帰還(3)
ユイナート様は、それはそれは良い笑みを浮かべてミハイル様に目を向けた。
「そうですね。貴方の責任です。それよりも、何故ここに貴方がいるのですか? 他の者達も引き連れて……」
「シェルミカ様に会わせてくださると仰ったのはユイナート殿下ではありませんか。皆、彼女に会いたい気持ちが強いのですよ。シェルミカ様のお身体の調子も診た方がよろしいでしょう?」
ミハイル様はユイナート様の恐ろしい笑顔に一切臆することなく穏やかな笑みを浮かべながら、わたしの側まで歩いてくる。彼はわたしと目を合わせると、深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、シェルミカ様。貴女様が拐かされた時にお力になれなくて申し訳ありませんでした」
「い、いえ! ミハイル様は何も悪くありません」
本当に、彼は一切悪くない。セシリオ様に半分洗脳されていたとはいえ、出ていくことを決めたのはわたしで行動したのもわたしだ。途中で彼に会った後、どのように彼から逃れたのか覚えていない。もしかしたら、彼の方が何らかの攻撃を受けていた可能性だってある。
そして、ユイナート様が歪んだのはミハイル様の責任だというお話が気になる。確かにユイナート様とミハイル様には通ずる部分があり、過去の世界に行った時の彼は既にユイナート様と親しそうな関係だった。元々ユイナート様は無表情で無感情な少年だったけれど、今は常に微笑を浮かべていらっしゃる好青年である(実際にそうかは置いておいて)。そうなる過程で、ミハイル様が関わっているのかもしれない。
「余計なことを考えなくとも良いのです。それに、僕がこうなった一番の原因は、貴女なのですよ? 貴女が僕を狂わせた」
手で目を覆われたかと思ったら、耳元でそう囁かれた。当然のように思考が読まれているし、それに……わたしが彼を狂わせた、とは? すべての過去を思い出せたわけではないのだけれど、昔のわたしが彼を狂わせるような何かをしてしまったのだろうか。
「ミハイル、シェルミカに精神作用が少しでも残っていないかを確認してください」
「承知致しました、殿下。シェルミカ様、失礼致します」
視界が解放され、ミハイル様と目が合う。彼は優しく微笑むと、わたしの瞳を覗き込むように顔を近づけてきた。
「……問題はないようですね。魔力の流れに異常はありません。気になることを挙げるのであれば、奇妙な力が混ざっていることですが……これが神力なのでしょうか。害はなさそうですね。寧ろシェルミカ様を護っているようにも思えます」
「神力が、シェミを護っている?」
「ええ。私は一般人なので神力について詳しくは分かりませんが、見る限りはそのように見えますね」
シェンド様の問いに頷きながら、ミハイル様はそう言った。神力がわたしを護っていると言われて心当たりがあるとするならば、黒様とのあれだ。わたしが熱に呑まれそうになった時に、彼が助けてくださった。教皇様に捕まっている間の話を、ユイナート様たちと共有しておく必要はあるかもしれない。それよりも先に、わたしが眠っている間に何があったのかを詳しく知りたい。
そう思ってはいるが、もっと先にやりたいことはある。そう思い、わたしはミハイル様の後方に目を向けた。
「申し訳ありません、人が多くて落ち着かないですよね。彼らはシェルミカ様のご無事を確認しないと気が済まない者達です。後でゆっくりとお話をしてあげてください」
カイト様と目が合うと、にこりと微笑んでくださる。トア様とカイト様、ご無事でよかった。しかし彼らの姿を見えなくするように、ユイナート様がわたしの顔を覗き込む。
「神力については気になりますが、問題がないならばよかったです。……さて、先に皆と話がしたいか、それとも他に聞きたいことはありますか?」
悩ましい二択。お話をしつつ、何があったのかを聞いていきたい。




