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第十四話 うっひょお~~~~~っ

 人生初の居酒屋。有名なチェーンらしいが、狭いしうるさいし値段は高いしおまけにタバコとお酒臭い。それでもこの騒がしい雰囲気は、結構好きかもしれないと思った。


「それでは、新入生の歓迎と……インカレ優勝を目指してぇ!」


 いつもよりテンションの高いキャプテンが、高らかにジョッキを掲げる。


「かんぱーい!」




 居酒屋のご飯は結構美味しかった。味は濃いめで意外な組み合わせのものが多く、つい目移りしてしまう。白いご飯が欲しくなったが、それはメニューになかった。おにぎりはあるくせに。


「それで夏美? 空くんとはぁ、どういう関係なのかなぁ?」


 ウーロン茶を持った加奈が、肩を寄せてぐいぐいしてくる。一通り交流し終えて、いよいよあたしのところに来たのだろう。


「同じ中学だった」


 前と同じ答えをする。嘘では、ない。


「それは本当なんだろうけどさぁ」

「なんだなんだぁ? 久坂の理想のスパダリの話かぁ?」


 さらに後ろから、ジョッキを持ったキャプテンが絡んでくる。


「ちょっとキャプテン、酔っぱらってます?」

「何を言っているんだ? 大事なインカレ前に酒なんて飲めるわけないだろ。ノンアルビールだ」

「余計タチが悪くないですか?」


 ゴクゴクと喉を鳴らして、おっさんみたいにプハーと漏らすキャプテン。お酒はまだ飲んだことはないが、その時が来てもキャプテンと同席するのはやめておこう。


「で? で? スパダリ君とはどうなったんだ?」


 スパダリ君って。


「別に、何もないですって」

「おやおやぁ? スパダリ君は実在しないんじゃなかったのかぁ?」


 しまった、失言だった。


「はいキャプテン! 昨日学食で夏美がごはん粒とってあげてました!」

「なっ」


 挙手をした加奈がバラす。して……たね、うん。


「ほほーう?」


 キャプテンが頬ずりをしてくる。まさか生まれて初めての居酒屋で『せめて酔っぱらっていて欲しかった』と思うとは。


「で、写真ある?」

「……ないです」


 俯いて答える。こっちは、嘘。


「絶対あるでしょそのリアクション。見せてあげなよぉ」

「見たいなぁ、見たいなぁ~」


 さらに頬ずりしてくるキャプテンを、何とか引きはがそうとする。だが赤大のエースだけあって、なかなかどうして離れてくれない。


 だから。


「キャプテン、そんなんだから彼氏できないんじゃないですか?」


 相手の弱点を、突く。これはうん、戦術だ。


「えっ」


 クスクスと周囲から笑い声が聞こえてくる。キャプテンは背の高いモデル並みの美人なのだが、彼氏がいなくて有名だ。イケメンすぎて男の方が気後れするとか、そういう理由らしい。


「月城ー久坂がいじめるぅー」

「よしよしっ、今のは言いすぎでしたねーっ」


 今度は加奈に泣きつくキャプテン。


「でもー写真見せてもらったらー、許してあげるぅー」

「絶対もってますもんね」

「ちらっ」


 キャプテンが非常にうざい。うざいのだが、はっきり言って今一番お世話になっている先輩でもある。


「ちらちらっ」


さて、体育会系のあたしとしては、可愛がってくれている先輩を無下にするのは気が引けるわけで。


 ……さすがにツーショはまずいので、入学式の時の写真をコピーして、あたしだけをトリミングした写真を作る。


「……はい」

「うっひょお~~~~~っ」


 スマホの画面を向けた瞬間、キャプテンがとんでもない声を上げる。


「……イイ、な」


 そりゃ空なので。


「なんかこう……派手ではないからこそ、グッとくる感じの男だな。エプロンつけておかえりって言ってくれたら、あまりのエロさにその場で鼻血が噴き出るかもしれない」

「キャプテンったらやらしーっ」

「バカ言うな、月城も実際に見たら同じ感想を抱くはずだ」


 ……よくもまぁ人が毎日抱いてる感想を言い当てられるものだ。


「終わりです」

「えーもっとよく見せてよぉー」

「で、本当に中学一緒なだけ?」

「終わり、終わり、この話終わりだから!」


 スマホをポケットにしまうと、今度は加奈がキャプテンに抱きつく。


「キャプテーン、夏美に会話拒否されるぅー」

「よしよし月城、かわいそうに……すいませーんウーロン茶とノンアルビール一つくださーい」


 はぁ、とため息をついてからよくわからない果物のジュースを一口啜る。今まで自分が足を踏み入てこなかった場所にいることを実感してしまう。


 しかしやっぱり気になるのは。


「それにしても居酒屋って、結構お酒臭いんですね」


 臭いだ。特にお酒の。


「露骨な話題逸らし、はんたーい」

「お待たせしましたー、ウーロン茶とウィスキーロックのお客様ーっ」


 店員さんが間違えてお酒を持っていて、キャプテンの目の前に置く。ここからでもわかるぐらい、かなりキツい匂いがする。


「あーお酒はあっちかなー。あ、いいですよこっちで届けるんで」


 キャプテンがグラスを持ち上げると、さらに匂いが近づいてくる。


「そうじゃなくて、あたし本当にお酒の匂いも苦手でさ」


 初めて嗅いだのは、小学校の時だっただろうか。親戚の集まりで、大人はみんなビールを飲んでいて。


「なんか、眠いなって」


 あの時あたし、隅っこの方で寝ていたっけ。


「ていうかあたしだけ、今日も、練習多すぎ……」


 ——ちょっと理不尽に感じる。あ、ヤバい疲れてるって実感した瞬間瞼重くなってきた。


「え、マジ寝? 匂いだけで?」

「みたいですねぇ、よっぽど弱いんですね」

「こりゃあ男と飲ませられないな」

「ですねー、顔はいいのに無自覚無防備で参りますよ」


 起きてます、と言いたいが、口を開く元気もない。だんだんと意識がぼんやりとし始めて。


「月城は大学の近くに一人暮らしだったよな。泊めれるか?」

「いやーちょっと今は足の踏み場がないですね……ワンルームですし」


 二人の会話の、最後の方は。


「夏美の住所は……あったあった。タクシー代は……片道なら、出してやれるな」

「いいんですか? 個人情報の取り扱いとか」

「一年生を放っておくほうが問題だからな。すまん、頼んでいいか? 帰りは電車になるかもしれんが」

「任されました」


 ——よく、聞こえなかった。




◆◆ ◆




 毎日の夕食を用意するのはかなり面倒だ。それを解決する方法は金か労力の二択なので、必然的に作り置きという名の労力になる。


 常備菜をいくつかと、ミートソースを多めに作った。常備菜を作っておくと食卓が華やかになるし、ミートソースは俺が面倒な時に楽できるからだ。パンにもご飯にも合うので便利だ。


 と、玄関から鍵の開く音が聞こえてきた。時計を見ると、まだ十時。二次会のカラオケも行きたいから、結構遅いって言ってなかったっけか。


 何かあったのかと思い、鍋の火を止め玄関へと向かう。エプロンはそのままでいいか。


「夏美、今日歓迎会じゃなかったか?」


 扉が開く。夏美がいる。いるのだが、なぜかおんぶされている。


「え?」


 ……月城に。


「……なんで空くんが夏美の家にいるの?」


 ——なんて言い訳しようかな、これ。などと悩んでいると、月城はまじまじと俺の服装を眺めて。


「うっわエッロ!?」


 えっ、どこが!?

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