表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/25

第十三話 女通り越してメス

 席を立ちナンパ野郎と彼女達の間に入り、俺の女に何をするんだよ……などと言えるはずもなく。


「おーい、二人ともーっ! 遅いから先に食べてたぞーっ!」


 声を張り上げ、二人に向かって大きく手を振る。周囲から視線が集まるが、今は我慢だ。


「あ、空くん! ごめんお待たせーっ!」


 月城の顔が明るくなり、即興の言い訳に合わせてくれる。夏美はどこか不満そうに、こっちを睨んでいる。


 さて、ここで誰がどこに座るかという問題が発生したのだが。


「夏美、空くんの隣に座りなよ」

「オレもそれがいいと思うぞ」


 二人から華麗なアシストをされる。月城にはバレていたんだろうな、やっぱり。藤は……お前いつPCしまったんだ?


「まぁいいけど」


 ため息をつきながら、夏美が俺の隣に座る。カレー、しかも大盛だ。


「……別に困ってなかったし。あれぐらい余裕で追い払えたから」

「はいはい、それでいいよ」


 夏美の顔を見て、ああと藤が漏らす。


「この子が桜庭のお」


 やべ、夏美の顔も覚えていたのか。そう思った瞬間には、机の下で脛を蹴っていた。


「いっ!」

「同じ中学の久坂夏美と、こっちが同じ高校の月城加奈さん」


 藤に手を振る月城と、小さくどうもとだけ言う夏美。そして脛を抑える藤。すまん。


「こっちの彼は空くんのお友達?」

「親友の藤竜太です」


 おい勝手に自分を格上げするな。


「ってことは……なるほどね、三人は地元一緒なんだ。どの辺?」


 さすがの理解力を発揮する藤。


「新幹線で数時間ぐらいかな。私は親の転勤で高校からだから地元感ないけど」

「なるほどねぇ。ちなみに二人は何学部?」


 藤は月城の話に頷いてから、当たり障りのない質問を投げかけた。


「私と夏美は教育学部で、部活も一緒なんだよね。そっちは?」


 丁寧に受け答える月城と、無言で大盛りのカレーをばくばくと食べ始める夏美。ちなみに月城も大盛りのかつ丼を結構な速さで食べている。さすが運動部。


「「経済」」

「すご、二人とも息ぴったりじゃん。文系なら授業被ったりするのかな?」

「ああ、それなら——」


 藤はノートPCを取り出し、月城に開いて見せる。履修関係でも見せているのだろう……ところで藤、いつPCのカバー外した?


「よかったじゃん、友達できて」

「そっちは大変そうだな、お友達になりたい奴が寄ってきて」


 夏美が小声で話しかけてくるので、こっちも小声で返す。


「あ、ご飯粒ついてる」

「どっち?」

「そっちじゃないって」


 俺が右側を触るも、取れない。夏美がティッシュを取り出し、左側を取ってくれる。


「加奈は可愛いからね。二人でいるとかなり声かけられるの。もう何回目か忘れちゃった」

「夏美も可愛いだろ」


 どう考えても声をかけられる原因は月城だけじゃないだろうに。鏡見ろよ鏡を。


「……別に、空に言われても嬉しくないから」

「そりゃ失礼しました」


 そっぽを向いて答える夏美と、肩を竦めて見せる俺。会話はそこで途切れて、無言でカレーを食べ続ける。


「そ、そうだ! せっかくだし連絡先交換しようよ」


 一番早く食べ終わった月城が、ぱんと両手を叩いて提案する。


「私、空くんの連絡先知らなかったんだよね。みんなはSNSのアカウント持ってる?」


 各々がスマホを取り出し、順番に連絡先を交換していった。


「夏美、空くんの連絡先は?」

「もう知ってる」

「ほぉーーーーーーーーん……」


 何気なく答えた夏美を、月城が凄い目で見ている。美人が台無しである。




「じゃあ、そろそろ行こうか夏美。助けてくれてありがとね」


 食事を終えた月城と夏美は自分達のトレイを持って、その場を後にした。小さくなる後姿を藤はしみじみと眺めていた。


「あんな美人と連絡先を交換できるなんてな。お前と親友でよかったわ」

「安い親友だな」

「で、なんで月城さんに隠し事してんの? 幼馴染って説明するの、そんなにマズいのか?」

「夏美がそうしたからなぁ」


 おそらく俺との関係を月城に探られたくないのだろう。既に疑われている気はするが。


「ふーん……まぁお前らイチャついてる時に、月城さんめちゃくちゃ気にしてたけどな」

「イチャついてないぞ」


 ……イチャついてないよな?


「ん? なんで月城が気にしてたのを藤が知ってるんだよ。会話なんてなかっただろ」

「ん」


 無言でPCの画面を向ける藤。写っているのはただのメモ帳で、中身はこうだ。


『この二人、私に隠し事してる気がするんだよね。ほら見てよ。距離感ヤバくない? うわほっぺの米粒取ったよ』

『見せつけてきますねこいつら』

『中学校同じだからってこうはならないよね普通、ってちょっと今空くん夏美に可愛いって言わなかった!?』

『言ったね……うお生ツンデレだ! すげぇ初めて見た!』

『うわぁ夏美の表情ヤバ……! 女通り越してメスじゃんこれ!』


 なんか二人でPC弄ってると思ったらさぁ。


「な?」

「何実況してんだよ」


 しかも滅茶苦茶楽しそうじゃないか、主に月城が。


「二人が幼馴染だってのは書かなかったからな」

「助かるよ」

「で、隠し事って? オレとしては、幼馴染以外の何かがある気がするんだけど」

「……ノーコメントで」


 それはもう何かあったのと同義だと思ったが。


「ほうほう、それを追及しないでやるから」


 藤の要求は初めから一つだったことを思い出し。


「……元祖アニメ研究会に入ればいいんだな?」


 交換条件として、俺は全然興味のない元祖アニメ研究会に所属する羽目になった。




◇◇ ◇




「よし、一年集合!」


 練習の後、キャプテンに呼ばれ体育館を走る。朝練して五限まで講義を受けて、その後また練習——正直言って、ハードだ。


 けれど、その厳しさが心地よかった。大学でも本気でスポーツに打ち込みたいなんて人はそんなに多くない。ただバスケがしたいだけなら、緩いサークルに入ったらいい。わざわざ部活を選んだみんなは、必然的に真剣だ。


「インカレが近く、あまり構ってやれなくてすまない。だが今年はやる気に満ちた奴に溢れていて嬉しいぞ」


 インカレ。四月の終わりごろから始まる、大学同士の大会だ。インターハイスクールならぬ、インターカレッジ。他の大学の生徒も入れるサークルをインカレサークルと呼んだりするので、ちょっとややこしい。


 あたしも加奈も、インカレのメンバーには選ばれなかった。実力不足、でもそれがいい。それがわかるだけの環境に、あたしはいる。


 あたしたちの焦点は五月の新人戦。あれだけ悔しい思いをさせられた加奈と一緒に戦える。それが嬉しい。


 他のことに気を取られている場合じゃない——


「だが明日は」


 ——のだけれど。


「練習が終わったら、新人歓迎会だからな! 全員好きなだけ食えよ、財布は持って来なくていいからな!」


 わぁっと歓声が上がる。息抜きは必要だよね、うん。


「未成年は、飲むなよ!」


 最後にキャプテンが付け加える。だがその心配はしていない。なにせあたしは匂いだけで眠くなるぐらい、お酒に弱いのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ