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帰還(2)


 わたしの頭を撫でながら、彼は扉に目を向ける。わたしもつられてそちらを見ると、扉が勢いよく開かれた。


「シェルミカ!!」


 眩い金色の髪を揺らしながら扉を開けたのは、シェンド様だ。彼はその紅い瞳でわたしを捉えると、にこりと明るい笑みを浮かべる。


「目が覚めたんだな、良かった」

「騒々しいですよ。扉は優しく開けろと何度言えば分かるのですか」

「はいはい気を付けますよ。それよりシェミ、無事で何よりだ。事の詳細をこいつから聞いた時には驚いたよ。力になれなくてすまなかった。……幼い頃のシェミは愛らしかったが、やはり今の方が俺好みだな」


 そう言って、シェンド様は優しい手つきでわたしの髪に触れる。隣に立っていたユイナート様が笑みを深めたのを見て、彼は大きな息を吐いた。


「怖い顔すんなよ。俺だって久しくシェミに会ったんだ。愛でることくらい許してくれよ。……そのそも何でお前の許可が必要なんだ」

「何を今更。シェルミカが僕のものだからに決まっているでしょう」

「お前な……」


 いつものユイナート様とシェンド様だ。ユイナート様の言葉は置いておいて、日常に戻ってきたように思えて安心する。解決しなくてはならない問題は多く残っていたとしても、一旦は落ち着いたのだろうか。

 ユイナート様は完璧な微笑みを浮かべながらわたしに目を向ける。


「シェミ。貴女に渡したいものがあるのです」


 そう言って、彼は懐に手を入れた。何だろうと思いながら彼の動きを見つめていると、彼の懐から何かが落ちた。じゃらり、と音が鳴る。落ちたものを目で追うと、それは手錠だった。


 ……手錠。何故ユイナート様は、手錠を持っているのか。


「ユイト、それは何に使う予定なんだ?」

「念のために持っているだけですよ。気にしないでください」


 シェンド様の問いかけに対してユイナート様は簡単に答え、落とした手錠を拾って何事もなかったかのように懐の中に戻した。しかし当然、わたしたちは何事もなかったかのように振る舞うことはできない。


「気にするなと言われても気になるだろう。お前は今までシェミに錠を付けていた前科があるからな。まだ同じことをしでかすんじゃないかと思ってな」

「…………」

「まあ、流石にな?」

「…………ええ」


 ユイナート様の思考時間が、彼の本音を物語っているようである。シェンド様は呆れたように首を振った。


「お前みたいな男はそう簡単には変われないか。だがな、王太子が好きな女を監禁していると知られたら大変なことになるぞ」

「知られても構いませんよ。誰に何を言われようと、僕が決めたことですから。それに、可愛い娘を閉じ込めたいと思うことは当然ではないのですか?」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「手の届く場所に置いておかないと、自分の知らない場所で知らない男に奪われるかもしれないのですよ。そうならないように手を打つ必要があるではありませんか」

「お前の言い分は変わる。だがな……」

「僕以外の人間が彼女に関わらないようにすることもできたのです。貴女には僕しかいないと言い聞かせて実感させて、僕にすべてを依存させるという考えもありましたよ」

「……お前さあ」


 ユイナート様は懐から手錠を取り出し、それを片手で弄り始めた。


「これを付けていた方が逃げられる心配は薄れますし、何より僕のものだと一目で分かるので安心します。あの男(セシリオ)には破壊されましたが、改良したので僕以外が外すことは不可能になりましたよ。それに、この鎖は消すこともできます。手首の飾りとしても使える優れものですよ」

「そういうことではなくてな」

「本音を言えば、首輪をつけて鎖で繋いで、常に僕の傍にいてほしかった。それでも我慢したので、褒めてほしいくらいですよ」

「褒める部分がないが?」


 誰かユイナート様を止めることができる人はいないだろうか。わたしの頭は一週間眠っていた影響か、あるいは彼の言葉を理解してくないのか、ちゃんと働いてくれない。ただぼんやりと彼の手の動きを見ていることしかできないのだ。


「いいか。心配ならな、強硬手段を取るのではなく、お前自身が努力して堕とす方が効果的だ。身体を縛るのではなく、心を手に入れろ」

「身体を堕とした方が早いではないですか」

「俺が言いたいのはそういうことではない! はぁ、どこでお前はこんなに歪んだんだ。ミハイルめ、ちゃんと指導しておいてくれよ」

「これは失礼致しました。確かに、ユイナート殿下が歪んだのは私の責任でもありますね」


 突如、ユイナート様とシェンド様ではない声が聞こえてきた。いつの間にいらっしゃったのだろうか、開けられた扉の前にミハイル様が立っている。彼の奥には、深い青髪と黒髪の人……トア様とカイト様だ。白様、ニーナ様も集まっている。わたしが会いたいと思った人たちがこんなにも。

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