突っ込んできて。
「なつ、み」
彼女の小さな体を、吹き飛ばした。




