表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/26

彼女の過去 幼稚園年少、夏

 幼いころから、空はあたしの家で過ごすことが多かった。空の両親は共働きで帰りが遅く、母同士が親友だったからだ。幸いうちの家は広く、ママも子供が好きだったため、いつしかそれが当たり前だと思っていた。


 だから空は、あたしの弟だと本気で思っていた。あたしが手を引いて上げないといけない、世話の焼ける弟。


 けれど、その弟は……どういう訳か、夕方になると知らない誰かに連れていかれるのだ。それが空の母だというのは、三歳のあたしにはまだよくわかっていなかった。


「どうして空、いなくなるの……?」


 空を見送った玄関で、あたしはママに泣きついていた。


「それはねー、夏美。空くんは、たかちゃんの家の子だからよー?」


 ママはあたしにもわかるように説明してくれた。だからその時、思い切り泣いたのを覚えている。


「やだ! ずっと空といっしょがいい! 空はあたしと、ここで暮らすの!」

「それはねー、できない……」


 困ったようにママが笑ったのを覚えている。


「こともない、わね」


 それからすぐに、何か思いついたような顔をしたのも。


「あのねー、空くんとー一緒に暮らす方法がねー?」


 今にして思えば、ママにとって空はほとんど息子のようなものだったのだろう。もしかしたら、今でもそうかもしれないけれど。


「ひとつだけあるって言ったら……どうする?」


 だから娘に……あんなことを、吹き込んだのだ。




 次の日。幼稚園の後に家でままごとをしていたあたしは、最高にご機嫌だった。


「にひひひひ」

「なんだよ、夏美」


 呼び方が違う、と諫める。


「夏美じゃなくて、ママ! 空がパパ! この子が赤ちゃん!」


 あたしと空と、お気に入りのぬいぐるみを順番に指をさす。


「……ママ」

「はーい!」


 満足したあたしは、空に抱きついて頬ずりする。空は迷惑そうな顔を……していなかったと思いたい。


「あたし、大きくなったら……空とふうふになってあげるね? おままごとじゃなくて」


 そう、結婚。それがママがあたしに教えた、空とずっと一緒にいられる方法だった。


「そしたらうちで、いっしょにくらせるから!」


 あたしは夢見ていた。今も見ているかもしれない。


「ママのあたしと、パパの空、それから赤ちゃんの、さんにんで!」


 幸せな家庭を、空と築くことを。


「……しょうこは?」


 空はそれを信じていなかった。後から知ったが、空はよく両親に約束を破られていたからだ。休日に遊びに行く約束を、誕生日にケーキを買ってくれる約束を、親子三人でどこかに外食に行く約束を。


 忙しかったんだと今ならわかる。けれど子供にとって、全てを疑うに足りる出来事だった。


「しょうこがないと、しんじられない」

「もう、しょうがないなぁ」


 それをあたしは、どこで知ったのだろうか。両親がしていたからか、それともアニメで見たのだろうか。


 わからない。だけど、わかっていた。結婚の証拠とは、互いの唇をあわせることだと。


 だから、ファーストキスを彼とかわして。


「えへへ」


 あたしが映った、空の瞳をまっすぐと見つめて。


「大人になったら、結婚しようね!」


 いつか果たしたい、未来の約束をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ