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第十五話 三人分の朝食

 おばあちゃんが口うるさく言っていた、お礼はちゃんとしなさいと。だから俺は、ちゃんとした朝食を用意していた。


 まずはピザトーストだ。昨日ミートソースを作っていたおかげで簡単。食パンに塗りチーズを乗せる。バジルとオリーブオイルをかけてから、オーブンで焼くと完成だ。これを三枚用意する。


 次にオムレツだ。卵を割り、下味と油、それにちょっとだけマヨネーズを入れ攪拌する。綺麗に作るコツは、フライパンの温度を上げ過ぎないこと。これも三つ用意する。


 サラダは洗ったレタスを刻み、ミニトマトを添える。一人一個なので、三つ取り出す。


 飲み物はミルクティーだ。小さめのポットに一対一の牛乳と水を混ぜ、沸騰直前まで温める。茶葉は少量のお湯で浸しておき、小鍋に混ぜたら火を止め三分程度待つ。時間が経ったら茶こしを使ってティーポットに移す。完成だ。


 デザートはミカンの缶詰のヨーグルト和え。果物は高いし腐りやすいが、缶詰ならその心配はいらない。これも三つ、小さな器に盛る。


 最後に盛り付ける。大皿にピザトースト、オムレツ、サラダを盛る。スペースが開いているので、デザートは器ごと乗せていいだろう。ティーカップはもちろんお湯で温めておくのも忘れない。


 よし、これで日曜日の朝食~あるいはシェフの口止め料~の完成だ。なお普段はこんなに頑張らない。


「お待たせしました」


 テーブルで待っていた客人の前に置くと、きゃーっと嬉しい歓声が上がる。


「写真撮っていい?」

「すいませんご遠慮ください」


 写真は止めて欲しい。シェフの作った一皿に真剣に向き合って欲しいし、何よりここに来たという証拠が残るから。


「ふーん、じゃあ部活の人に」

「たった今撮影が自由になりました」


 客人に説得された結果、シェフは方針を変える。今や料理の楽しみ方だけではないのだ。SNSにアップだけは絶対やめてくださいね。


「おはよう空」


 と、ここで戦犯が欠伸交じりでやってきた。こいつの分はゆで卵と塩だけでよかったと後悔する。


「おはよう」


 戦犯。


「おはよう加奈」

「おはよう夏美」


 客人とあいさつを交わす戦犯。月城様の前で引きつった笑顔を浮かべている。


「……どうして家に加奈がいるの、かな?」

「わぁつまんないギャグ」


 笑顔で切り捨てる月城様。彼女は自分の隣を顎で差す、そこがお前の死刑台だと。


「朝ごはん冷めちゃうよ? せっかく空くんが作ってくれたのに」


 戦犯が俺に視線で助けを求めてくる。だが俺にできることは、目を伏せ朝食が月城様のお好みに合うかどうか内心でびくびくすることだけだった。


「座ろ?」






 年齢の割には料理ができる自覚がある。ネットのレシピや動画サイトで覚えたものだが、それにしたってここまで豪華な朝飯を作れる大学一年生はそこまで多くないだろう。見た目だって最高だ。


 ——だが味はしない。味見の時は美味かったのに。


「えっと、それでどうして加奈がいるの?」


 こらなんてこと言うんだ、戦犯。


「酒の匂いと疲れで眠ったお前を運んでくれたんだぞ」

「タクシー代はキャプテンが出してくれたんだけどね。ちゃんと後でお礼言いなよ?」


 昨晩聞いた話を繰り返す。


「んー美味しいーっ!」


 ピザトーストを頬張り身悶えする月城。やはり上手くいったようだ、俺も一口齧る……うん、味はしない。


「えっと、それでどうして朝ごはん食べてるのかなって」

「ごめんねーっ、邪魔だったよねーっ?」


 おい余計なことを言って月城様のご機嫌を損ねるんじゃないぞ。


「夏美を運んで疲れたからって、そのまま泊ったんだ。わざわざ夏美の部屋に布団敷いて寝てくれたんだぞ、気づかなかったのか?」


 本当に爆睡してたからな。来客用の布団が余っていてよかった。


「あ、服借りてるから洗って返すね」


 もちろん勝手に俺が貸した。戦犯に拒否権などないのだから仕方ない


「それで? なんで二人は同棲してるの?」


 さて、本題である。答えたいところであるが、上手く説明できる自信がない。


「ルームシェア、です。俺と夏美の親が仲良くて」

「空くんは黙ってて?」

「はい」


 月城に止められる。


「ルームシェア、だから。あたしと空の親が仲良くて」

「こうなるから」

「はい」


 ほとんどオウム返しの夏美。もうちょっと上手くやってくれないだろうか。


「でもさぁーっ、いくら親の仲がよくても、普通年頃の男女を同じ家に住まわせないでしょ。中学校が一緒なだけじゃないよねーっ」


 それはそう、と俺達は無言で頷く。あの人は普通ではないのだ。


「小学校も一緒だったの?」

「はい」

「幼稚園も?」

「はい」

「その前も」

「はい」


 夏美がはいと言っている間、俯くことしかできなかった。それから月城は両手を叩いて、また笑顔で圧を放つ。


「じゃあ二人は、『幼馴染』だったんだぁ。漫画とかでよくあるやつ」

「……はい」


 最後のはいは、一際重かったような気がした。


 さすがにちょっと、もうこの空間には耐えられないな。


「あっ……俺、ちょっとサークルに用事あるんだった。夕方ぐらいには、帰りますんで」


 よし、逃げよう。


いつの間にか朝食を食べ終え、手際よく片付ける。そのまま鞄すら持たずに家の外へと逃げ出した。


「いってらっしゃーい」


 食卓から聞こえて来た『いってらっしゃい』が、夏美からは聞こえない。これからこってり絞られるのだろうが……障らぬ月城様にはなんとやら、だ。

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