帰還(1)
セシリオ様と別れた後のことは覚えていない。すぐに気を失ってしまったのだ。
目を開けた時には、見覚えのある天井が視界に広がっていた。そう、見覚えのある天井が。
「……ここは」
身体を起こして辺りを見る。わたしが今いるベッドの感触、そして窓のない部屋。間違いない。わたしがユイナート様によって閉じ込められていた部屋だ。ここは、寝室だろう。
手を持ち上げて手首を確認した。手錠は付けられていない。ひとまずは安心だ。
ベッドから降りて、立ち上がる。身体の倦怠感はなくなり、自分の足で立てるようになっている。とりあえず、寝室の扉を開けてみた。扉の向こうに広がるのは、見慣れた部屋である。
いつもなら椅子に座って人が来るのを待つのだけれど、今は待つ時間が惜しい。いつの間にアルテアラ王国に戻っていたのかが気になる。
部屋の扉を確かめてみると、鍵はかかっていないことが分かった。無断で部屋を出ることには抵抗があるけれど、今のユイナート様と前までのユイナート様は違う。だから、大丈夫なはずだ。
心を決めて扉に手を添えたその時。わたしが開けるよりも先に、扉が開いた。
突然のことだったので、驚いた勢いのまま数歩下がる。部屋に入ってきたのは、純白のローブを羽織った、顔を隠している人。
「お目覚めになられたのですか、姫様」
顔が見えなくても、声から女性であると判断できる。それよりも、この声の人は……。
「白様、ですか?」
「はい」
わたしの問いに、彼女は簡潔に答えた。彼女が白様だということは分かるけれど、どうして彼女がここに? 実はこの場所は、アルテアラ王国ではないのだろうか。
わたしの疑問が顔に出ていたのか、白様が軽く説明をしてくださった。
「私は姫様のお世話を申しつかりました。冒涜者……アルテアラ王国の王太子殿下からも容認を得ております」
「ユイナート様が……」
ここでユイナート様の名前が出てくるということは、やっぱりここはアルテアラ王国なんだ。記憶は曖昧だけれど、彼女らの組織とユイナート様は敵対関係にあったと認識している。関係性が改善されたのだろうか。それに、白様がここにいらっしゃるということは、セシリオ様も……?
「お身体の調子はいかがですか。姫様は一週間もの間、お眠りになっていらっしゃったのです」
「一週間も……?」
「その間に様々な事がありましたが、今ではそのほとんどが収束しています。私は一先ず、姫様がお目覚めになられたことを王太子殿下にご報告して参ります。少々お待ちください」
白様は頭を下げて、部屋を出ていった。残されたわたしの頭の中はぐるぐるである。最近、色んなことが起こりすぎて思考が爆発してしまいそうだ。
とりあえず、椅子に座ってゆっくりと深呼吸をしよう。そしてゆっくりと考えよう。
そう思って目を瞑っていると、再び扉が開かれる音が聞こえた。
「シェルミカ! よかった、目を覚ましてくれたのですね……」
ユイナート様だ。彼はわたしを見て相好を崩すと、わたしを強く抱きしめた。
「この一週間、生きた心地がしませんでした。神に何かされていたのではないかと恐ろしくて……。本当によかった」
力が強くて少し苦しいけれど、それだけ彼が心配してくださったのだと思うと、心が温かくなる。わたしはなんとか腕を動かして、そっと彼の背中に回した。
「僕を誘わないでください。このままだと、貴女を襲ってしまいそうです」
彼はわたしの首筋に顔を埋めると、そのまま深く息を吸った。たくさん聞きたいことがあるのだけれど、わたしから何かを言いだせるような雰囲気ではない。とりあぜず、彼の気が済むまで黙って抱きしめられることにした。
「何が起こったのか、ゆっくりと説明をします。その前に、貴女に会いたいという者が多くいるのですよ。その者達に会わせないと、後々に面倒なので先に済ませます」
ユイナート様は、わたしと目を合わせて微笑みながらそう言った。わたしに会いたい人。会いたいと思ってくれる人がいることは嬉しい。わたしも、会いたい人がたくさんいる。




