第九話 ウンタラカンタラフラペチーノ
看板から少し離れて、三人で立ち話を始めることに。
「むしろ夏美と空くんが知り合いなのが驚きなんだけど。どういう関係?」
「あー、お」
「同じ中学出身なの! ね!」
さななじみ、という単語がかき消される。うん、ここは夏美に任せようか。
「下の名前で呼んでるよね、結構仲良かったの?」
「それは……」
鋭い、名探偵か? バレてるか結構どころじゃなかったの。
「俺達の中学校、二クラスしかなかったからさ。結構名前で呼ぶの多かったんだよ。だよな、夏美」
すんなりと回る自分の口に驚きを禁じ得ない。いけるか、信じるか?
「そ、そうそう! 苗字で呼んでたら馬鹿にされたっていうか~」
なんだそのふざけた中学。もう少しやる気出してくださいよ久坂さん。
「へぇーそうなんだー」
良かった、信じた、表面上は。まだ何か疑われている気がするが黙っておこう。
「ねぇ、二人はこの後時間ある? せっかく地元同士で集まれたんだし、ご飯でも行かない?」
「あ、あたし部活が」
「今日無いよね?」
はい久坂夏美選手失点です。やる気あるの? どけ俺が誤魔化し選手権の手本を見せてやる。
「あー、そんなにお腹減ってない、かな」
どうだ夏美、お前にこの自然な会話ができるか? ん?
「じゃあ喫茶店にしよっか」
「はい」
はい。
「近くは混んでそうだから、ちょっと歩いてもいい? あ、新作のフラペチーノ出てるって! いこいこっ!」
鼻息を荒くして、その場で走るそぶりを見せる月城。諦めた顔をした俺達は、その後をついていくことにした。
「……ついてこないでよ」
「仕方ないだろ誘われたんだから。断ったほうが不自然だろ」
もっとも夏美はご機嫌ななめの様子だが。
「加奈のこと、なんでフッたの?」
小声で夏美が尋ねてくる。その理由を答えたいところだが。
「……記憶が操作されている可能性がある」
本気で記憶にないんだよな。
「そ」
良かった納得してくれたか。
「帰ったら、教えてもらうから」
なわけないよね、はい。
◆◆ ◆
大学から少し離れたコーヒーチェーンに、なんとか席を見つけた俺達三人。各々の飲み物を受け取ったので、早速気になったことを聞いてみた。
「夏美と月城って仲良かったんだ。高校別なのに」
「いうなれば私達は……ライバル、だね」
指をL字にして顎にあてる月城。シャキーンって音が聞こえてきそうだ。
「まぁ、そんな感じ。あたしらの代、北高と萩女子が強くてね。全国出場かけて争ってたの」
「強かったんだ、北高」
あまり覚えてないからな、高校のころは。
「主に加奈のせいでね」
「一年の夏からレギュラーだからね」
「凄いよね、あたしが試合に出たの、一年の冬からだったからなぁ」
それも知らなかった。
「で、一年の冬の決勝で……やっぱり北高が勝ちました」
「あの時あたしがシュート決めれたらなー」
新作らしいフラペチーノを啜りながら、夏美が昔を懐かしむ。
「それでもう夏美にすっごく睨まれちゃってさ。殺されるかと思ったら、練習方法とか聞いてきて」
「悔しそうな顔で?」
「死ぬほど悔しそうな顔してた」
夏美に思いっきり睨まれる。だが夏美の死ぬほど悔しそうな顔が想像できるから仕方ない。
「そこから連絡取るうちに仲良くなって。二年の時は、お互い調子悪くて当たらなかったんだけど……最後の三年だけは」
「萩女子の勝ち。佐伯監督を全国に連れて行くの、あたしたちの目標だったから」
佐伯監督……ああ、病室で何回か会ったな。あの人か。
「悔しかったなー、あの時。スポーツで負けて初めて泣いたもん」
今度は月城が悔しそうな顔をする。夏美は佐伯監督との約束を、最後の年にして果たしたらしい。
「その県大会の決勝を赤大の人がたまたま見てたんだよね。あたしと加奈を誘ってくれたんだ。そしてこの春からチームメイトってわけ」
「ま、私は夏美と違って一般入試だけどねーっ。しかも特待生」
「じゃあ夏美の負け越し? 三対一で」
最後の最後で学力で負けてるじゃん。
「あ、今スポーツ推薦を負けにカウントしたでしょ」
「え? 俺も一般入試だからなぁーっ」
「ねぇ空、次の練習遊びに来てよ。スポーツ推薦の先輩たちと一緒に的にして遊ぶから」
「数の暴力はズルいだろ。ていうか馬鹿にしたのは夏美であってスポーツ推薦ではないから」
「へぇ言うじゃん。ねぇ加奈、こいつにボールぶつけるの手伝ってよ」
「え?」
困った顔をする月城。そりゃいきなり夏美のストレス解消に付き合わされたらな。
「ほら月城困ってるって。悪事に加担させるなよ」
「あーいや」
月城が俺達の顔を見比べる。
「夏美、空くんに容赦ないなーなって」
「空が変なこと言うからだって」
「ふぅーん」
本当、もう少し俺に優しくして欲しい。一息ついてコーヒーを飲もうとした瞬間、スマホがブルブルと震えだす。
「あ、母さんからだ」
『もしもし空? 今日入学式って聞いたけど、入学祝届いた? あ、ていうか夏美ちゃんとの同棲』
急いで電話を切る。月城の顔をじっと見る。うん、致命的な一言は聞かれてないっぽいな。さすがに中学の同級生って嘘ついているのに、ルームシェアがバレるのはまずいだろう。
「と、東京って電波悪いんだね」
もう一度スマホが震える。このまま二人を電話で待たせるのも変だよな、うん。いいタイミングか。
「俺、そろそろ帰るわ。母さんに電話しなきゃならないし。月城と話せて良かったよ」
「あ、うん」
きょとんとした顔で月城が俺のことを見てくる。
「何か変だった?」
「空くん、明るくなったなって」
「……そうかもね」
そこは否定できない。
「空くん、改めて四年間よろしくね」
「こちらこそ」
震えるスマホから圧を感じるので、急いで店を後にする。
「でさ加奈、今度の練習なんだけど——」
一応後ろを気にしてみると、二人が部活談義に花を咲かせていた。俺も何かサークル入るかなぁ。
◇◇ ◇
「ねぇ夏美……さっきまで喋ってたの、桜庭空くんだよね。北高出身の」
部活の話を一通り終えた加奈が、あたしに尋ねる。正直その話は聞きたかった。空が加奈をフッた? 本当に?
「何当たり前のこと言ってんの?」
同姓同名、ないない。どっちの名前もそこまで多くないでしょ。
「私が知る空くんとは……ほとんど別人だったから」




